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メメント・モリ

第3部「遺品の行方」 (4)トラブル

リサイクル会社に勤める加藤翔吾さんが示す先に回収物が不法投棄されていた=札幌市中央区で

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 わずか三分の犯行だった。

 昨年七月二十五日、札幌市にあるリサイクル会社「マテック」の無人回収施設。ワゴン車から降りた三人の男が、回収ボックスに土のう袋を投げ入れて立ち去った。作業に訪れた社員の加藤翔吾さん(34)が袋に気付き、本社に連絡した。防犯カメラには不法投棄の一部始終が写っていた。

 その三カ月半後、北海道警は廃棄物処理法違反の疑いで、遺品整理などを請け負う便利屋の社長(41)らを逮捕した。依頼者に「合法的に処理するから料金が高い」と話して数十万円を受け取る一方で、計三回、合わせて約四百キロを不法投棄していた。故人をしのばせるアルバムや賞状なども捨てていた。

 公判中の社長の父親は「息子がしたことだから」と、雪をかき分けながら被害品を一人で片付けた。「処理費用を抑えたかったらしい。ただ、遺品まで捨てていたなんて」。今月五日に自宅で取材に応じた父親は、膝の上で拳を握ってうつむいた。

 遺品整理を巡るトラブルは不法投棄だけではない。二〇一一年九月に遺品整理士認定協会(北海道千歳市)を立ち上げた木村栄治理事長(53)が業界に参入したきっかけも、忘れたくても忘れられない自身の体験だ。

 前年に父親を亡くした木村さんは、地元の業者に遺品整理を依頼した。「こちらは捨てていいですね」。父親が風呂上がりにいつも着ていた水色と白のストライプのパジャマを段ボール箱に放り込まれたとき、尊厳が傷つけられたような気がした。「お金は払うので作業を止めてもらえませんか」。遺品は一カ月かけて自分で整理した。

 「終活」という言葉がユーキャン新語・流行語大賞のトップ10に入ったのは一二年。その年に認定協会の取り組みがインターネットで紹介されると、初日だけで約六百件の問い合わせがあった。八割以上がビジネスチャンスと捉えた新規参入の希望者。発足時に百三十五社だった協会の会員企業は、八千百二十六社に増えている。

 ネット上には遺品整理業者のさまざまな宣伝文句が躍る。「追加請求なし三万円」「即日対応」「外注なし」…。その中で、東京近郊に本社がある業者に電話をすると、応答した男性は「今はトラック一台で一万円。適正に処理しています」。ところが、具体的な処理方法を尋ねると「もういいですか」と電話を切り、取材を断った。

 遺族が引き取らず、リサイクルにも回されない遺品は、一般廃棄物として処理される。収集や運搬には市町村の許可が必要だが、「トラック一台で一万円」と答えた業者は自治体の許可を得ていない。

 全国の許可業者でつくる全日本一般廃棄物収集運搬協同組合(東京)の山根祥二事務局長(62)は「単身者宅の片付けで出る遺品は八立方メートルほど」と説明する。二トントラック程度の量で、遺品整理費以外にかかる処理費用の相場は約八万円という。

 「遺品には故人の思いや生活が詰まっている。不用品やごみではない」。認定協会の木村理事長はそう話し、整理士の国家資格化を国に働き掛けている。遺品のすべてを「捨ててほしい」と業者に頼む遺族もいるが、捨てられそうになった父親のパジャマを今も家族で大切に持っている。

 連載にご意見をお寄せください。〒460 8511(住所不要)中日新聞社会部「メメント・モリ」取材班 ファクス052(201)4331、Eメールshakai@chunichi.co.jp

 

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