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メメント・モリ

第1部「亡骸を追う」 (5)自治体と国

◆法のはざま 戸惑い

残骨灰に含まれる有価物を「市町村」の所有と判断した1939年の判決。「大審院刑事判例集」に収められている

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 一九〇九(明治四十二)年二月四日、岐阜県高山市にあった高山西ケ洞火葬場で、残骨灰を巡る事件が発覚した。

 遺族が拾骨した後に残った計約九十貫目(約三百四十キロ)の骨を「肥吉(こえきち)」と呼ばれる住人が職員から買い取り、刑法の遺骨領得容疑で逮捕された。残骨灰は当時、肥料として使われることがあった。

 裁判は大審院(現在の最高裁)まで争われたが、翌一〇年十月四日、肥吉に言い渡された判決は「無罪」。大審院は残骨灰を価値のない「砂塵(さじん)」に等しいとみなし、遺骨の不法取得には当たらないと判断した。

 同様の裁判は昭和に入ってからも起きた。福島県平(たいら)市(現在のいわき市)の火葬場の職員が、灰に交じっていた金歯のくず約十二匁(もんめ)(約四十五グラム)を横領した事件。大審院は三九(昭和十四)年三月七日の判決で、拾骨後に残った金歯などの有価物の所有権が「市町村」にあるとの判断を示している。

 その判決から約八十年。残骨灰を誰が所有し、どのように処理するのか、国に統一基準はない。

 東京・霞が関。厚生労働省の庁舎七階にある面会用のテーブルで、塚野智久・生活衛生調整企画官(42)が言い切った。「残骨灰には法律も監督官庁もない」。墓地や火葬場の管理などを定めた墓地埋葬法(墓埋法)は厚労省の所管だが「残骨灰は法の枠外の存在だ」。

 環境省廃棄物適正処理推進課の八巻弓智(やまきゆみとも)主査(37)は「残骨灰は基本的に廃棄物処理法の対象ではない」と説明した。一般廃棄物と産業廃棄物は法で処理方法を定めているが、残骨灰はいずれにも該当しないという意味だ。

 法律のはざまで宙に浮く残骨灰。国はその処理を自治体に任せている。「法の枠外にある以上、処理を巡って自治体を指導することはできない」「宗教的感情の対象であり、国民には多様な考え方がある。最終的には自治体で判断してほしい」−。厚労省と環境省はこれらの理由を挙げるが、判断を委ねられた自治体は迷いを抱えている。

 山口県下関市の斎場担当者は、一円での随意契約が続く残骨灰の処理委託に課題を感じている。より良い発注方法を探すために墓埋法を読み返したが、「残骨灰についての条文は、やはりなかった」。近隣の自治体と情報交換しても発注の仕方はそれぞれ異なり、「統一的な基準を定めてほしい」と国に望んでいる。

 四十年ほど前から残骨灰を業者に売却している群馬県高崎市の長谷川裕二・市民課庶務担当係長(42)も、今の方式が最善だとは思っていない。売却から委託処理などへの切り替えを検討しているが、どのような業者に、いくらで委託するのが適切なのか。「自信を持って発注するためにも、国の助言がほしい」と話す。

 残骨灰は供養の対象となる「遺骨」ではなく、得られる有価物は「市町村」のものになる−。法律や制度が整備されていない中で、自治体が判断のよりどころにしているのは、明治と昭和の大審院の判決だ。

 ただ、多死社会が進む平成の今、ある都市の担当者はこう思う。「国だけでなく、国民を含めた議論が必要な時期ではないか」=終わり(取材=青柳知敏、小笠原寛明、土門哲雄、杉藤貴浩、田嶋豊、佐藤浩太郎)

 連載にご意見をお寄せください。〒460 8511(住所不要)中日新聞社会部「メメント・モリ」取材班 ファクス052(201)4331、Eメールshakai@chunichi.co.jp

 

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