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針路なき武器輸出(5)経済効果のまやかし 望月衣塑子(東京社会部)

ロッキード社のミサイルの模型。輸出には米国政府の手厚い保護がある=2016年、東京都内の国際航空宇宙展で

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 武器生産で、あたかも経済効果があるかのような話を耳にすることがある。経済が右肩下がりの国で、国民受けする「あめ玉」と思って持ち出してくるのだろうが、私はまゆつばだと思っている。

 政府の主導で開発している戦闘機についても、防衛省は「国産で百機つくると仮定し、四兆円を投入した場合、約二十四万人の雇用と、約八兆三千億円の経済効果を生む」と試算する。だが、戦闘機そのものが産業全体の基盤になるわけではなく、二倍強もの経済効果があるとの試算には異論も出そうだ。

 では輸出ならもうかるか、というと、そんなに甘くはない。オーストラリアが提案した四兆二千億円の潜水艦事業で受注に失敗したのも、技術面以外の要因が大きかったといわれるからだ。

 当初の「輸出」案は、同国の失業率の悪化で「雇用を生み出さなければ意味がない」という世論の高まりを受け、現地生産でいかに経済効果を生むか、が焦点になった。焦った日本は「四万人の雇用を生む」「技術者の訓練センターをつくる」「機密も共有する」と出血大サービスに転じたが、それでさえ百戦錬磨の独仏の後手に回り、地元メディアには「熱意がない」とまで酷評された。

◆不明確な政府支援

 主要企業の幹部からは、次々と疑心暗鬼の声が聞こえてきた。

 「政府がどこまで補償するのかはっきりせず、リスクの大きい話だった」(神戸製鋼)「技術者の訓練センターで、どんな教育をすればいいかの見通しもなかった」(三菱重工業)「うちは様子見。技術が流出する恐れがあり、メリットばかりではない」(日立製作所)

 ある企業の幹部は政府主導の“にわか商法”の危うさをこう語る。

 「日本の武器輸出解禁の動きはあまりにも速くて、米国のような支援体制をつくる時間がない。そんな中で防衛省や経済産業省が、とにかく『売れ』『売れ』とやっているわけです。『こういう資料をつくれ、ああいう資料をつくれ』と。政府には絶対に逆らえないから、企業も一生懸命に資料をつくって出す。でも海外とは商習慣が違うから非常にリスクがある」

 一人前の武器輸出国として世界にアピールしたいがために、企業の利益もリスクも度外視して突き進んでいる姿が目に浮かぶ。いかにも不慣れで危険なビジネスのやり方を、欧米系武器製造企業幹部のSさんはあきれた口ぶりで話した。

 「国益なんだからやれ、と政府は言っているけど、株主もいるし、会社はもうけの見通しもなしに動けないよね」

 世界の実情を知れば、新参者の日本が優位に立てないのは明らかだ。

 「米国の武器工場は基本的に国が運営し、企業は初期投資がいらない。欠陥が原因で軍用機が墜落しても、政府が補償する。そういう仕組みなんです。もしも潜水艦の製造者責任を訴えられたら日本の企業だってたまらないでしょ」

◆生産効率も後手に

 生産効率での日米の違いも明快だった。

 「たとえば、いま米国では戦車なんて造っていない。一気に大量生産して生産停止にし、延々と使うから。武器工場もすぐ閉鎖し、人も解雇する。その方が安いから。でも、日本はできないでしょ。逆に74式、90式と型式を変えては造り続ける。それ、会社を食わすためなんですよ」

 日本製の武器は国際的な価格の三〜八倍とされる。防衛省という唯一の顧客にいくつもの企業がぶら下がり、量産体制につながらないからだ。世界で競合している武器メーカーでは市場原理の中でコスト削減圧力が働き、部品の共通化が進んでいる。だが、日本では防衛省の官僚や自衛隊の高級幹部の天下り先に発注を“分配”するため、それすら進まない。

 日本政府は「平和国家」という戦後手にしたカードを捨て、“実戦”で試したこともない武器で、勝ち目のないビジネスにどう参戦するつもりなのか。軍産複合体に詳しい西川純子独協大名誉教授は「国主導で軍事の専門企業をつくりたいのでは。そうなれば、赤字分を税金で補わざるを得なくなる可能性がある」と警鐘を鳴らす。

 それを裏付けるように潜水艦の受注失敗後、「成功したら、三菱重工と川崎重工の関連部門を統合し、潜水艦輸出に特化した企業をつくる青写真が描かれていた」と両社の幹部が明かした。

 構造改革を怠り、ただでさえ不良債権化している軍需産業がこの先、税金の垂れ流し先になる事態は、もう動き始めている。 =終わり

 

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