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メメント・モリ

第3部「遺品の行方」総集編

両親の遺品が運び出された部屋。横浜市に住む男性は、故郷にあるこの家を売却する=金沢市で

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 その人の人生を彩った品は、死後、どこに行くのか。今月掲載した連載「メメント・モリ」第3部「遺品の行方」(全五回)では、家財道具などの引き取り手がなく放置されたままの公営住宅や、海を渡ってリサイクルされる遺品、生前に自宅を売却処分する高齢者などを取り上げた。一方で、故郷を離れて暮らし、親から相続した実家の処分に悩んでいる人もいる。故人がパソコンに残したデータが「デジタル遺品」として、将来の課題になりつつある。

◆のしかかる形見

 離れて暮らす両親が残した家。親の死後に相続したものの、故郷に帰る予定はなく、処分を決めた人がいる。

 横浜市港北区で保育園運営会社の代表を務めている男性(57)は、父親が他界した二〇一四年、金沢市内にある家を相続した。「親がせっかく残してくれた家と土地」との思いもあったが、売却する。

 約五十年前に父親が購入した木造二階建て。母も亡くなり、両親が残した家電などは遺品整理業者に頼んで片付けた。家屋を観光客向けの「民泊」などに使おうとも思ったが、改修費用や管理の手間を考え、踏ん切りがつかないまま空き家になっていた。

 売却を決心したのは、今年一月。空き巣が入り「いつまでも放置しておくのは良くない」と思うようになった。「売ったお金で僕らが幸せに暮らしていければ、父も喜ぶ」。今は不動産業者と具体的なやりとりを進めている。

 放置しておくのか、賃貸か売却か、取り壊すのか。空き家の所有者を対象にした国土交通省の一四年の調査では、今後五年ほどの予定を「所有者や親族が使う」とした人が22・9%で最も多く、「空き家にしておく」が21・5%で続いた。空き家にしておく理由は、「解体費用をかけたくない」との回答が39・9%に上った。

 建物解体の相談に応じ、業者に取り次いでいる「グエル・パラッシオ」(東京)によると、延べ床面積三十〜四十坪の木造二階建て住宅の場合、解体費用は百万〜百五十万円ほど。道幅が狭く重機が使えない立地では人力解体が必要になり、費用が増すこともあるという。

遺品整理業者が回収した家具や生活用品などの中には、コンテナで輸出し、海外でリサイクルされる品もある=千葉市で

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 土地の売却額よりも解体費用の方が高くつく「マイナスの遺産」になるケースもある。相続を知った日から原則三カ月以内ならば「相続放棄」も可能だが、時間は限られており、NPO法人「空家・空地管理センター」(埼玉県所沢市)の上田真一代表理事(33)は「親は自分の死後に家をどう扱ってほしいのか、生前に家族で話し合っておくことが大切だ」と話している。

◆デジタル遺品どうする

 遺品は家財などの目に見えるものばかりではない。インターネットやスマートフォンの急速な普及とともに、電子機器の中に残されたデータ、いわゆる「デジタル遺品」の処理が将来的な課題になりそうだ。預貯金など個人の資産データは相続に直結するが、親族でも存在を知らないケースが多いという。

 「夫のパソコンを調べてほしい」。昨年の春、愛知県に住む女性が「相続手続支援センター」(東京)の名古屋支部を訪れた。職員が電子メールなどを調べたところ、遺族が知らない二つのネット証券とネット銀行の口座から計約三千万円の資産が見つかった。

 多くの金融機関がオンライン通帳などペーパーレス化を進めており、紙の通帳の有料化を検討しているメガバンクもある。銀行や証券会社から定期的に届く通知も電子メールへの移行が進み、従来のように通帳や郵便物を手掛かりに故人の総資産を調べることが難しくなってきた。

 死後、時間がたってからオンライン資産が見つかって親族間の相続紛争になった事例もある。同センターの半田貢代表(68)は「独り暮らしの高齢者が増えた今、遺族はオンライン資産を調べるために、多くの時間とお金を費やさなければならなくなっている」と指摘する。

 総務省が二〇一六年に実施した年齢別の調査によると、八十代のインターネット利用率は23%だったが、七十代は53%、六十代は75%の高さだった。ITトラブルに対応している「日本PCサービス」(大阪府吹田市)が昨年扱ったデジタル遺品は約百四十件で、前年の約六十件の二倍超。同社広報・ブランディング推進室の三上慧(さと)さん(31)は「パソコンの中にデータを残す人は確実に増えており、さらに需要は高まる」と話す。

 多死社会の進行とともに増えていくデータの遺品にどう対応するべきか。「デジタル遺品研究会ルクシー」(東京)は生前の準備として、オンライン資産の所在やパスワードを書き込める「デジタル資産メモ」をホームページで無償提供している。プリントアウトして保管しておけば、自分が亡くなっても遺族が見つけ、パスワードなどを知ることができる。

 同会理事の古田雄介さん(40)は「処理の導線を書面で明確化しておくことで、家族に見られたくないデータを守りながら必要な遺産だけに触れてもらえる」と話している。

◆「遺留金」に自治体苦慮

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 身寄りの無い人たちが残した現金の取り扱いに、自治体が苦慮している。多死社会の到来や家族関係の希薄化で「遺留金」は今後も増えると予想されるが、法的な根拠がないまま自治体が預かる状況が続いている。

 引き取り手のいない遺留金は本来、民法の規定に基づいて、自治体が家庭裁判所に相続財産管理人の選任を申し立て、管理人が清算した後に経費を除いた残額を国庫に入れる。ただ、申し立てには数十万円程度の経費がかかり、遺留金が少額の場合、自治体は差額を負担しなければならない。

 このため、各自治体は少額の遺留金について、そのまま保管していることが少なくない。本紙の取材によると、名古屋市は累計で二千三百三十万円、川崎市は四千百万円、千葉市は二千三百七十万円を保管していた。

 昨年七月には名古屋市や千葉市など全国二十の政令指定都市でつくる指定都市市長会が、遺留金の扱いに関する根拠法の整備や、自治体が収納できるようにするための見直しを国に要請した。しかし、法務省や総務省、厚生労働省など関係省庁が複数にまたがる中、法改正に向けた具体的な道筋は見えていない。

 こうした事態を打開しようと、自治体が独自に条例を設ける動きが出てきた。神戸市は二月議会に遺留金の処理指針を示した条例案を提出し、二十八日に可決された。条例では、遺留金を予算外の「歳入歳出外現金(預かり金)」として保管することを明記。相続人を探す費用に遺留金を充てることができるなどとした。四月から施行する。

 同市保護課の担当者は「大都市部を中心に、財産があっても身寄りのない人はこれからさらに増える。神戸に限った話ではなく、条例には『法改正を求める』といったメッセージも込めた」と話した。

◆整理業者、トラブルも

 故人の自宅などを遺族に代わって片付ける遺品整理業が増える中、見積もり料金を大きく上回る高額請求などのトラブルも一部で問題となっている。

 独立行政法人国民生活センターによると、遺品整理に関する相談は「廃品回収」に含まれるため個別の増減傾向は分からないが、全国各地からトラブルの声が寄せられている。

 一月にあった相談は、四国地方の九十代女性からだった。亡くなった娘の自宅を片付けるため遺品整理業者を利用し、遺品一式を女性宅まで三十万円で運んでもらうことになっていたという。

 ところが、業者は遺品の一部を女性宅の駐車場までしか移動させず、「家の二階まで上げるなら、さらに二十万円が必要」と要求した。女性は契約当初と違う内容に困惑したが、自力では遺品を運べないため、やむなく支払った。

 別のケースでは、二十代の女性が見積もりのために業者を自宅に呼んだところ、初回はあいさつ程度で終了。二回目の訪問では業者が五、六人の作業員を連れて現れ、見積もりや料金の説明をせずに突然作業を始めて、百万円を請求されたという。

 遺品整理・解体業「グラム」(愛知県豊田市)の深田勝善社長(36)は「多くの人は遺品整理を利用した経験がなく、信頼できる業者を選ぶのは簡単ではない」と指摘する。

 以前、別の業者からの高額請求に悩んでいた利用者に見積書の内訳を見せてもらったところ、「電子レンジのコンセントを抜く」という項目だけで「二千円」と書かれていたこともあったという。深田社長は「手間がかかっても三社程度の見積もりを取り、落ち着いて比較してほしい」と話す。

 業界の健全化を訴える遺品整理士認定協会(北海道千歳市)は昨年十二月、「不用品回収健全化指導員」の資格を設け、これまでに約三百人が取得した。指導員の多くは遺品整理業者で、自社のホームページやチラシなどを通じて、悪質業者の被害に遭わないためのアドバイスなどを周知するという。

◆置き去り

 都道府県と全国の政令指定都市を対象に本紙が実施したアンケートでは、公営住宅で引き取り手のいない遺品をそのまま保管していると回答したのは、愛知県、神奈川県、名古屋市、川崎市など二十七自治体に上り、全体の約四割を占めた。遺品が残されている住宅は計六百二十七戸に上った。

 遺品の所有権は、民法の規定で親族などの相続人にある。相続人が家庭裁判所で相続放棄の手続きをすれば、自治体が遺品を処分できるが、相続人に連絡がつかなかったり、相続を拒まれたりして、処分が滞るケースが相次いでいる。

 相続人が見つからない場合、相続財産管理人を家庭裁判所に申し立て、財産を処分する方法もある。ただ、老朽化した公営住宅では次の入居が見込めないこともあり、「費用対効果が著しく悪い」と訴える自治体もあった。

 一方、入居待ちの多い公営住宅では、法的な根拠があいまいなまま遺品の処分に踏み切る自治体も少なくない。千葉県、長野県、横浜市、名古屋市など二十八自治体が、職権で廃棄することがあると回答。二〇一六年度には二百五十二戸で家財などが処分された。

 入居者の高齢化を背景に「遺品が置き去りにされた公営住宅がますます増える」との懸念や、「所有権の問題を解消する法整備」など国への要望も寄せられた。

 アンケートは二月二十六日〜三月八日、都道府県と政令指定都市の六十七自治体に書面で実施し、回答率は100%だった。

 

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