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全国学力テスト10年(1)不可解な問題 (大津支局・浅井弘美)

◆自分の将来像に模範解答

明かりのついた夜の職員室。学テの翌日からしばらく、先生たちは採点に追われる

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 【あなたは、二〇二〇年の日本は、どのような社会になっていると予想しますか。また、その社会にどのように関わっていきたいと思いますか】

 こんな質問をされたら、どう答えますか? 自由作文や大学入試の小論文ならともかく、これは一五年に行われた「全国学力テスト」(学テ)の中学三年生に対する中学校国語Bの設問。「東京五輪・パラリンピック組織委員会のホームページ」「日本の人口推移のグラフ」「生活を支援するロボットの開発」について資料が示され「八十字以上、百二十字以内」の解答が求められた。

◆十人十色を認めず

 答えは十人十色になるのが一般的な感覚だろう。だが、これには“正解”がある。文部科学省が示す正答例はこうだ。

 「オリンピック・パラリンピックの影響で様々なスポーツに注目が集まるだろう。今後増えていく高齢者もスポーツに関心をもつと思われる。そのような社会に、私は、スポーツ関連のボランティアをすることで積極的に関わっていきたい。」

 「おそらくオリンピックの開催に向けて技術開発が進み、様々なロボットが開発されています。私は、そのような社会に関わっていくために、大学で科学技術に関する研究をしたいと考えています。」

 他に「若者の代表として努力し、オリンピックでメダルを取る」「今よりも安全で性能が高いロボットを開発する仕事に就きたい」など、計六例の模範解答がある。

 「正答例は、要するにテストを作った大人が思い描く『良い子』の事例じゃないですか」

 滋賀県内の中学校で教える五十代の男性教諭が納得できないのは、採点方法が「○」か「×」しかないことだ。

 「子どもたちの将来像はまだ漠然としているんですよ。だから漠然とした答えしかない。なのに、生徒自身の考えが答えに合わないと、それがすべて不正解になってしまうんです」

 将来を具体的に描くことは大切だろう。でも、五年後の自分の人生を描いた作文が内容によって「×」だなんて、おかしくないか。私自身を振り返っても、十五の春にそこまで具体的に将来を決めていなかった。ましてや、五輪にどう関わるか、考えている中学生がどれだけいるのだろうか。

 学テは国語、数学(算数)とも基礎知識を問うA問題と、応用力や読解力をみるB問題の二部構成で、文科省はB問題の狙いを「知識や技能などを実生活で活用する力を求める」などと説明する。だが、結局は優等生的な解答を誘導し、「大人の言葉」が分かる成績上位者しかまともに記述できない問題だ。

 批判が渦巻く理由には、学テが現場の多忙感をますます高めていることもある。

 全国のほとんどの小中学校では答案を文科省側に返送する前に、教育委員会の指示で教師らがコピーし“自校採点”する。文科省が、学テの狙いを「学習成果を検証し、指導の改善に役立てること」と打ち出しているため、一日も早く自校の出来を知る必要があるからだ。

◆学生バイトが採点

 滋賀県では、採点結果を県教委の集計システムに入力しなければならず、ある中学校では、学テの日から連日、職員室の明かりは深夜までついたままだった。「特に、B問題で正解不正解を判断するのに、すごく時間がかかる」(五十代教諭)からだ。ベテラン教師でも悩む問題を、文科省側では誰が採点しているのだろうか。

 「学生バイトだそうですよ」

 教師たちから聞いたその答えを、にわかに信じ難かったが、調べると本当だった。

 問題を作成する国立教育政策研究所などによると、四月のテスト終了から二カ月間、文科省から委託を受けた業者が大学生や大学院生らを雇い、解答パターンに沿って採点している、というのだ。ベネッセコーポレーション、教育測定研究所などの業者にはテストの配送なども合わせ、一六年度は計四十七億八千万円が支払われた。

 教育者でもない学生が採点した結果に基づいて、現場の教師たちが「指導の改善」を迫られる−。おかしな話ではないか。

 「そもそも普段の授業や教科書とは関係のない別教科のようなもの。このようなテストを全員に受けさせる意味があるのですか」

 四十代のある女性教諭は疑問を投げかけ、疲れた顔でこう言った。

 「一体何のために、誰のために続けているのか、分からない」

 なのに、順位を上げるための対策が全国で過熱する。

      ◇

 十年を迎えた全国学力テスト。日本の教育現場にひずみを広げつつある問題の根源を、五回にわたって考えたい。

 

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