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西山美香受刑者の手紙2(4)再現ビデオ 角雄記(大津支局)

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 ナースステーション(NS)。腰高のカウンターに囲まれ、オープンに見渡せる病棟中央の看護師たちの詰め所のことだ。確定判決によると、犯行現場はNSのすぐ前の病室だった。

 枕の上の蛍光灯でベッド周りは明るかった。入り口のドア、室内のカーテンはすべて全開で、人工呼吸器の管を抜いて消音ボタンを押し、患者の窒息死を待つ犯人の様子は廊下から丸見えの状況だ。病室には、死亡した患者以外に二人の同室者がいた。病棟には当夜、看護助手(資格不要)の西山美香受刑者(37)=滋賀県彦根市出身、殺人罪で懲役十二年、来月二十三日に刑期満了、再審請求中=と二人の看護師が当直していた。

◆気づかぬはずない

 いくつかの疑問がわく。誰もが思うのは、ナースステーションの真ん前の病室で計画する不自然さだ。当直の看護師の一人は仮眠室で寝ていたが、もう一人のS看護師は犯行時間帯(午前四時十〜三十分)には「NSのカルテ台でサマリー(診療記録)か何かを書いていた。四時半前に西山さんもNSにいたはず」と供述。目の前の病室に西山受刑者が出入りすれば、気づかないはずがない。

 S看護師がNSにいては、警察の描く筋書きの上で、あまりにも都合が悪かったのだろう。西山受刑者の供述調書によって、S看護師がNSから“消されて”いった。

 「S(看護師)をナースステーションの隣の休憩室に行かせようと考え(二人で)午前3時50分ごろ、休憩室に入った。ソファに座ってSと雑談していたが、午前4時10分ごろ、『ちょっと行ってくる』と言って(犯行現場の)22号室に入った」

 S看護師の供述もあいまいに同調させられている。

 「休憩室で休むことは何度かあり、それがあの日だったのかもしれません」

 犯行につながる「西山受刑者の不審な行動」を見た人は誰もいない。人工呼吸器の管を外した際に鳴った「ピッ」というアラーム音を聞いた人もいない。アラーム音は「二十メートル離れていても病棟内ならすぐに気づく」と看護師が証言する目覚まし時計並みの音だが、犯行時間の直前にわが子の看護でナースコールした母親は「ドアは開放し、静まり返った病棟でブザー音、アラーム音、その他の物音、足音、人の声等、聞いた覚えはない」と明言。対応したS看護師も「絶対に聞いていない」。確実に起きていた二人が完全に否定した。

 呼吸器を扱うこの病院の技師は「管を外せば、最低一回はピッと鳴ってしまう」と逮捕後、警察に説明した。聞いたという証言がなくても、西山受刑者に「鳴った」と言わせるしかなかったのではないか。

 誘導されやすい彼女の供述以外に客観的な証拠も証言もない、これほど不完全な「完全犯罪のストーリー」がなぜ、認められてしまったのか。私たちは、警察が彼女に実演させた犯行の再現ビデオに注目している。再審弁護団の主任弁護人、井戸謙一弁護士が言う。「あれを最初に見たときは、私も驚いた。彼女は学芸会のように、A刑事に褒めてもらいたい一心で演じたのではないか」

西山受刑者から取材班への手紙(一部画像処理)

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◆手順をよどみなく

 ベッドの脇に立って人工呼吸器の管を外し、消音ボタンを押し、再びアラームが鳴るまでの一分を頭の中で数え、鳴る直前に消音ボタンを押す。一連の手順をよどみなく説明し、実演しているという。

 私たちは、和歌山刑務所の彼女に直接、この現場検証のことを手紙で聞いてみた。届いた手紙には、こうあった。

 「現場検証は 何度もA刑事と予行えんしゅうしていますし、当日 A刑事がついて2人で説明するとなっていますが 病院にとうちゃくしてから ちがう刑事さんやったので、おこってやらないといったのですが、この時、検事がきていたのできちんとしないと重い刑になると言われてしてしまいました」

 百聞は一見にしかず、というほどのインパクトだったのか。だが、それはA刑事が監督・指導した演技にすぎない。その映像を見た検察官、裁判官たちだけが「自分たちこそが目撃者」という錯覚に陥ったのだろうか。

 

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