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針路なき武器輸出(4)町工場の技術者たち 望月衣塑子(東京社会部)

国産初のステルス実証機「X−2」の初飛行。「日本の空を守るからこそ」の職人たちの思いがこもる=愛知県営名古屋空港で、本社ヘリ「まなづる」から

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 見る者を引きつけてやまない浅田真央さんの笑顔と人柄、その裏側にあったトリプルアクセルという「高度な技術」へのこだわりと努力。引退を惜しむ映像を見ながら、私は日本に特有の“技の世界”を語る武器製造大手企業の幹部の言葉を思い出した。

 「多くの武器輸出国では、海外用の少し質を落としたバージョンをつくりますが、そんなことを日本の職人に頼めば『いい物をつくろうと日々努力しているのに、そんなことはできない』と言います。職人たちの技術へのこだわりには特別なものがある」

 価格競争が激しい世界の武器市場で売るため、あえて質を落として量産し、競争力を高めようとしても、仕事の質にこだわる日本の職人はいい加減な仕事を嫌うため「そもそも武器輸出に不向きなのでは」とその幹部は話す。

 製造現場の人々は、日々どんな思いでこの仕事に携わっているのか。思いを知ろうと下請け企業への取材を重ねたが、情報統制の壁を破る道のりは困難を極めた。

 「大手に“守秘義務があり取材に応じるな”と言われている」。丁重な断りは、まだましな方。「あなた、この業界のルール分かってないね、言えないものは言えないんだよ!」。テーマを伝えた途端に電話を切られたり、つっけんどんな対応で門前払いされたりするのが当たり前だった。

 三菱重工業の下請けでは、開発中の小型旅客機MRJの取材には快く応じてくれながら、テーマが武器輸出だと伝えた途端、次々と断ってきた。立て続けの取材拒否に遭い、めげそうになっていたある日、町工場の経営者が初めて取材に応じてくれた。

◆もうからない仕事

 その人は、油で汚れた手を工場にあるタオルでふきながら気さくに出迎えてくれ、こう言った。「本音で言うと、武器はやりたくない。もうからないから」。三菱重工が製造中の戦闘機の部品をつくっているという。

 「武器でも航空機となれば部品の不良、不適合が許されない。99・9%良くても、残り0・1%でだめになることもある。その上、注文の品は多いのに、どれも少量で、なおかつ値段は厳しい。つくる方は繊細な作業が必要で、人手もかかるし、教育もしなけりゃならん。合わないよ」

 それでも続けるのは、どんな思いがあるのだろう。

 「米国から高いのを買わされるより、自前の国産の方がいい。自分のところで最低限の努力はしないと。おんぶにだっこではいいなりになってしまう。防衛システムは絶対に必要だとも思うしね」

 不安も口にした。

 「誇りを感じる、というよりも、本当に戦争になった時が心配。うちに撃ち込まれたら近隣に被害を及ぼす。そういう可能性はなきにしもあらずだからね。テロの標的になるから、こんなのつくっているのをオープンにされるのは困る」

 同じような危機感や不安からだろう。その後、一人また一人と匿名を条件に取材に応じてくれた。海上自衛隊のP3C哨戒機の部品を製造している町工場の三十代の技術者は「日本はものづくり。防衛産業も同じで、国内で技術を磨くことが大事だと思う」と職人かたぎな一面をのぞかせつつ、輸出には表情を曇らせた。

◆民間人殺す可能性

 「日本は堅い国だから、あまり拡大しても困る。もともと戦争反対の国だし、民間人の殺害に使われると。でも、発注時には、どう使われるか分からない。聞いても言わないし、あえて聞かない」

 三菱重工の、別の下請け企業の男性は「民生品の部品だけ引き受けて“軍用はお断り”ということはできないんです。こちらの都合のいい判断は、まったく通じない世界なんですよ」と下請けという立場の弱さを訴えた。

 武器製造の業界では、潜水艦で傘下の企業は千四百社ほど。戦闘機も多くの下請けに支えられる。そんな町工場の技術者たちに、武器輸出への路線転換に大きな不安が広がっていた。

 最初に取材に応じてくれた町工場の経営者がぽつりと言った言葉が耳に残る。

 「金のためだけにやれる仕事ではない。金がもうかればいい、という世界に走ると、逆に自分たちがつくったものでやられる」

 トリプルアクセルへの称賛は、ライバルたちからも慕われる人柄を抜きには語れない。「死の商人」になりかねない武器ビジネスが、ものづくり大国の舞台にふさわしいのか。その行方に、暗雲が垂れ込めている気がしてならない。

 (次回は23日)

 

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