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メメント・モリ

第2部「消えゆく墓」 (6)苦境

雪の中で倒木を取り除く前住職の妻石原満里さん。檀家も高齢化し、墓の世話が困難になっている=石川県加賀市の実性院で

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 兵庫県南あわじ市。淡路島にあるこの町から人が減り始めたのは、一九九五年一月十七日、隣接する同県洲本市で「震度6」を観測した阪神大震災の後からだ。

 町は四百年の歴史を持つ「淡路瓦」を地場産業に栄えてきたが、震災で多くの家屋が倒壊した原因が「重い瓦のせいだった」との風評が広がり、出荷が減少。人口は十年前の約五万二千九百人から五千人近く減り、六十五歳以上の割合を示す高齢化率は33・5%に達している。

 「人口とともに、寺から檀家(だんか)が減っていく」。南あわじ市内にある日光寺で、森田俊寛(しゅんかん)住職(35)がつぶやいた。約一万平方メートルの墓地には年代が分からない土葬の墓を含め、千基を超える墓石が並んでいる。「うち数百基は『仏さん』ではなく、誰も世話をしない『ほっとけさん』の墓だ」

 使用者が分からない「無縁墓(むえんぼ)」は年四千円の管理料が請求できず、寺の負担で更地にしても買い手が見つかる保証はない。震災前に八百五十軒ほどあった檀家は、約半分の四百四十軒にまで減った。三〜四年前からは「墓じまい」が年に十件ほどある。

 日光寺の檀家でタマネギなどを栽培する農家の女性(69)は、将来の墓じまいを夫(68)と話し合っている。四十代の娘二人は結婚して実家を出ており、後継ぎはいない。墓は女性の父親が七〇年ごろに建て、両親と祖父母の遺骨が納められている。女性は「みんな一度取り出して、永代供養墓に入れるしかないんかな」と考え始めている。

 葬儀や法要のお布施、墓地管理料が主な収入源の寺にとって、檀家の減少は寺の存続に直結する。宗教専門紙「中外日報」の二〇一五年の調査によると、曹洞宗、浄土真宗など十大宗派の約六万二千寺のうち、住職がいない、もしくは代理の住職が兼務している寺は、少なくとも全国で約一万二千寺に上った。

 石川県加賀市。JR北陸線の大聖寺(だいしょうじ)駅から徒歩十分ほどの実性院(じっしょういん)で昨年六月、七十一歳だった住職が亡くなった。江戸時代の地元藩主の菩提(ぼだい)寺で、檀家は五十数軒。後継者はおらず、福井県あわら市の僧侶が兼務している。その僧侶も八十七歳と高齢。法要や葬儀で加賀に足を運ぶのは月に二回ほどだ。

 寺の経理や墓参者の対応には、亡くなった住職の妻石原満里さん(70)と檀家総代の田中豊さん(71)が無報酬で当たっている。ただ、林の斜面に点在している墓の管理は重労働だ。「約百五十基。体にこたえる」

 冬は雪の重みで折れた枝が墓石にかぶさり、夏と秋は雑草や落ち葉に覆われる。お盆とお彼岸、正月の前は業者に清掃を頼んでいるが、寺の経営は厳しく、費用がのし掛かる。

 田中さんは八年前、病気で妻を亡くした。実性院には本家の墓もあるが、田中さんは妻のために新しい墓を建てた。三人の子どもは故郷を離れて暮らしている。将来、戻ってくる予定はない。

 寺の世話をしながら、週に一度は妻の墓に手を合わせる。自分もいつか入る墓。体が動く限りは「守る」と決めているが、高齢化した檀家や都会に出て行く跡取りの姿を見ると、守る世代が消えてしまうのではないかと不安になる。

 =終わり

 (取材班=青柳知敏、小笠原寛明、土門哲雄、杉藤貴浩、田嶋豊、佐藤浩太郎)

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