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メメント・モリ

第2部「消えゆく墓」 (2)末路

墓地から撤去され、解体される墓石。名前や没年を読めないように消していく=神奈川県横須賀市の大橋石材店で

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 金属音を放つドリルが石肌に突き刺さる。回転する刃先は瞬く間に深さ数センチにまでのめり込んだ。

 神奈川県横須賀市にある大橋石材店。防塵(ぼうじん)マスクを着けた大橋理宏(まさひろ)社長(51)が墓石を砕き割っている。墓地から撤去され、遺族が安置や供養を望まなかった墓石。ドリルで開けた穴に太いくぎのような金属の棒を差し込み、超硬合金の金づちを何度も振り下ろす。

 ピシッ。金づちを打ち付けていると、氷がひび割れるような音がした。その音とともに、横に寝かせた長さ七十センチほどの墓石が真っ二つに割れた。

 社長が割ったこの墓石は、昨年末まで近くにある寺院の墓地に立っていた。不要となった墓石を撤去する仕事は、年間三十〜四十件。「墓を建てる仕事が減る一方で、数年前からこうした仕事が増えた」。社員二人とともに各地の現場を回っている。

 砕き割った墓石は産業廃棄物として中間処理業者に運ばれる。国に基準はなく、多くの自治体が撤去後の墓石を産廃とみなしている。ただ、一目で墓石だったと分かる状態での受け入れを「縁起が悪い」と嫌がる処理業者もいるという。

 「だから、字をつぶす」。社長は再び金づちを手に取ると、墓石に刻まれた文字を一つ一つ削り始めた。「先祖代々之墓」「昭和八年 七十二才」。グラインダーの丸い刃で文字に縦線を入れ、名前や没年を読めないように消していく。

      ◇

 関東地方にある産廃処理業者には、各地の石材店から砕かれた墓石が運び込まれる。黒や灰色の石の山をショベルカーですくい上げ、高さ三メートルを超す大型の破砕機に放り込む。一つ一つの石は三十センチ角ほどの大きさ。機械の内部にある二枚の鉄板でさらに小さく砕かれて、一分足らずで数センチの砂利になる。

 「墓石は硬くて機械が傷むから、あまりやりたくないんだけれど」。そう話す担当者が、砂利の行き先を説明した。セメントのくずなどと交ざり、道路建設でアスファルトの下に敷かれる路盤材として売られていく。未舗装の駐車場にばらまく砂利として売ることもある。人や車の足元で眠っている墓石の破片は、一トン数百円で取引されるという。

 墓石解体業「美匠(びしょう)」(奈良県橿原市)が三重県名張市に持つ敷地には、自社で使うために産廃業者から引き取った砂利が積まれていた。墓を撤去した後に残る穴やくぼみを埋める砂利。営業担当の西向(にしむき)友也部長(45)が、人工的に磨かれた跡がある小石を拾い上げて言った。「コンクリートやれんがの破片も交じっているが、これは墓石だったんでしょう」

 美匠は産廃の収集運搬の許可を持っており、許可のない同業者からも墓石の撤去や搬送の仕事を受けている。持ち主が分からなくなった墓の撤去を自治体から依頼されたこともある。昨年は現場の社員八人で、約三百件、一万トン以上の墓石を扱った。

 ただ、墓石はなくなっても、そこにあった故人の骨が消えるわけではない。西向部長は現場で感じている。「散骨、納骨堂…。遺骨の行方は、これから社会的な問題になるでしょう」

 連載にご意見をお寄せください。〒460 8511(住所不要)中日新聞社会部「メメント・モリ」取材班 ファクス052(201)4331、Eメールshakai@chunichi.co.jp

 

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