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メメント・モリ

第4部「自分を遺す」 (5)離れて眠る

大興寺には女性だけが眠る墓がある。生前の契約は81人に上っている=佐賀市で

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 佐賀市の住宅地にある古刹(こさつ)・大興寺。三百年の歴史を持つこの寺に、女性だけが眠る墓がある。佐賀県内に住む自営業の女性(43)はバラやマリーゴールドが咲く墓苑の一角を買い、「樂(らく)」という文字を刻んだ墓に間もなく母親の遺骨を納める。がんを患い、三月に六十六歳で亡くなった。

 母親は長い間、女性の父親からの暴力に耐えていた。体にいくつもあざを作り、額から血を流すこともあった。父親は酒に酔うと包丁を持ち出した。母親はそのたびに二人の娘を逃がし、自分だけが殴られた。

 がんが見つかったのは二〇一六年の秋。手術前に女性が受け取った手紙には「もしもの時、家には行かず斎場に連れて行って。納骨も家のお墓は嫌です」と書かれていた。母親は離婚したくても夫が怖くて言い出せず、せめて死後は別の墓に入れてほしいと願っていた。女性は姉(45)と相談して大興寺を訪れ、「お母さん、やっと自由になれる」と購入を決めた。

 大興寺には家族墓などのほか、女性のための集合墓や一〜二人で入る個別墓がある。生涯を未婚で過ごす人や離婚した人の利用を見込み、一四年七月に開設した。女性だけで埋葬されているのは二十八人。生前契約は現在、八十一人。「夫や義母と同じ墓は嫌」という理由で申し込んだ人は、これまでに十人いた。田中浩樹(こうじゅ)住職(53)は「『離婚はしなくても墓は別に』という需要は、想像していなかった」と驚いている。

 相談窓口「保険クリニック」を運営するアイリックコーポレーション(東京)が一七年、男女各三百人に行ったインターネット調査では、「配偶者と同じお墓に入りたいか」との質問に女性の32・7%が「入りたくない」と回答。14・7%だった男性を大きく上回った。第一生命経済研究所の〇九年の調査でも、「誰と一緒のお墓に入りたいか」という質問に男性の48・6%が「先祖代々のお墓」と答えたのに対し、女性は29・9%にとどまった。

 大興寺の個別墓を生前予約した佐賀市の無職の女性(55)は「嫁ぎ先の墓には入りたくない」と言い切った。不仲だった義母は六年前に亡くなり、「一緒のお墓に入ったら死んだ後もいじめられる。安心して眠りたい」と考えたという。

 暴力や夫の家族との関係だけでなく、自分の家族のために別々の墓を考えている女性もいる。「夫婦仲は良い。でも、夫の実家のお墓には入らないかもしれない」。東京都内に住む女性(58)は、そう話す。

 女性は一人っ子で、雑貨店を切り盛りしていた両親に大切に育てられた。買い物で町を一緒に歩く時、母親は笑顔で腕を組んでくれた。年ごろになった自分に男性から電話があるたびに、父親はへそを曲げた。二人ともいつも優しかったが、父親は九年前、母親は五年前に亡くなった。

 夫の実家との関係は悪くない。この先も一緒に生きていく夫と同じ墓に入りたい気持ちもある。ただ、自分がたった一人の子どもだったことを考えると、両親を「放っておけない」とも感じる。

 両親は樹木葬の墓で眠っている。女性はそのすぐ隣の区画を自分の墓として生前購入した。死の直前、母親は「あなたは、どこのお墓に入ってもいいのよ」と言ってくれたが、親子三人で過ごす時間を死後に遺(のこ)したいと思っている。

 =終わり

 (取材班=青柳知敏、小笠原寛明、杉藤貴浩、水越直哉、松野穂波)

 連載にご意見をお寄せください。〒460 8511(住所不要)中日新聞社会部「メメント・モリ」取材班 ファクス052(201)4331、Eメールshakai@chunichi.co.jp

 

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