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伊勢志摩のエコツーリズム 大島康介(伊勢支局)

◆触れ合い通し魅力伝える

(上)リアス海岸を望む養殖場でタイに餌をやる橋本さん=三重県南伊勢町の贄湾で(下)海女小屋のいろりでタイを焼く山本智恵さん=同県・答志島で

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 森や海を守るため、三重県の伊勢志摩地方が国立公園に指定されたのは、ちょうど七十年前の一九四六年十一月。その伊勢志摩国立公園の価値や魅力を高めようと、今、地元で「エコツーリズムの推進」が提唱されている。地域の自然や文化を体験するエコツーリズムに参加し、筆者も実感した。住民とじっくり語り合うことができれば、旅の魅力は格段に増す−。

 橋本純さん(41)が、漁業体験のエコツーリズムを始めたのは、十五年ほど前。父親が始めたタイ養殖の跡取りになることを決めた直後だ。

 「スーパーで売ってる魚が、どこから来るのか知ってもらいたかった」

◆一緒に漁船に乗る

 九月、熊野灘に面した三重県南伊勢町の贄湾。橋本さんの漁船に乗り込み、伊勢志摩地方の景観のシンボルとも言えるリアス海岸の間を進んだ。

 養殖場で、船をいかだに横付けし、ペレット状の餌をスコップでばらまく。バシャバシャッと海面に波が起きた。マダイの赤い背中や白いおなかが見える。「元気そうだな」と橋本さんが笑顔になった。

 「これだけ波が穏やかだと、リアス海岸が養殖に適している理由が一発で分かるでしょう」

 漁師として感じる国立公園の自然の恵みを、橋本さんが船の上でいろいろと話してくれた。乱獲のせいで定置網にかかる天然の魚は年々、小さくなっており、養殖漁業で収入を安定させることが大切なのだという。

 ツアーでは水揚げしたばかりのタイの塩焼きも味わった。「漁師の暮らしぶりや思いを知ってもらえれば、故郷の漁村を守ることにつながると思って」。橋本さんが十五年ほど前にツアーを始めた時の考えだ。

 この他に三つのツアーに参加し、九〜十一月に本紙伊勢志摩版で「エコツーリズムに行こう!」と題した記事を書いた。エコツーリズムという目新しい言葉に親しんでもらうことを狙ったが、ガイドの魅力が旅の印象を大きく左右することを強く感じた。

 「島でとれたものしか出せませんが、たくさん食べていってくださいね」

 答志島(同県鳥羽市)の海女小屋では、海女の磯着姿でタイをひっくり返しながら、島に住む山本智恵さん(49)が声を掛けてきた。「その代わり、新鮮なものばかりですから」。奈良市から嫁いできて、カルチャーショックを乗り越えながらの離島暮らしの魅力をたっぷりと語ってくれた。

 ガイドブックに載っているようなありきたりの説明ではなく、生活者の目線から出てくる言葉で迎えてくれたことが印象的だった。

 伊勢神宮(同県伊勢市)の内宮の背後に広がる森を通り抜ける「竜ケ峠ハイキング」というツアーでは、高校時代にこの峠道を通学した中瀬誠一さん(76)が、太平洋戦争の頃の思い出話を披露してくれて興味深かった。

 エコツーリズムとは、エコロジー(自然環境)やエコシステム(生態系)の「エコ」と、ツーリズム(観光旅行)を組み合わせた言葉だ。八〇年代に米国やアフリカで提唱され、もともとは絶滅の危険がある野生の動物や植物について学び、保護につながる行動を促す旅行を意味した。九〇年代に紹介された日本では、もう少し広い意味で「自然に触れる観光」くらいで使われている。

◆ガイド育成が大切

 観光客と地域が継続して関わっていけるようなきっかけを提供するには、展望台の整備や、インターネットにつなげるための無線機器の設置などハード面も重要だが、それ以上に、地域の魅力を旅行者に伝えるガイドを地域住民の中から育て、発信していくソフト面の充実が大切だと思う。

 「海に潜る海女漁を体験できるツアーは、世界を見渡しても、ここでしか得られない体験と言える」

 自然保護官(パークレンジャー)として同公園を駆け回る環境省職員、雨宮俊さん(33)は「海に山に魅力的な資源は多い。一方で自然や文化を説明し、現場を案内できるガイドを、もっと育てる必要がある。日本人、外国人を問わず対応できるガイドが増えれば、大きな魅力になる」と指摘する。

 ただ観光客を増やす、というだけでは、あえてエコツーリズムと呼ぶ意味はない。地域の文化や自然を維持するため−という本来の目的を忘れてはなるまい。その地域で暮らす人が語り、訪れた人たちとほんのひとときでも交流することで、文化や自然の価値がリアルに伝わるだろう。そこにこそ意味がある。

 国立公園に指定されて七十年。この節目に、次世代の「伊勢志摩国立公園」のあり方を地元紙記者として、地域とともに考えていきたい。

 「ニュースを問う」へのご意見は、〒460 8511 中日新聞編集局「ニュースを問う」係へ。電子メールは、genron@chunichi.co.jp

 

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