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メメント・モリ

第2部「消えゆく墓」 (5)無縁の代償

墓守が途絶え、竹やぶのように荒れている「瓦屋墓地」。約9割が無縁墓になっている=熊本県人吉市で

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 薄暗い竹やぶに埋もれるように墓石が並んでいる。もろくなった石肌にツタが絡みつき、家名も建立年も読みとれない。熊本県の南端、人吉市の「瓦屋墓地」は、山中の敷地に八百四十四基の墓が点在している。

 市が五年前に行った実態調査は驚くべき結果だった。使用者と連絡が付かず、墓守をする人もいない「無縁墓(むえんぼ)」が、瓦屋墓地の約九割、七百五十一基に上った。瓦屋を含めて十四カ所ある市有墓地全体では約千九百基。時間とともに荒れてゆく一方だが、市環境課の秋永敦課長(55)は「手の出しようがない」と話す。

 調査後にあった市議会一般質問。市有墓地からすべての無縁墓を撤去する場合の費用を聞かれ、市は「億単位と予想される」と答えた。人口三万余りの市で、一般会計の予算規模は約百六十五億円。墓地整備に毎年数百万円しかかけられない中では桁違いの負担だ。

 人吉市の市有墓地の多くは江戸時代に起源を持つ。各集落で生まれ、住民が自分たちの手で守っていた共同墓地が大半だ。戦後の市街地整備で土地の所有権は市に移したが、それぞれの墓が誰のもので、いつからあるのか、十分に把握できていない。

 主産業の林業が衰退し、人口はピークだった一九五五(昭和三十)年の七割に減った。木々が覆い、元の山に戻りそうな瓦屋墓地を見渡し、秋永課長は言った。「細っていく地方都市は、どこも同じような問題を抱えているでしょう」

 大都市も無縁墓に悩んでいる。大阪市平野区の市設「瓜破(うりわり)霊園」には、整然と手入れされた墓に交じり、「撤去予定地」の札が立つ区画がある。市は二〇一七年度、この霊園で無縁墓の整理を始めた。三月末までに、まず四十七区画を更地に戻す。

 一区画の撤去には四十万円ほどの公費がかかるが、同じ区画の新たな使用権を売り出せば一平方メートルにつき八十万円が霊園に入る。ただ、事業管理課の片岡誠司課長代理(46)は「収入だけを考えれば無縁墓をどんどん撤去すればいいが、そう簡単にはいかない」と明かす。

 墓地の管理者がその墓を無縁墓と判断して撤去するには、墓地埋葬法に基づく手続きが必要だ。現場に立て札などを掲示して使用者らに連絡を求め、官報に公告する。期間はともに一年。「でも、後になって使用者や遺族が現れたら…。しゃくし定規には進められない」

 実際、別の場所にある市設霊園で無縁墓の整理を進めた際、公告期間がすぎた墓に、遠い親族だという夫婦が「久しぶりに大阪に寄ったので」と供養に来たことがあったという。今回更地にする四十七区画も、市は五年かけて撤去対象を絞り込んだ。

 市内最大、甲子園球場七個分の敷地に一万二千区画を超える墓が密集する瓜破霊園。今も半数近い約五千七百区画を対象に、無縁墓かどうかの調査が続いている。お盆や彼岸が終わると現場の職員十数人で花が供えられていない墓を見つけ出し、戸籍や住民票を頼りに使用者をたどっている。

 「その中に、本当に撤去していい墓がどれだけあるのか」。広大な墓地を見詰めながら、片岡課長代理がつぶやいた。

 連載にご意見をお寄せください。〒460 8511(住所不要)中日新聞社会部「メメント・モリ」取材班 ファクス052(201)4331、Eメールshakai@chunichi.co.jp

 

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