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メメント・モリ

第1部「亡骸を追う」 (2)金とスラグ

◆灰に眠る貴い鉱床

全国環境マネジメント協会の指定工場で残骨灰から分類された金属。工場は東海地方の山中にある

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 九州にある人口約六万人の町。小さな作業場で腰をかがめ、経営者の男性が水槽からふるいを引き上げた。縁に黒い小石のような粒子が付いている。男性は言った。「これが金(きん)です」

 作業場には全国の斎場から残骨灰が運ばれてくる。灰とはいえ、ひと目で人骨と分かるものもある。男性はまず大きめの骨を灰の中から取り出し、作業場の片隅に設けた祭壇に並べる。

 残りの灰には骨片と共に、金や銀といった金属片が混ざっている。男性は灰を水槽に入れ、ふるいを使って金属片を取り出している。比重の違いを利用した砂金取りの要領だ。

 「これで二キロ七百グラム。六百人分です」。男性が差し出したビニール袋入りの黒い塊。残骨灰から集めた金属片やくぎに混じり、臼歯が見えた。灰から取れる金の大半は、歯のかぶせ物から溶け出した合金に含まれているという。「遺体一体で五千円」。男性はそれを売って暮らしている。

 残骨灰の分別処理を担う業者は、全国に四十前後ある。男性のように多くが個人や家族経営の小規模な業者だが、業界団体を設立して事業を広げる動きが数年前から出てきた。

 東海地方の山中。六業者が加盟する全国環境マネジメント協会(東京都新宿区)の指定工場がひっそりと立っている。周囲に民家などの建物はないが、「住民感情への配慮」として看板は掲げていない。

 協会は二〇一四年三月、残骨灰処理の近代化をうたって発足した。工場には大型の粉砕機や、風力で灰と金属を選別する機械が並ぶ。粉末状に砕かれた骨や、原形をとどめたままの人工関節、ひつぎのくぎなどが、ドラム缶やプラスチックの箱に仕分けされている。

 業者が取り出した金属の多くは貴金属メーカーに送られる。大手の田中貴金属工業(東京都千代田区)は、残骨灰から出る金属をリサイクル可能な「都市鉱山」に位置づける。広報担当者は「不要になった携帯電話や自動車スクラップなどと同様に、限られた資源の有効活用です」。一部は純度の高い金の延べ棒に加工し、品質保証の刻印を押して売却している。

 貴金属メーカーに送られず処理業者に残った灰は、業界で「ファイナル」と呼ばれる鉱山会社に運ばれる。肉眼では確認できないが、この灰にも金や銀が含まれている。鉱山会社は巨大な炉で元素レベルに分解し、抽出した金属類を工業用などとして市場に出す。

 「灰を持ち込んでいる鉱山会社は数社ある」。処理業者らが挙げた大手の鉱山会社のうち、一社は取材を拒否し、別の社は「調べたが、把握できなかった」と答えた。その中で、明治期に三大銅山と称された旧小坂鉱山(秋田県小坂町)を持つDOWAホールディングス(東京都千代田区)の担当者は「残骨灰は、マテリアル(原料)の一つです」と説明した。

 鉱山跡地にある製錬所。三階建ての建物に匹敵する高さの炉は一三〇〇度に達するという。この炉で金や銀をさらに抽出した後の残滓(ざんし)は「スラグ」と呼ばれる土くれになり、十平方キロという広大な敷地に野積みされている。

 貴金属を限界まで取り出され、黒いスラグになった人の体の最後。その塊が、日本の近代化を下支えした鉱山跡で眠っている。

 連載にご意見をお寄せください。〒460 8511(住所不要)中日新聞社会部「メメント・モリ」取材班 ファクス052(201)4331、Eメールshakai@chunichi.co.jp

 

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