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針路なき武器輸出(1)理念どこに 望月衣塑子(東京社会部)

 手や足をなくした自衛隊員があちこちにいる。成田、あるいは羽田空港の到着ロビー、もしかしたら、関西空港、セントレア(中部国際空港)でのことか。傷病者の中には、女性隊員も…。

 安倍政権になって武器輸出を解禁し、集団的自衛権を認め、だからといって、そんな過激な想像を巡らすのは不謹慎だと眉をひそめる人もいるだろう。想像したくもないそんな光景を「耐えられますか」と私に問い掛けたのは、武器を製造する欧米系の多国籍企業幹部、Aさんだった。

 二〇一四年四月、武器の原則禁輸を国会とばしの閣議決定で解禁してから間もなく三年。オーストラリアへの潜水艦輸出の試みが失敗し、現時点で大きな案件はない。まだ武器の商談に慣れない防衛省や日本の企業が右往左往している状況だ。

 この道に通じた“武器商人”の目には、その様子が、よちよち歩きのおぼつかない足取りで危ない橋に歩を進めているようにも見えている。取材の渦中で出会った彼らの証言は、日本の立ち位置を外からの視点で確認する上でも貴重だった。

◆あふれる片腕兵士

 兵士らの痛ましい姿。世界の武器市場を飛び回る日本人のAさんが実際にその光景を目の当たりにしたのは、米国でだった。

 「イラク戦争後、ある空港で傷病兵たちの帰還に出くわした。片腕や片足をなくした兵士らであふれ、負傷した女性兵士もいた。ショッキングだった。戦争に関わることの現実をまざまざと見せつけられた」

 米国民が、戦争のそんな悲惨な代償を受け入れるのはなぜか。それに答えたのは、別の欧米系武器製造企業の幹部で日本人のSさんだった。

 「たとえば、わが社の米国の社員は自宅で星条旗と自社の旗を一緒に掲げます。わかりますか。米国民には、武器企業もある種の尊敬の念を持たれ、社員にも誇りがある。自由な世界を守るんだというメンタリティー(精神性)が国民に根付いていて、そのために戦う軍人さんたちが優位に立てる武器をつくるんだという意識なんです」

 思い出したのは平和を求める元軍人の会(ベテランズ・フォー・ピース)で沖縄の反基地運動にも参加した元米海兵隊員のマイク・ヘインズさん(41)の言葉だ。「米国の若者は幼いときから、自由という大切な価値観と戦争は結び付いている、と教えられている。イラクで悲惨な体験をするまで『自由はただじゃない』という言葉に疑いを持つことは、まったくなかった」。むしろ、議論の余地もなくそう刷り込まれている、ということなのだろう。

 自衛隊が使う武器を製造する国内の企業を何社も取材したが、共通するのは「武器を売っていると声高に言われるのは…」と暗に漂わせる後ろめたさだ。太平洋戦争を経てのこの七十年余り、さらなる戦争に突き進んだ国と、武力をもって他国と関わることを徹底して避けてきた国との違いが、それぞれの企業にも反映されているように感じる。

◆自由守る覚悟は?

 自分たちの価値観を守り、広めるためなら、戦地から痛ましい姿で戻る兵士らの現実も受け入れるし、敵を壊滅するために、より殺傷力の高い武器もつくり、売りもする。米国民に根付く、そのような覚悟が、果たして日本の人々にあるのだろうか。Sさんは、私の戸惑いを見透かしたかのように、話を武器輸出に戻し、こう言った。

 「僕ね、いいとこ取りはできないと思う。(オーストラリアに輸出しようとした)潜水艦だって魚雷を撃つしね。やるなら全部、批判を覚悟でやらないと」

 つまり「死の商人」と呼ばれて恥じない覚悟が企業にも国民にもあるのか、ということだ。

 「本当に、これから中東のような場所に武器を売りに行くの? どういう国になるのかも整理されずに、どう売っていくかの手法論ばかり語られている」

 もうかりさえすればいいのか、とも聞こえるその指摘に返す言葉がなかった。

 「最終的に、誰が責任を取るのか、ということも、なんだかあいまいだしね」

 武器輸出をやるのか、やる必要があるのか、という国民的な議論もないまま、この国はどこへ行こうとしているのか。傷病兵が日本の空港にあふれる光景は、お任せ民主主義の先に見えるおぼろげな「現実」なのかもしれない。

      ◇

 「武器輸出」をほぼ三年追い続けてきた。なしくずしの解禁の後は、秘密裏にどんどんことが動いていく。このまま進んでいいはずがない。わが子の寝顔に突き動かされる。問題意識を読者と共有したい。

 (次回は4月2日)

 

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