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メメント・モリ

第1部「亡骸を追う」 (3)処理のコスト

◆止まらぬ1円なぜ

浜松市は業者から有価物を回収するよう発注方法を変えたが、本年度も「1円」での入札が続いた(一部画像処理)

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 北朝鮮の弾道ミサイルが日本の上空を通過した今年八月二十九日。全国瞬時警報システム(Jアラート)が鳴り響いた福島市で、市営斎場から出る残骨灰の処理業者を決める指名競争入札が開かれた。

 市役所三階にある入札室に集まったのは十七業者。各社の担当者が封筒を差し出し、職員が順番に入札額を読み上げた。結果、全社が「一円」。職員は事務的な口調で告げた。「抽選で落札者を決定します」

 残骨灰の処理を毎年発注している福島市では、記録が残る二〇〇三年度から一円での落札が続いている。東日本大震災で被災した自治体から遺体の火葬を受け入れた一一年度も、業者はその残骨灰を一円で落札した。

 入札は最低価格を示した業者が落札するルールだ。横並びの場合はくじ引きで決める。市環境課の宍戸亮課長(55)は「一円でも、手続きにのっとっている」と説明するが、なぜ一円なのか、市民に疑問を持たれてもおかしくないと感じている。

 一円での落札や随意契約は、福島だけでなく全国各地で相次いでいる。横須賀、静岡、岐阜、富山…。函館や八王子などの契約額は「ゼロ円」だった。

 関東地方に本社がある処理業者は、複数の都市の残骨灰処理を一円で請け負っている。処理が終わると、それぞれの都市から一円ずつ振り込まれる。社長は一円で仕事を受ける理由を「他都市の入札要件にある『過去の実績』をつくるためだ」と説明する。

 ただ、この社長は同時に「一円でも利益は出る」と明かす。「残骨灰から得られる金(きん)は、遺体一体当たり約一グラム」と話す業者もいる。二〇〇〇年に一グラム約千円だった金の小売価格は、一六年に約四千五百円まで高騰した。処理費用を丸ごと負担しても、有価物を売ればもうけは十分出るという。

 一円での落札が十年以上続く浜松市は、業者が有価物を得ていることを知っていた。本年度からはその有価物を市が回収して売却し、収入に充てる方法に切り替えた。厳しい財政を補うためだが、「安い委託料で適切に処理してもらえるのか」との懸念から、一円入札に歯止めをかける狙いもあった。

 ところが、四月二十六日に北区役所の会議室であった指名競争入札で、区民生活課の小林正美課長補佐(58)は目を疑った。発注方法の見直しで「一円入札はなくなるはずだ」と考えていたが、結果は十六社のうち十二社が「一円」。参加業者の八割近くが再び一円でそろったことを、今でも不思議がる。

 有価物を市に返す仕組みなのに、なぜ一円なのか。浜松市の入札で一円を示した十二社のうち一社の社長は「赤字でも、新規参入業者に仕事を取られたくなかった」と説明する。

 一方で、他都市に金などを返納している複数の業者らは「誤差」の存在を口にする。実際に灰から回収できた有価物の量を自治体には少なめに報告し、残りの有価物を自社の利益にする中抜きの示唆。「自治体が納得しそうな量を返している」と明かした業者もいる。

 浜松市は一円入札を防ぐため、人件費などを考慮した最低制限価格を来年度から設ける検討を始めた。国は統一的な基準を示さず、適正なコストや発注方法の判断をすべて自治体に委ねている。

 連載にご意見をお寄せください。〒460 8511(住所不要)中日新聞社会部「メメント・モリ」取材班 ファクス052(201)4331、Eメールshakai@chunichi.co.jp

 

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