トップ > 特集・連載 > ニュースを問う > 記事一覧 > 記事

ここから本文

ニュースを問う

針路なき武器輸出(2)不機嫌な官僚たち 望月衣塑子(東京社会部)

防衛省にとっての「国益」とは…

写真

 なぜ、彼らとの間に横たわる溝がこれほどまでに深く、向こう側が遠いのか。あるとき、ふと気づいた。彼らが守ろうとしているものと、私が取材して「守りたい」と感じることとが、懸け離れているのではないか、と。

 前回の記事で、根本的な理念も定まらないまま、国の根幹を変える武器輸出に乗り出している危うさを指摘したが、やはり各論に入る前にこの問題の根っこに潜む違和感にふれざるを得ない。

 武器輸出の取材を始めたのは、二人目の育休が明け、経済部の経済産業省の担当に戻った二〇一四年の四月、原則禁止を閣議決定で解禁したタイミングだった。輸出は同省安全保障貿易管理課の所管だが、当然、防衛省への取材が増えていった。「積み重ねてきた平和国家の財産が損なわれ、こうもあっさり武器商人になってよいのか」。批判的な私の記事は、すぐにあつれきを呼んだ。

◆批判記事に“口撃”

 ある日、取材して顔見知りになった防衛省の課長に質問内容を伝え、指定された時間に訪ねると、開口一番、「なんだあの記事は!」ときた。まくしたてる相手に、どの記事のどの部分か具体的な説明を求めたが「全部だよ、全部!」と取り付く島もない。「記事がどれも薄っぺらい」「分からないくせに書いている」。罵倒に近い“口撃”が続いた。

 今でこそ、同省のエリート官僚が意に沿わない報道に怒りだすことにも驚かなくなったが、他省庁では見ることのなかったこの手の怒りと理不尽な抗議に、当初はあぜんとした。

 以前なら、いったん引き下がって再取材を、と考えたかもしれない。だが、今は時間に余裕がない。この日は直前に指定された「午後七時」からの取材だったため、話を途中で打ち切る失礼がないよう急きょ、保育園の迎えを地域のサポート登録スタッフに依頼しており、あきらめることはできなかった。

 しかも、取材の主旨は「日本が武器輸出する相手国への資金援助を検討している」と伝えたロイター通信の報道内容の確認。他国のメディアに国の防衛の話を先行され、引き下がれない思いもあった。だが、課長の答えは質問した私をぼうぜんとさせるに十分だった。「答えたくない」「他社なら話してもいいがね」。私の記事に事実誤認があるなら訂正を求めれば済む。きっと、いつか取材を理由に近寄ってきたら懲らしめてやろう、と待ち構えていたのだろう。

 初めは快く取材に応じてくれていた別の防衛省幹部も、記事が出るにつれ、険しい表情になった。

 はるかかなたの中東の海域で、日本の石油タンカーが他国の攻撃を受ける事例を安保法制の根拠として政府が持ち出したとき「あり得ない想定で派兵が独り歩きするのは、おかしくないか」と疑問をぶつけると、こう言った。

 「そういう君みたいなのに限って、いざとなると、うわー資源止められた、ミサイル撃て、とか暴れだすんだろうな、きっと。俺はそう思う」

 他国によるタンカー攻撃の話には無理があり、結局政府が引っ込めるのだが…。

◆戦火の中東も対象

 武器輸出の原則禁止を解禁したことで、私が最も深刻にとらえることの一つが、戦火の中東にも輸出できることにしたことだ。「紛争当事国」は禁輸の対象だが、そこにイスラエルは入っていない。親や祖父母の土地を奪われたパレスチナ難民たちは、重武装のイスラエル軍に弾圧され、テロの犠牲より、はるかに多くの女性や子どもの命が奪われている。そんな国に武器を売りに行くことに「どうなんですかね?」と疑問を向けたとき、政策と相いれない論調を拒絶する、防衛省審議官の姿勢は明確になった。

 「君は国を守るということ、国益とはなにか、を分かっていない。君のやっていることは、国益の邪魔をしている、ということだ」

 日本製の武器が、たとえ部品といえどもイスラエルで使用されることが「国益」だと、私は思わない。だが、明らかにイライラし、不快な表情になる取材相手を前に、やんわり話題をそらさざるを得なかった。

 武器輸出に限らず、防衛政策で彼らなりの「正義」があり、使命感も強いことはわかる。意見を異にする私が国民を代表するわけでもない。

 だが、子を持つ母親としてこの国の未来も踏まえ、当たり前に思う疑問に答えようともせず、自分たち、あるいは時の政権の主張と「国益」を同一視して、他の選択肢に一切耳を貸さないというのは、軍事組織をコントロールする「シビリアン」(文官)として、どうなのか。

 そんなエリート官僚に出会うことが珍しくないこの国の“今”に、私は危機感を覚えている。

 (次回は9日)

 

この記事を印刷する

新聞購読のご案内

PR情報

地域のニュース
愛知
岐阜
三重
静岡
長野
福井
滋賀
石川
富山

Search | 検索