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ニセ電話詐欺、ATMが“最後の砦” 帯田祥尚(名張通信部=前岡崎支局)

女性の携帯電話には犯人からの着信履歴が残っていた(一部画像処理)

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 だれでも引っ掛かる。何度も紙面で伝えてきた。にもかかわらず、ニセ電話詐欺の被害は後を絶たない。もはや“最後の砦(とりで)”で食い止めるしかない。そう確信させる事件だった。

 「携帯を持ってATMの前でうろうろしている自分は、テレビで見た詐欺の被害者そのもの。何で、と思うんですけどねえ」

 危うく難を逃れた愛知県岡崎市内の女性(76)はそう振り返る。

 昨年十一月中旬の午前十一時ごろ、自宅に「市役所の保険の担当者」を名乗る男から電話があった。「保険の還付金手続きでまだ済んでいないものがあります」。男は続けた。「何度かお電話したんですがいつもお留守で、今日つながってよかったです」。当時、たまたま留守がちだった女性は、信じてしまった。

◆言葉巧みに誘導

 男は電話で還付金の説明をしながら、言葉巧みに女性の携帯番号と普段、岡崎信用金庫を利用していることを聞き出し、話を急展開させた。

 「四月に書類を送ったはずです。十月末までに手続きをしなければならなかったんですが、今日が最終的な支払日なので、今すぐ手続きしてくだされば払い込めます」

 突然突きつけられた“期限”に女性はうろたえた。男は間髪入れず「これから岡崎信金の担当者が電話しますので、十分ほどお待ちください」。続いて電話をかけてきた男は、現金自動預払機(ATM)に行くことを指示。女性は「本店窓口のほうが都合がいい」と抵抗したが「今日は最終日で混み合っていますから、そのATMでしか取り扱いできません」。そう言いくるめられてしまった。

 このとき、商業施設のATMを指定してきたのは、行員の監視がなく、ガードが甘いからだ。

 到着したATM前で再び携帯のベルが鳴る。「その他の銀行を押して…。五十音の“つ”を押して…」。機械的に反応していた女性も、途中、見覚えのない「筑波銀行」が画面に現れ、あれ、と思うが、「そこから振り込みますので」と言われ、疑問を打ち消してしまう。

 振り込み操作に進めば万事休す−だが、結果的に被害は未然に食い止められた。犯人にとって“想定外”のことが起きたからだ。

 男の指示通りに女性が操作しても、なぜか想定通りの画面が表示されない。男は焦り、「おかしいな。もう一度やってください」と繰り返す。左右のATMに並ぶ客が「大丈夫ですか」と声を掛けると、男は「大丈夫ですから、大丈夫って言ってください」と語気を強める。

 そんな電話のやりとりが二十分超。妻の様子を後ろから見ていて「おかしい」と気づいた夫(74)に「もう切りなさい」と一喝された。電話を切った後も呼び出し音は鳴り続けた。

 「今からすると、おかしいと思うこと、いっぱいある。でもそのときは言われるがまま。自分の頭で考える力はもうありませんでした。頭の中は完全にロボット状態だった」

 電話を受けたときから傍らにいた夫も「僕らは年金生活。例えば確定申告すると、多少は戻ってくるじゃないですか。それだけでも助かる。そんな事情もあって、還付金? そりゃもらっとけば得じゃない、と思ってしまう」と犯人の話術にはまりやすい自分を振り返った。

 ATMの画面表示が犯人の思い通りにならなかったわけは、岡崎信金が編み出した仕掛けにある。昨年十一月一日から「キャッシュカードで過去三年間、振り込みをしていない七十歳以上」を対象に、ATMで振り込みをできなくするシステムを導入。この振り込み制限がなければ、事件は未遂に終わらず、夫婦は被害者になっていただろう。

◆仕組みで止める

 「振り込み自体をできなくすれば、防げる確信はあった。要するに仕組みで止めるということ」。この制限を思い付いたのは、同信金リスク管理部法務管理室長の田中千加根さん(56)。十二月一日から愛知県内の他の十四信金に広まり、岐阜県の六信金でも同様の制限を取り入れた。

 夫婦の被害を防いだ一方で、田中さんには後悔もある。「十月下旬に同じような手口で被害に遭った人がいた。もう少し早く導入していれば」と話すと、続けて反省の言葉が口を突いて出た。

 「思い付いた対策はスピーディーに進めないと。もたもたしていれば被害は増えていくだけなんだと思い知らされた」

 被害を防ぐには、誘導されたATMが最後の砦になる。手段を選ばぬ詐欺集団から大切な預金者を守るため、あらゆる手を尽くす。そんな姿勢を、全国の金融機関に求めたい。

 

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