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名駅に押される栄地区 石原猛(経済部)

松坂屋名古屋店(手前左側)と名古屋三越栄店(同右端)が並ぶ栄地区と、JRゲートタワー完成で活気づく名古屋駅地区(後方)=名古屋市中区で、本社ヘリ「おおづる」から

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 千葉県の田舎町で生まれ育った私にとって、名古屋は未知の場所だった。“初上陸”したのは、学生生活を京都で送っていた十八歳の夏。その時の体験が、私の「名古屋観」に、今も大きく影響している。

 当時所属していたサークルの恒例行事として訪れたのは、名古屋市昭和区にある「喫茶マウンテン」。奇抜なメニューが話題を呼び、インターネットなどではカルト的な人気を誇る。

 「甘口抹茶小倉スパ」「ピカンテピラフ激辛」−。味が想像できない数々のメニューを注文し、店の名前に引っかけて「登頂できた(完食した)」「遭難だ〜(食べきれなかった)」などと言い合った。十年が過ぎた今でも、数十人の後輩たちが毎年、レンタカーで京都から来ていると聞く。

 大須の雑貨店「水曜日のアリス」も、全国のファンたちの支持を集める。大人一人が何とか通れる入り口をくぐると、童話の「不思議の国のアリス」の世界が店内に広がる。物語のキャラクターなどをイメージしたアクセサリーや小物を求めて、全国各地から若い女性たちが来るそうだ。

◆独自性こそ魅力

 今では全国で知られる「なごやめし」も、「豚カツに八丁みそ」「おにぎりにエビ天」と、他地域では思いつかない食べ物の組み合わせだ。私にとって名古屋の魅力とは、「よそではお目にかかれない、おもしろいものに出合えること」だと感じている。

 ここ数年、名古屋で最も活気のあるスポットは名古屋駅(名駅)だろう。

 一九九〇年代後半から二百メートル級のビルが建ち始め、二〇一五年秋からの二年半で、大名古屋ビルヂング、JPタワー名古屋、JRゲートタワーの三棟が次々とオープンした。旧来の中心地である栄地区は、この十年来、目立った再開発は行われておらず対照的な状況だ。〇八年の路線価では、名古屋市内の最高価格の地点が、栄から名駅に移った。今年五月には、百貨店の売上高で、名駅が栄を初めて逆転し、衝撃が走った。

 名駅が栄を追い抜き、突き放す流れを「当然の結果」とみるのは名古屋学院大の江口忍教授(地域経済)。JR、私鉄、地下鉄の各路線が集中し、東海三県に住む千百万人にとってアクセスしやすいのが名駅だ。地下鉄と名鉄瀬戸線だけが乗り入れる栄と比べ、立地が圧倒的に良い。

 さらに言えば、名駅は名古屋を発祥としない「外資」の力で発展した街でもある。再開発の先駆けとなった九九年完成のJRセントラルタワーズは、旧国鉄のJR東海が建設した。トヨタ自動車や三菱地所、日本郵政などが後に続き、名古屋市外の企業が名駅開発の主役となった。江口教授は「『中心地は栄』という名古屋人の発想では、名駅の開発は進まなかっただろう。今や、その名古屋人の意識が、変わりつつある」と解説する。

◆まるで「小東京」

 「東海地方に初進出!」「東京の名店が名古屋にも」−。名駅地区に新たに誕生した商業施設のプレスリリースで、何度となく、この文言を見掛けた。新設のレストラン街の行列客にインタビューすると、「東京に行かなくても食べられる」と笑顔で答えてくれた。

 だが、そこに名古屋らしさは、ほとんど感じられない。「外資」が開発した街だから、当然ともいえる。名駅前のシンプルで洗練されたビル群を、どこか「小さな東京」のように感じるのは私だけだろうか。

 二七年にリニア中央新幹線が開通すると、東京・品川−名古屋間は四十分で結ばれる。名駅からの所要時間で単純に比べると、中央線で言えば多治見駅くらいの距離感だ。東京と名古屋は、一つの巨大な経済圏になる。これまで以上に、名古屋の独自性を発揮できないと、まち全体の引力を失いかねない。

 冒頭に紹介した「喫茶マウンテン」や「水曜日のアリス」のように、全国から人を引きつける発想が名古屋にはある。全国のどこに行っても体験できないことが、内外から人を呼び込むポイントになる。ミニ東京の名駅を抜ければ、そこは世界のどこにもない、驚きと未知との出合いにあふれた街。名駅に取り残されつつある栄の活路は、この「脱・東京化」にあるのではないか。

 高層ビルが立ち並ぶ垂直移動の名駅に対し、栄は、水平移動を楽しめることが特長だ。買い物や食事を楽しみながら街歩きができる。名古屋らしさをブラブラと歩いて体験できることは、大きなメリットになる。

 東海地方出身の三菱UFJリサーチ&コンサルティング主席研究員、加藤義人さんは「名駅と栄で横綱相撲を繰り広げてこそ、まちの魅力は高まる」と訴える。今後の紙面で、栄地区のポテンシャルや課題を浮き彫りにするつもりだ。

 

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