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メメント・モリ

第4部「自分を遺す」総集編

 死後のあり方を生前に決める人が増えている。四月下旬から掲載した連載「メメント・モリ」第4部「自分を遺(のこ)す」(全五回)では、多死社会の中で遺志はどう示され、どう受け継がれるのかを取り上げた。遺言を巡っては、認知症など本人の意思能力が問われたり、書式の不備などで無効になるケースがある。単身高齢者の増加などで相続人がなく、宙に浮いてしまう遺産も存在する。

◆遺言 知られざるハードル

 自分の死後を見据え、財産の分け方などを書き残す遺言。「終活」への関心の高まりなどで作成する人が増えているが、日本公証人連合会の大野重国理事長(65)は「超高齢社会になり、高齢者が持つ財産をスムーズに次世代に引き継ぐ制度が、ますます必要になっている」と指摘する。

 司法統計によると、二〇一六年に裁判所が遺産分割の申し立てを認めた「認容」や「調停成立」になった事案のうち、遺産額が一億円を超えた割合は一割以下。遺産争いが、一部の富裕層だけの問題ではないことが分かる。

 一般的な遺言には「公正証書遺言」「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」の三種類がある。大野理事長は「一千万円を超える財産があるなら、数万円の手数料を考えても公正証書遺言が安心だ」と勧める。三種類の中で唯一、法律の専門家である公証人が遺言の作成と保管を請け負うためだ。形式違反で無効になることはほとんどなく、不動産の名義変更などの相続手続きが円滑に進む利点もある。

 本人が手書きする自筆証書遺言は費用がかからないが、パソコンの使用や代筆は無効になる。このため、死後に有効性を巡って争いが起きたり、紛失や破棄されたりする恐れもある。政府は三月、財産目録のパソコン等での作成を認め、法務局が保管する改正法案などを国会に提出したが、成立した場合も形式の不備などで無効になる不安は残る。

 秘密証書遺言は、封をした遺言を公証役場に持ち込み、遺言の存在だけを公証人に保証してもらう形式。署名と押印を自分で行えばパソコン等で作れるが、遺言は自己保管で手数料もかかるため、利用している人は少ない。

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 同連合会によると、一七年に作成された公正証書遺言は十一万百九十一件で、〇七年の一・五倍。また、家庭裁判所が記載内容を確認した同年の自筆証書遺言などの検認件数は一万七千三百九十四件(最高裁の速報値)で、十年前の一・三倍に増加した。

 遺言だけでなく、離婚や子どもがいない夫婦など家族の多様化に伴い、「家族信託」も注目を集め始めている。通常の遺言では、例えば「代々の土地を妻に、妻の死後は先妻との子に引き継がせる」など、二代先の相続人を指定することはできない。信託契約では、土地の「受託者」を先妻との子に、土地の賃料を得る「受益者」を現在の妻にしておけば、本人の死後は妻に賃料が入り、妻の死後は先妻との子に土地が引き継がれる。

 ただ、遺言も家族信託も、認知症などによる判断能力の低下が障害になることもある。家族信託は契約が困難になり、公正証書遺言を残した場合も裁判で「遺言作成に必要な意思能力がなかった」と判断されて、無効になる恐れはある。

 担当した公正証書遺言が無効になった経験がある元公証人の男性(70)は「遺言能力を判断する統一ルールはない。イエス、ノーで聞き取るのではなく、遺言内容を自ら説明してもらうなど、公証人もより慎重に判断する必要がある」と話した。

◆宙に浮く遺産増加

 財産の相続人などを遺言に書き残す人が増えている一方で、未婚率の増加や家族関係の希薄化などで宙に浮く遺産が目立ち始めた。受取人がいない遺産は国が「相続」する形で国庫に入るが、二〇一六年度はその額が四百三十九億四千七百五十六万円に上り、最高裁に記録が残る一二年以降で最多だった。

連載で紹介し、子どもと親のための医療施設への寄付を遺言で言い残した元看護師の女性は、関係者への手紙でも「いま出来ることがあれば」と伝えていた

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 相続人不存在が増えている理由の一つに、独居高齢者の増加がある。昨年十二月、東京都内の住宅街に立つアパート兼住宅で、大家の男性(70)が亡くなっているのが見つかった。郵便受けに新聞がたまっていたのを配達員が不審に思い、通報したのがきっかけだった。

 このアパートを管理する不動産会社によると、男性は独身で子どもがおらず、両親と兄弟は既に亡くなっていた。保有する不動産や預金など計二億円を超えるとみられる財産があるが、相続人はおらず、遺産の行き先は定まっていない。

 配偶者や子どもなどの相続人がいなかったり、相続が放棄されたりした場合、家庭裁判所は債権者らの申し立てに基づき、弁護士などを「相続財産管理人」として選任する。相続財産管理人は故人の債務を支払い、身の回りの世話をしていたなど特別な事情が認められた縁故者に財産を分配した上で、残った遺産を国庫に納める。

 最高裁によると、国庫に納付された遺産は一二年度で三百七十四億七千二百九十三万円。以降、増加傾向にあり、一四年度に四百億円を突破した。相続財産管理人の選任数も増えており、司法統計によると、一六年は一万九千八百十一人。〇六年の一万一千六百八十九人に対し、十年間で一・七倍になった。

 生前に築いた財産を確実に誰かに引き継いでもらうには、どうすればいいか。連載では、財産を「子どもと親のための医療施設に寄付してほしい」と遺言に書いていた元看護師の女性を紹介した。単身高齢者の増加に伴い、親族以外に財産を贈る「遺贈寄付」も増えている。

 相続に関する著書が多い相続コーディネート実務士の曽根恵子さんは「身寄りのない人でも、遺言などで第三者に財産を残すことは可能。家督相続制度がなくなり、家族のありようが多様化した今、自分の意思を残すことがますます重要になっている」と指摘する。

◆恩返しの献体 東日本大震災の年、最多

 意思を残す方法の一つとして、死後に自分の体を医学生の解剖実習に提供する「献体」がある。連載では、治療への感謝から大学病院への献体を決めているがん患者の男性(77)を紹介した。全国の医大や専門団体には年平均で約六千九百人の新規登録があるが、東日本大震災の発生後の二〇一一年度は登録者が突出し、過去最多になった。

 篤志解剖全国連合会(東京)によると、一一年度の登録者は平均の倍近い一万二千四百八十四人。同会の前会長で、杏林大医学部の松村譲児教授(65)は「災害で死に直面した人たちが、誰かの役に立ちたいと考えたのでは」と推測する。順天堂大医学部の坂井建雄(たつお)教授(65)=解剖学=も「『社会に役立ちたい』と考えていた人の心に、震災が拍車をかけた」とみている。

 内閣府が一二年に実施した社会意識に関する世論調査では、「震災前より、社会の結び付きが大切だと思うようになった」と答えた人が八割に上った。

 千葉大の献体団体・千葉白菊会の会長で、自身も十二年ほど前に登録した大沢国昭さん(80)=千葉県習志野市=は「震災で、自分は世の中に何を残せるのか考えた人は多い」と話す。登録者同士で話をしていると、震災をきっかけに献体を考えたという声を数多く聞くという。

 千葉白菊会への登録は動機書のほか、配偶者と子ども、きょうだい全員の同意を必要とするなど、条件は厳しい。それでも希望者が多く、数年に一回は募集を停止している。大沢さんは「献体は医学のために体を残す。だから希望を持って死ねる。日本にもボランティア精神が広まってきたということだ」と述べた。

◆生前の自分 目に見える形で

スマートフォン画面に登録済みの画像などが現れる「スマ墓」の利用イメージ=良心石材提供

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 先端技術を使ったサービスで、生前の自分を目に見える形で残す人もいる。

 千葉県香取市の石材会社「良心石材」は昨年八月、デジタル技術で故人の姿を再現する「スマ墓(ぼ)」サービスを始めた。思い出の場所でスマートフォンをかざすと、画面に故人がよみがえる仕組みだ。

 利用者は生前、自身の写真やメッセージ付きの動画を登録。家族らと一緒に行った観光地などを「墓」として指定しておく。自分の死後に家族らが「墓」を訪れ、スマホの専用アプリを起動すれば、登録済みの写真や動画が画面に現れる。目の前の風景を映したスマホの画面にキャラクターが現れるゲーム「ポケモンGO」と同様の技術を使っている。

 発案した香取良幸社長(35)は「墓守の負担や費用などの面からお墓の購入を見送る人々が利用している。死後も自分自身の姿で遺族にメッセージを伝えたいという思いも強い」と話す。折り合いの悪かった親族に対し、「行き違いはあったけれど感謝しています」などと、普段は面と向かって言いにくい気持ちを託す人もいるという。

 「スマ墓」の利用料は、遺骨の預かりサービスを含み年六千円。現在、自身の写真や動画を登録した利用者は六十歳前後を中心に百人ほどで、死後は遺族が利用料を支払う。

 写真や動画ではなく、生前の姿を人形として残すサービスも生まれている。大阪市のデザイン会社「ロイスエンタテインメント」は二〇一五年から、故人の写真を基に、3Dプリンターを使って二十〜三十センチの「遺フィギュア」を作成。昨年は前年の倍となる約二百件の注文を受けた。

 価格は十万〜二十万円台。多くは遺族からの依頼だが、古荘光一社長(42)は「自分の死期を悟った高齢者が、家族へ贈るために利用することもある」と話す。

 

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