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障害者の大量解雇(下) 出口有紀(生活部)

閉鎖した就労継続支援A型事業所(一部画像処理)

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 障害ゆえに働く場所を得られない、あるいは、会社勤めをしていたがうつなどになって働けなくなった人たちの「受け皿」としての機能を託されたはずの「就労継続支援A型事業所(A型)」。だが、その制度の趣旨がゆがめられ、国の給付金を“うまみ”にした「もうけ主義」が一部ではびこっている−。取材を進めると、そんなおかしな実態が見えてきた。

◆「支援A型」を悪用

 経営が行き詰まった株式会社「障がい者支援機構」(名古屋市北区)が運営するA型「パドマ」など愛知県の事業所で約六十人、全国で計約百五十人の障害者が解雇された問題。厚生労働省の担当者は、同社以外でも「いろいろ報告は上がっている」と一部のゆがんだ現場の実態を認めた。

 「A型の中には、軽作業をして、ただいてもらうだけで、最低賃金を払っているところがある。本来はしっかりした仕事をしてもらって、利用者の能力を上げてもらうのが趣旨だが、給付金や特開金(特定求職者雇用開発助成金)を活用した変なビジネスモデルの事業所が出てきた」

 手厚い補助を悪用する業者がはびこっているというのだ。

 雇用する障害者一人に対し、事業者は一日約五千円、一カ月二十日勤務で計算すると年約百二十万円の「給付金」が国から支給される。それとは別に、重い障害のある就職困難者を雇用すると一人当たり、最長当初の三年間限定で最大年八十万円の「特開金」も入る。つまり、毎月七万〜八万円の給与を支払っても、「給付金」と「特開金」を合わせると、年百万円程度が事業者の手元に残ることになる。それを当て込み、まともな事業をしない業者があるようだ。

 A型の制度がスタートした五年後の二〇一一年に、その一端がすでに表面化していた。この「差額」に目を付けた愛知県の会社がA型の事業者に対し「仕事がなくても、勤務時間が短ければ、給付金から障害者の時給を払っても、手元に残る」などと説明し、運営のノウハウを教えるコンサル料として最高で一千万円超の加盟料や月数十万円の事務代行手数料を請求するビジネスを展開していた。

 「給料が入っていません」

 「パドマ」の事務職員は七月末、出勤してきた従業員たちの訴えに耳を疑った。一三年に開設されて四年。ほどなく、経営者の男性から届いたメールに、今度は目を疑った。「万策尽きた」

 八月一日、市の指示で開いた従業員への説明会で男性社長は「給付金で利用者の給料を払うなという行政の指導だったが、ほとんど給付金で払っていた」と告白。事業資金が底をつき「融資を銀行に頼んだが、二つの銀行に『融資は不可能』と言われた」と説明し、その後は連絡がつかなくなった。

 関係者によると、男性社長は以前、障害者の就業や生活を支援する事業所で働いていたが、A型の運営に自ら乗りだし、愛知、埼玉、千葉各県、大阪府の計六カ所での展開へと拡大。昨年末ごろから給料を遅配するようになっていた。

 パドマでの業務内容は「物品の仕分け、シール貼り、印字消し、靴下や帽子を箱に入れるなど内職的な軽作業」「とても最低賃金は出ない。一カ月作業をしても二万〜三万円程度では」(従業員)。収益を上げられる業務探しに労力をかけないまま、給付金と特開金を元手に安易に事業を拡大し、行き詰まったとみられる。

 〇六年の障害者自立支援法(現・障害者総合支援法)施行に伴ってできたA型の制度では、それまで社会福祉法人などに限定されていた事業者を、民間企業にも認めた。それは、民間企業の能力を活用して「障害者の雇用で利益を生む」という難題をクリアする狙いもあったはず。だが、福祉の理念を欠いた“悪徳業者”や“素人経営者”の参入を招いてしまったのが実情だ。

 厚労省によると、一三年(四月)に全国で約千六百カ所だったA型の事業所は、一七年(同)に約三千六百カ所で倍増以上の勢い。その半数が営利法人だ。「最低賃金を出せないA型でも、頑張っているところもある」(同省)という中で、事業者をどう選別するのか。

◆野放し参入、改善を

 障害者の雇用問題に詳しい松井亮輔法政大名誉教授(78)は「参入時のチェックも参入後の監視もないまま企業の参入が進んでしまったのが現状。改善を急ぐ必要がある」と指摘する。

 巨額の税金が注がれ、解雇、給与の未払い、という最悪の事態を招きながら、倒産した会社には、行政の立ち入り検査も経営実態の調査も行われていない。全国で年間九千億円の税が注がれている公的事業の実態解明と、改善を急ぐべきだ。

 

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