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教育

「デジタル教科書」が開く未来(上) 「読字困難」をサポート

児童たちがタブレット端末で使っているデジタル教材「マルチメディアデイジー教科書」。読み上げている部分を、黄色く色付けして示す=長野市の南部小学校で

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 学校教育法の改正で、教科書をデジタル化した教材、いわゆる「デジタル教科書」が、来年四月から教科書として扱われる。特に、紙の教科書を読むことが難しい児童、生徒らは、デジタル版だけを授業で使うこともできる。デジタル教科書が開く新たな学びの可能性は−。現場の様子を交え二回で伝える。

 長野市の南部小学校の特別支援学級では、読み書きに困難を感じる児童たちが、タブレット端末を使い、教科書を読んでいた。

 ある男子児童の端末には、国語の教科書が映し出されていた。児童が画面上のスタートボタンを押すと、端末が、教科書の文章を読み上げ始めた。読んでいる部分が黄色くなる。指導する山崎幸子教諭は「声で内容を伝え、読み上げている箇所を明示することで、文字を目で追う負担が減り、子どもたちは内容を理解しやすくなる」とデジタル教材の効果を語る。「本の楽しさを知ったよ」と話す児童もいる。

 同校で使っているデジタル教材は、教科書を音声情報付きでデジタル化した「マルチメディアデイジー教科書」だ。文字の拡大や書体の変更、ふりがなの添付など、字を読みやすくする設定変更も簡単にできる。文字を大きく印刷した拡大教科書と違い、かさばらず、音声でも情報を伝えられるのが大きな特徴。同校では児童約六百人のうち、約二十人が、特別支援学級での個別学習や、授業の予習に家で使っている。

 読むことが困難になる理由はさまざまだ。脳の特性で、視覚で捉えた文字が音の情報と結び付きにくかったり、文字が揺らいで見えたり、左右逆に見えたり、紙の材質や文字の書体によっては非常にまぶしく感じたり。一文字ごとの読み取りに苦労するので単語や熟語、文章の理解に、なかなかたどり着かない。

 文字を読む負担を減らし、子どもたちが楽しく学べるようにと、教科書会社が教科書のデジタル版を作っているほか、二〇〇八年施行の「教科用特定図書普及促進法(教科書バリアフリー法)」に基づき、四団体がデジタル教材を作っている。その中で最も利用の多いのがマルチメディアデイジー教科書だ。出版社から提供された教科書の電子データを基に、日本障害者リハビリテーション協会が制作、提供している。保護者や学校、教育委員会などが協会に利用を申請すると、無償で教材を手に入れられる。昨年度の利用者は八千九十三人。前年度より70%増えた。

書体を変えて文字を拡大し、白黒反転させたデジタル教材

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 ただ、同協会は「必要な子のごく一部しか行き渡っていない」とみる。公立小中学校の通常学級の児童、生徒を対象に一二年に文科省が行った調査では、知的発達に遅れはないが、読み書きに著しい困難のある子が2・4%いた。同協会は、特別支援学級の児童生徒も含めて、小中学校で約二十四万人が読み書きに困難があると推定している。

 教材の普及の地域差も大きい。協会によると、教材が十分知られていないことに加え、学校の無理解も普及を阻んでいるという。

 そんな中、福井県はマルチメディアデイジー教科書の普及が進んでいる。県教委も積極的に申請に関わり、読み書きの苦手を克服する通級指導などで使っている。同県では昨年度、三百三十三人が利用を申請した。協会は読み書きに困難のある子の三割が使用したと推定。この割合は全国平均の十倍近い数字だ。

 同県教委によると、通級指導教室でマルチメディアデイジー教科書を使い音読の練習を積むことで、人前でも音読できるようになる事例もある。

◆「バリアフリー法」の教材と併存

 来年4月から「教科書」扱いになるデジタル教材について、文科省は「何が該当するか省令で定める」とするが、同省の有識者会議の議論などから、教科書会社が制作するデジタル版を認めるとみられる。デジタル教科書は有償になる。

 同省は、教科書会社が作る「デジタル教科書」だけでは、障害にきめ細かく対応するには不十分とみており、教科書バリアフリー法に基づくデジタル教材を併存させ、教材作成を支援する予算の枠組みも維持する方針だ。

 (佐橋大)

 

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