トップ > 特集・連載 > メメント・モリ > 記事一覧 > 記事

ここから本文

メメント・モリ

第1部「亡骸を追う」 (4)北の地で

◆争奪戦に政治の影

無数の残骨灰が埋められている「やすらぎ苑」の敷地。処理業者の営業が盛んになっている=北海道北見市で

写真

 氷点下七度。雪に覆われ、昼間でも刺すような風が吹く北海道北見市の凍土の下に、およそ一万八千人の残骨灰が眠っている。

 北見市役所の市民環境部を二人の男性が訪ねてきたのは、昨年四月十三日のことだ。一人は残骨灰の処理業者。もう一人が会議室で職員に渡した名刺の肩書は、北海道選出の国会議員の「秘書」だった。

 二人の用件は、市内で最も大きい火葬場「やすらぎ苑(えん)」の敷地に眠る残骨灰処理の営業だった。二〇〇〇年度からの十六年間で亡くなった市民の灰。肥料袋と、さらに大きい遮水シートの袋に入れ、深さ二・五メートルの穴に埋められている。

 処理業者の営業が盛んになったのは、斎場の整備計画が持ち上がった一四年ごろからだ。〇六年三月、常呂(ところ)町、端野(たんの)町、留辺蘂(るべしべ)町を含む「平成の大合併」で生まれた新しい北見市には、三つの火葬場がある。市はやすらぎ苑の管轄エリアに当たる北見・端野地域の年間死者数が、現在の約千三百人から二十年後には約千八百人に増えると予測している。

 多死社会に備えて必要になった新たな火葬場。その候補地が、残骨灰が眠っている三千五百平方メートルの敷地だ。サッカー場の約半分の広さ。建設が決まれば土を掘り、残骨灰を取り出して処理する。市の担当者は「早ければ一九年度にも掘り返す可能性がある」。業者はそのタイミングを狙い、市に営業をかけている。

 北海道はかつて、処理業者に「宝の山」と呼ばれていた。本州などに比べて業者の進出が遅く、北見市のように広大な土地に残骨灰を埋めていた自治体が多かった。二〇〇〇年代初めに進出した処理会社の社長は「未開の地だった」と当時を振り返る。ただ、ここ数年は新規参入が相次ぎ、競争が激しくなったという。

 北見市から約三百キロ。山あいにある町の担当者は三年前、残骨灰の処理を委託していた業者に首長名の文書を送った。「契約解除申出書」。突然の解除の理由を尋ねた業者に、担当者は頭を下げた。「申し訳ない」

 近くにある別の町も昨年の春、処理業者を切り替えた。「それまでの委託業者に不手際があったわけではない」と話す担当者は、こう続けた。「町長から『替えろ』と指示があった」。今年四月に業者を替えた自治体の担当者は「営業があった。上の方にも直接行ったようだ」と明かす。

 業者の勢力図がオセロのように変わる北海道。多くの自治体が入札ではなく、随意契約や火葬場の指定管理者による選定などで委託先を決めている。発注者と業者との商談のような交渉が、選定結果に直接影響する。

 昨年四月に業者とともに北見市を訪れた国会議員の秘書は「残骨灰を埋めていることが、問題になるのではないかと思った」と訪問の理由を説明しつつ、業者から仲介を頼まれたかを問うと「そうです」と答えた。この業者は今年の夏も、現職の道議と一緒に北見市役所を訪れている。

 競合する他社も北見市に営業をかけている。灰の処分方法をまだ決めていない斎場担当者に「あとはここだけですよ」と迫っているが、営業担当者は政治の影がちらつく現場で考える。「うちも誰かに頼るべきなのか」

 連載にご意見をお寄せください。〒460 8511(住所不要)中日新聞社会部「メメント・モリ」取材班 ファクス052(201)4331、Eメールshakai@chunichi.co.jp

 

この記事を印刷する

新聞購読のご案内

PR情報

地域のニュース
愛知
岐阜
三重
静岡
長野
福井
滋賀
石川
富山

Search | 検索