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外国人実習生に頼る岐阜アパレル 木下大資(蒲郡通信局=前岐阜報道部)

実習生が使ったミシンが残る縫製工場=岐阜県内で

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 岐阜県内で縫製会社を営むその社長は、いかにも人の良さそうな中年男性に見えた。だが昨年、ベトナム人の技能実習生らを違法な低賃金で働かせたとして、労働基準監督署に摘発されたばかりという。

 「あの(実習)制度を使い続けたことを反省してます。このままではだめだと思いながら、抜け出せなかった…」。率直な言葉で取材に応じる様子は「実習生を搾取する経営者」のイメージとかけ離れていて、私は拍子抜けした。

◆安い海外製品と競争

 安価な海外製品との競争が激しい繊維産業。アパレルメーカーの下請けの縫製会社が多い岐阜県では、経営に苦しむ業者が多い。こんな普通の人が、実習生の不当労働に手を染めていたのかと、現実の厳しさを感じた。

 主にブラウス、ワンピースなどの婦人服を手掛けてきた彼の会社は、父親が社長だった約二十年前から、中国人の実習生を使っていた。一九九〇年代からアパレルの海外移転が加速し、国内の縫製業者が受け取る工賃は低いまま。「実習生のおかげで食いつないできた」と振り返る。

 実習生の給料は六万円の基本給と、時給四百〜五百円程度の残業代の組み合わせ。月百五十時間の残業でようやく岐阜県の最低賃金レベルになる計算だ。外国人技能実習生も法律上は日本人と同じ「労働者」として扱われるので、もちろん違法だが、岐阜の縫製業界ではこんな賃金体系が珍しくなかった。

 ただ、それで会社が潤ったわけではない。末端の下請けが手にする工賃は、商品の店頭価格の約一割。彼の会社では「十二時間働かせて、やっと一人一万円の売り上げができるかどうか」だった。同県の最低賃金は現在、一時間当たり七百七十六円。実習生の受け入れには、手続きを担う監理団体に月数万円の監理費を納める必要もある。つまり、実習生に正規の賃金を払っていては、経営が成り立たないのだ。「安い残業代で長時間働いてもらうやり方しか、むりでした」

 社長の彼自身も毎晩、実習生らの面倒を見るため長時間働いた。「こっちが法を守れていない弱みがある。あの子たちの仕事に付き合わされる感じが、嫌で嫌で」。結局、未払い賃金を清算するため会社は破産。男性は今後、実習生に頼らずに縫製の仕事を続けるつもりだ。以前のような薄利で量をこなす仕事では採算が取れないので、「見本縫い」など単価の高い仕事だけを請けようと決めている。

 実習生に縫わせていた時とは違い、自らもミシンを踏み、高齢の母親と二人だけで再出発した。日本人の従業員を募集しても、すぐには集まらない。昔は十人ほどの日本人を雇っていたが、残業をいとわない実習生に切り替えるため、辞めてもらった経緯がある。

 ここに、岐阜の縫製業界が抱える大きな問題がある。建前上は「日本の優れた技術を途上国に移転する」ための実習制度だが、現実にはほとんどの実習生が「出稼ぎ」の感覚で来日する。企業の側も、工賃が低く日本人の若者が集まらない中で、安定的に確保できる「労働力」として実習生を利用してきた。

 だが実習生はどんなに技術が上達しても、三年で帰国させなければいけない。九三年に制度が始まって二十年余り。日本人を育てる余裕がないまま、実習生に依存してきた結果、産地を支えていた高度な技術力の継承は後手に回った。岐阜アパレルの全盛期を担った技術者は高齢になり、モノづくりの基盤が失われつつある。

 昨今の労働力不足を補うため、外国人を積極的に受け入れるべきだという議論がある。だが、結局は産地に根付かない外国人の力を借りて、本当に未来を描けるのか。実習制度の改正で十一月からは一定の条件を満たせば最長五年の受け入れが可能になるが、制度の本質は変わらない。企業は人材不足を埋めるための急場しのぎではなく、ビジョンを持って実習生の受け入れを判断するべきだろう。

◆現状打開へ業界努力

 男性の工場の壁に、私が書いた本紙岐阜県版の切り抜きが張ってあった。縫製の業界団体が、日本人の若手向けの育成講座を始めることを報じた記事。国内生産ならではの技術力を磨くことで産地のブランド力を高めようとする同業者らの動きに、彼も注目しているのが分かった。

 違法に働かせていた実習生がいなくなり、男性は「気持ちが楽になった」という。「今は自分のスキルを上げて、いい物を作りたい。以前のような売り上げはないけど、一枚のサンプルを縫うのって楽しいですから」。つき物の落ちたような顔で笑った。

 

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