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教育

社会問題を「自分ごと」で議論 高校の新必修科目「公共」

CSRについて話し合う生徒たち=岐阜市の岐阜高で

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 二〇二二年度から、高校の公民で新たな必修科目「公共」が始まる。廃止される「現代社会」と似ているが、社会の仕組みや課題を客観的に学ぶのではなく、自分たちのこととして考えるのが大きな違い。選挙の投票など社会参加への基礎としてすでに取り組む授業がある一方、人権の制約や、領土問題について政府見解のみを教えるよう国が求めていることなどを懸念する声もあり、教員は揺れている。

 岐阜市の岐阜高校で七月にあった一年生の現代社会の授業。企業の社会的責任(CSR)についての問いが、黒板に七つ書かれた。「CSRは必要か?」「CSRと利潤の追求を両立するには?」など、ふだん肯定的に捉えられているCSRを、根本から見つめ直す問い。すべて生徒たちがグループで話し合い考えた。

 他のクラスでは、働く人のワークライフバランスを守るのもCSRだとして、議論が展開。企業内保育所の拡充を訴える意見に、「会社にメリットはあるのか?」などの疑問を生徒同士がぶつけ合った。三浦寛之教諭は「消費者、行政、企業、それぞれが、どうしていったらいいのか考えてください。受け身にならずに考えることが大事」と締めくくった。

 生徒が対話を通して多様な意見に触れ、自分の考えを深める意義を実感することがこの授業の狙いだと、三浦教諭は説明する。新科目「公共」の趣旨にも合う授業だ。

◆模擬選挙に裁判も

 次期学習指導要領によると、「公共」で扱う内容は「政治参加」「司法参加」「消費者の権利や責任」「契約」「雇用と労働問題」など社会に関わる全般。これを生徒同士の議論や模擬選挙、模擬裁判などを通じて考えるという。

 選挙権年齢や成人年齢の十八歳引き下げを踏まえ、主権者教育や消費者教育の必要性が強調されているが、多くの内容は「現代社会」と重なる。文部科学省の担当者は「『現代社会』は、社会の仕組みを客観的に学ぶことを重んじている。『公共』は、社会参画に必要な資質の育成に力点を置く」と違いを説明する。

 「社会参画に必要な資質の育成」について、公民教育に詳しい岐阜大教育学部の田中伸准教授は、こう説明する。「『現代社会』では、社会問題を分析する。『公共』では、社会問題を自分ごとと捉え『自分ならどうするか』を考え、議論する。その過程で、いろいろな意見を知り、多様な価値観を蓄積する。それが、選挙などを通じて、社会と関わる際の土台になる」

 田中准教授によると、新科目の趣旨を先取りする教員はいる。「意欲的な取り組みが、スタンダード化されることに、新科目の意義がある」と指摘する。

 課題もある。学習内容を減らさず、生徒に自らの行動まで考えさせるには「抜本的な授業の見直しが必要」(田中准教授)。三浦教諭のCSRについての授業も、調査から問いの設定、議論まで二時間と短く、「公共」を意識した授業は一部にとどまる。

◆政治は扱いづらく

 高校の教員の間では、新科目への疑問の声もある。一つは形骸化への危惧。愛知県内の四十代の教員によると、選挙権年齢の引き下げで、「政治的中立」が、これまで以上に求められるようになったという。この教員は「議論が白熱しそうなテーマは政治的に意見が分かれる場合が多い。政治的中立が疑われるなら授業で取り上げるのを避けようという教員はいるだろう」と話す。

 別の教員は「今の高校生は同調圧力が強く、周りと違う意見を持つのを嫌がる傾向がある。どこまで議論が深まるか」と指摘する。「基本的人権を制限できるのが『公共の福祉』。『公共』という科目名から、教科書で、それが強調されないか心配だ」とも。学習指導要領では、多面的、多角的な議論を重視するとしながら、領土問題については竹島や尖閣諸島を日本固有の領土とする政府見解だけを断定的に記述していることにも疑念を抱くという。

 (佐橋大)

 <高校の公民> 教科「公民」には「現代社会」「倫理」「政治・経済」(各標準2単位)の3科目がある。卒業には「現代社会」1科目か、「倫理」「政治・経済」の計2科目を履修しなければならない。2022年度以降は「公共」(標準2単位)が必修になり、「倫理」「政治・経済」(各標準2単位)は選択科目になる。

 

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