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メメント・モリ

第2部「消えゆく墓」総集編

 過疎化や少子化などで守(も)り人を失う墓。今月掲載した連載「メメント・モリ」第2部「消えゆく墓」(全六回)は、持ち主がいない「無縁墓(むえんぼ)」の撤去や「墓じまい」の後の墓石や遺骨の行方、そこに生まれた新たなビジネスの現状などを取り上げた。自治体へのアンケートでは、公営墓地にある無縁墓の整理に苦労している現場の実態が浮かんだ。国に明確な基準がない中で、自治体は独自の判断を迫られている。一方で、安置や供養もされず、がれきのように捨てられている墓石もある。

■不法 墓捨て山、積もるため息 

山の中に不法投棄された大量の墓石。業者は摘発されたが、撤去の見通しは立っていない=兵庫県南あわじ市で

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 無縁墓の撤去や墓じまいが広がる中、不要となった墓石が不法投棄されている現場がある。

 淡路島の南端、鳴門海峡を隔てて四国を望む兵庫県南あわじ市。有料道路のインターを下りてすぐの山中に、推定千五百トンの墓石が捨てられている。

 先月中旬、廃棄物行政を担当する兵庫県淡路県民局の家田周二環境参事と現場を訪れた。山すそを切り開いた細長い土地に、幅十メートル、奥行き五十メートル程度にわたって墓石が乱雑に積まれていた。「高さは最大で五メートルはあるでしょう」。家田参事がため息をついた。

 県によると、不法投棄は二〇〇四年ごろから始まった。同県洲本市の石材店社長と従業員が、県内や大阪府、京都府の寺院などで撤去された墓石を同業者から有料で引き取り、処理費用を浮かすため破砕やリサイクルなどの適正な処分をせずに、現場に捨てていた。

 二人は〇八年に廃棄物処理法違反罪で有罪が確定したが、資金不足を理由に撤去はしていない。仮に県が処理する場合でも、費用は四千万円以上と試算されている。「不法投棄の後始末にそれだけの公費を投入することはできない」と家田参事。土壌汚染など差し迫った懸念はないが、今後も業者への撤去要請を続けるという。

 不法投棄は岐阜県美濃市でも五年前に発覚した。地元の石材回収業者が山中に四百立方メートル以上の墓石を捨てていた。県の指導で昨年から撤去が始まったが、まだ大半の墓石が現場に残っているという。千葉県佐倉市では〇九年、茨城県神栖市でも一〇年に墓石の不法投棄が見つかっている。

 これらの現状に対し、二百社以上の石材店などでつくる全国石製品協同組合の筒井哲郎事務局長は「墓石を自社で処分できずに産業廃棄物業者に委託する場合、処理の過程を追える産廃管理票(マニフェスト)で適正な流れを確認することが必須だ」と話している。

■撤去 無縁、自治体にツケ

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 政令指定都市や県庁所在地など八十自治体を対象にした本紙アンケートで、公営墓地にある無縁墓の実数を把握していたのは二十四自治体。無縁墓の合計は一万六千五百十七基・区画に上ったが、墓地埋葬法が撤去時の具体的な扱い方を定めていないため、対応の仕方は自治体によってまちまちだ。

 旧加賀藩主の前田家も眠る「野田山墓地」を管理している金沢市は、一九七七年から無縁墓の大規模な整理を実施。墓地を十一のブロックに分け、これまでに七ブロック、計三千七百六十二基を撤去した。現在も一つのブロックで作業を進めている。

 東京都は二〇一二〜一六年度にかけて、計千百七十五区画で無縁墓を撤去した。納められていた遺骨の移し先になる「無縁塚」も順次、増やしている。岐阜市はこれまでに二百八十一区画で撤去し、墓石などを霊園の一角で一時保管している。

 その一方、人手不足や予算的な理由により撤去をためらう自治体も少なくない。横浜市は昨年九月、管理料の支払いが滞り、無縁化が疑われる八百八十七区画を把握した。だが、戸籍や住民票に基づく縁故者の調査や立て札による公告など「多くの労力と時間を要する」(同市環境施設課)ため、具体的な撤去には至っていない。

 福井市は職員の見回りや利用者の通報から、数十基程度が無縁化しているとみているが、撤去には一基あたり五十万円以上かかると想定されるため、予算化はしていない。

 無縁墓の有無などの質問とは別に設けた自由記入欄には、法整備など国への要望が寄せられた。浜松市は、放置された墓石の撤去や遺骨を合葬墓などに移す「改葬(かいそう)」について「取り扱いは法の解釈もさまざまで明確な手順が無く、手探り状態にある」。愛知県豊田市は「国は実務的な内容を含めた指針を定めてほしい」とした。

 アンケートで公営墓地があると回答したのは七十三自治体。うち四十九自治体が無縁墓を抱えている一方で、二十二自治体が「撤去していない」と答えた。無縁墓が「ない」としたのは八自治体。十六自治体は、無縁墓の有無を「把握できていない」と答えた。

 <アンケートの方法> 1月17〜26日、政令指定都市、県庁所在地、中核市の79市と東京都を対象に実施。公営墓地の有無や無縁墓の実数、撤去の状況などを書面で尋ね、回答率は100%だった。

■規制 散骨、どこにどう? 

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 故郷を離れて暮らす子どもに将来の負担を掛けたくない−。連載では、先祖代々の墓を自分の代で撤去・解体する「墓じまい」をテーマの一つに取り上げ、納められていた遺骨を海などにまいて供養する「散骨」の現場をリポートした。

 散骨は「好きな海に帰してほしい」など故人の遺志による新しい葬送方法としても需要が増えているが、場所やモラルを巡るトラブルも起きている。国に基準がなく、合法か違法かの線引きがあいまいな中、本紙の調べでは少なくとも十二自治体が条例などを制定して独自に規制していた。

 全国で初めて条例化に踏み切ったのは北海道長沼町だ。NPO法人が二〇〇四年、山林に計画した散骨専用の公園に、住民が「農産物への風評被害が心配」などと反発。町は〇五年、「何人も、墓地以外の場所で焼骨を散布してはならない」と規定する「さわやか環境づくり条例」を制定し、NPOは計画を断念した。

 長野県諏訪市では〇五年、宗教法人が散骨場の建設を計画。長沼町と同様に住民の反対運動が起こり、〇六年に「墓地等の経営の許可等に関する条例」を改正して、散骨場経営を市長の許可制にした。改正条例は住民説明会や地元の同意も必要としている。

 海に面した観光地・静岡県熱海市は一五年、民間業者による散骨場の計画をきっかけに、条例とともに海洋散骨業者向けのガイドラインを作成した。市の担当者は「無秩序に行われると、風評被害などで熱海のブランドイメージが傷つく」と説明。陸地から十キロ以上離れた海域で行い、広告などで「熱海」を連想する文言を使わないよう事業者に求めている。

 行政以外では、三十一業者が加盟する日本海洋散骨協会が一四年、「陸から一カイリ(約千八百メートル)以上離れる」「漁場や航路は避ける」などとするガイドラインを設けた。条例などで規制することには「散骨を希望する方々の思いを看過するもので残念」との立場を表明しており、業界内の自主的な対応として、海洋散骨のマナーや法律、船舶の知識を持つアドバイザーの検定試験を実施している。

◆死後の安寧を万人に 第一生命経済研究所・小谷みどり主席研究員

小谷みどりさん

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 多死社会の中で消えていく墓守の世代。葬送問題に詳しい第一生命経済研究所主席研究員の小谷みどりさん(49)は、墓を受け継ぐ家族だけの話でなく、行政が「福祉」の観点で対応するべきだと指摘する。

 無縁墓の問題は、各地で問題化している空き家と同じだ。ただ、住む人も継承する人もいなくなった空き家が街の中にあるのに対して、墓は郊外にある。住民の生活環境に直接影響を与えないため、放置されがちになっている。

 日本では公営、民間を問わず、家族が代々入るという同じ形態の墓を作ってきた。ところが、今はライフスタイルが変わった。核家族化が進み、一九九〇年ごろからは生涯未婚率も伸びている。子孫がいれば同じ墓に入れるが、いなければ無縁墓になってしまう。だからこそ、自治体は先手を打たなければならない。

 例えば、十年や二十年といった期限を設け、その後は遺骨を取り出して合葬墓に入れる「レンタル墓」のような仕組みを整備する。墓を継承する子どもがいなくても、場所を共有してみな平等に入れる。そのように、時代に合った新しい形態の墓が必要になる。

 「先祖の墓には入らず、家族の墓を作りたい」という人も増えているが、地縁、血縁の関係性が薄れていく中で「家族」や「集団」の概念は変わりつつある。生前のつながりは必ずしも家族に限られず、友人同士など新たな横のつながりの墓がこれから増えてくると思う。

 日本の墓地政策は「生活衛生」の観点で行われ、「公共政策」として捉える認識が薄い。経済的な理由や家族、子孫の有無にかかわらず、どんな人も等しく葬られ、死後の安寧が保証されるべきだ。

 近年は生前に墓地を購入する人も多いが、それは死後に対する不安の表れのようにも映る。亡くなった人へのサービスではなく、生きている人へのサービスとして、住民に安心感を与える「福祉」の視点が何より大切だ。

 <こたに・みどり> 1969年、大阪府生まれ。第一生命経済研究所主席研究員。専門は生活設計論、死生学、葬送問題。著書に「だれが墓を守るのか−多死・人口減少社会のなかで」(岩波書店)など。奈良女子大や大阪教育大などで非常勤講師も務める。

◆電話やメール 相談「気軽に」

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 連載には読者から「目を背けられない現実だと思った」「将来を考えるきっかけになった」など多くの意見が寄せられた。家族の墓をどうすればいいのか、不安を訴える声もあった。

 石材業者でつくる日本石材産業協会(東京)は「全国お墓なんでも相談室」を開設し、電話で質問を受け付けている。墓の継承者がいない高齢者からの相談が多く、大代賢一専務理事は「地域によって墓の事情は異なる。業者に直接聞きづらいことも気軽に相談してほしい」と話している。

 NPO法人永代供養推進協会(東京)は、墓や葬儀、仏事全般に関する相談に答えている。僧籍がある小原崇裕代表は「改葬や、それに伴う遺骨の供養に困っている人の不安や心配を解消したい」と話した。

 いずれの団体も電話のほか、メールでの相談も受け付けている。メールはホームページから送ることができる。

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 取材・青柳知敏、小笠原寛明、土門哲雄、杉藤貴浩、田嶋豊、佐藤浩太郎 紙面構成・上田真也

 

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