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高齢者の電動カート死亡事故 片岡典子(福井報道部)

◆求められる弱者の目線

死亡事故の後、福井署が開いた電動カートの講習会=福井県永平寺町役場上志比支所で

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 体が引っ張られるように前に進んだ。握り加減に繊細に反応する速度調節のレバーが付いたハンドルを操作し、そろそろと歩道のない細い道の端を走る。速度は最高でも時速六キロ、早歩きほどまでしか出ないが、地面に近いためか意外に速く感じる。

 足腰が弱くなったお年寄りを中心に利用が広まっている電動カート(シニアカーとも呼ばれる)に試乗してみた。八月、私が日々取材している福井県永平寺町の国道で、町内の八十代の男性がカートで走行中、対向してきた六十代の男性の乗用車にはねられ死亡するという、痛ましい事故があったからだ。

 事故現場は片側一車線の緩やかなカーブで道幅が狭く、路側帯は三十センチほどしかない。福井署は、車の男性が電動カートに気付くのが遅れたのが原因とみている。

 取材も受け入れられないほどの遺族の悲しみにふれ、なぜ事故は起きたのか、どうすれば防げるのかを、利用者の目線で考えてみようと思った。

◆体験し危険を実感

 「慣れたら快適じゃないか」。カートが走りだして一、二分。そう思ったとき、後ろから車が。「危ない」。逃げようにも横は水路。座席の上で身を縮めた。そのすぐ横を車が走り過ぎた。

 怖い。電動カートは幅がある分、歩行者としてやり過ごすときより、車との距離は接近する。車は時速三十〜四十キロだったのだろうが、横への平行移動ができず、身を縮めることしかできない。恐怖感は強かった。

 ハンドル式の電動カートもスティックレバーで動かす電動車いすも、道交法上は歩行者として扱われる。だが、道路脇に飛びのくことはできず、歩行者より無防備な面もある。トラックなど車高のある大型車からは気づかれにくい。危険な状況が、体験してみるとよくわかる。

 警察庁によると、二〇一一年以降の五年間で、電動カート・車いすが関係する事故は全国で九百六十三件起き、三十六人が死亡した。一五年には七人が死亡し、百七十一人がけがをしている。道路を横断中に起きる事故が多いという。

◆不可欠な人も多数

 一方で、普及も進んでいる。

 電動車いす安全普及協会(浜松市)によると、一五年度の電動カートの出荷台数は約一万三千台。福井では年間百台前後が出荷されるという。高齢化とともに増え続けるのは、多くの人が運転免許の返上と引き換えに、乗るようになるからだ。

 実際、車で郊外を走ると、道路脇にカートを止めて田畑で作業するお年寄りをよく見かける。長く歩くのが難しくなった高齢者に欠かせなくなっているのだ。

 主に電動カートをレンタル・販売するセリオ北陸営業所の担当者は「利用者は、免許を返納し、歩くのも足腰がしんどくなってきた、というケースが多い。自宅近くへのごみ出しを歩いてできなくなり、レンタルを始めた人や、コンビニへの行き帰りに電動車いすを使い、つえをつきながら買い物をする人もいる」。月間で走行距離が二百キロを超える人もいるそうだ。

 電動カートを福井県内で年八十台ほど販売するスズキ自販北陸の担当者は「数年前は五、六十台だったので利用者は着実に増えている」「傾向として、交通量が多く歩道が狭くて危険な都市部より、郊外での利用が目立つ」と言う。

 通院する手段が他になく、自宅から病院までの坂を四十分かけて乗る人、バス停や駅に行くために利用する人、近いところはタクシーを呼んでいたけど「運転手さんに申し訳ない」とカート利用を始めた人…。担当者は「高齢者の二人暮らしで免許を持つ人がいない、年配の人ばかりの地域で乗り合いもできない、などの事情で電動カートが最後の手段になっている」とみる。

 永平寺町で起きた死亡事故の二週間後、現場で警察署員と役場職員、地元の人たちが集まった。日ごろ、現場を生活道路としても利用している住民たちから聞こえてきたのは「加害者になりたくない」という切実な思い。そして「電動カートは横には動けないけど、それが悪いように書かないで」という被害者の立場を思いやっての訴えかけだった。

 「今回の事故のことを地元で機会あるごとに話題にしないと」

 それは、永平寺町に限った話ではない。超高齢化社会を迎える、これからのこの国では、どこでも誰もが被害者にも加害者にもなりうると考えるべきだろう。

 ともすれば車優先となりがちな路上の現実。そこを見つめ直し、弱者の目線に立った交通モラルの浸透こそが求められる。

 「ニュースを問う」へのご意見は、〒460 8511 中日新聞編集局「ニュースを問う」係へ。電子メールは、genron@chunichi.co.jp

 

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