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全国学力テスト10年(4)教育ビジネスの影 (大津支局・浅井弘美)

 中学三年生を受け持つ教諭たちに、衝撃が走った。

 昨年三月、滋賀県内の中学校。県立高校の入試当日、学力テストのB問題をほうふつとさせる問題が出題されたことを知ったからだ。数学では、得点しやすい単純な計算問題が消え、一定レベル以上の読解力まで求める問題に様変わりしていた。

 「問題を見て『何やこれは』とがくぜんとして。自分たちが今まで教えてきたことは何だったの?って」

 四十代の女性教諭は、怒りに震えながら話した。不穏な兆しがなかったわけではない。県内の学習塾で解かせる問題が、学テに類似した問題に変わってきていた。高校入試が迫った生徒の学習を見るため、補習につきあった五十代の男性教諭が明かす。

 「塾でやっている問題を生徒が持ってきてびっくりしたんですよ。学テと同じような問題が出ていたんです。生徒は『全然分からん』と嘆いていましたからね」

 入試からの帰り道、肩を落とす生徒らを慰めたという教諭は「入試まで学テとリンクさせて。この子たちは切り捨てられた」と悔しさをにじませた。別の学校長は「入試に学テの問題を入れたら、対策をせざるを得なくなる」と憤慨した。

◆対策先行の学習塾

 そんな声を聞いているうちに、ふと、不思議に思った。教師たちさえ知らされていない入試の傾向を、なぜ学習塾は察知できたのか。その塾で使われていた問題集には、なぜ、傾向と対策がしっかり盛られていたのか。思い出したのは、業界の内情に詳しい関係者の話だ。

 「学力テストのおかげで、いまは商品が売れるのでありがたい」

 教育ビジネスの業界は、教育委員会や学校での情報をいち早くキャッチし商機にする。驚いたのは、そのすさまじい営業活動だ。

 議会の一般質問で教育に関する内容を事前に入手すると、傍聴席に出向いたり、中継映像や議事録で教育長らが議員らに突き上げられている様子を確認。議会の後、何食わぬ顔で「何かお困りのことはありますか」と尋ねると、教委の担当者が「学テの成績で議員から追及されてね」などとこぼす。そのタイミングですかさず、問題集の売り込みを図る、という。

 少子化の影響で、教育業界の市場が落ち込んできている昨今、学テは重要な稼ぎ頭になっている。最近の主力商品は、ウェブテストや各県ごとの学力テストだそうだ。

 関係者は「会社としては売り上げアップになるので、『学テ、学テ』と言ってくれている間はありがたい」と話す。ただ、教育に携わっているという思いからだろうか、こんな本音ものぞかせた。

 「今のやり方は、子ども一人一人に返っていない。一人一人が分かったと理解する、勉強が楽しいな、と思わせることができていない。学力はついていないと思う。その時々の結果が良ければいい、という感じ。いじめがなくなっていますか。学力格差はなくなっていますか。親の経済格差が広がり、お金をかけてもらえない子どもたちもいる。そんな子どもたちと向き合う時間が本当は必要なのに、と思う」

 営利活動とはいえ、それが子どもの成長につながってこそ仕事の喜びにつながるのだろう。

◆視察途中に観光も

 学テとビジネスが絡むのは教材にとどまらない。

 早い時期から学テ対策を進め、いつも成績が上位の秋田県では、他県の自治体の教委、教師、議員らが視察に訪れる、いわゆる「秋田詣で」が続く。

 県教委などによると、二〇一五年度は北海道や沖縄県を中心に三千四百四十人が来県。視察を兼ねて観光する団体もあるといい、B級グルメで知られる秋田県横手市では、航空会社とタイアップして学校見学のルート途中での観光の受け入れを図っている。

 同県の小学校教諭が嘆く。

 「毎年毎年、視察に来る人が増えてます。お客さんを迎えるなら、校内をきれいに掃除しておかなきゃいけないでしょ。疲れますよね。何より、学校や子どもたちが観光商品化されているみたいで…」

 商機を求めて企業努力をすることを悪く言うつもりはない。それが学力の二極化が進んでいるとされる教室で、基礎学力の身についてない児童、生徒に自信をつけさせ、学習意欲を高めているのなら、意味もあると思う。

 だが、現状はどうなのか。学校が、授業に関係ない学テ対策の教材を買わされ、自治体間の不毛な競争の余波で関係者の視察旅行が相次ぎ、平均点にしか目が向かない空気の中で、成績が下位の子どもたちの指導がないがしろにされ始めているのであれば、本末転倒と言うしかない。

 (中日ウェブ・プラスに掲載、次回は3月5日)

 

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