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教育

国や議員の教育介入、相次ぐ

「教育活動は社会に直接責任を持って行うのが原則」と話す松原信継教授=長野市の清泉女学院大で

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 国や政治家による授業などへの介入が相次いでいる。名古屋市内の中学校では文部科学省の前川喜平・前事務次官の講演内容の報告を同省が市教育委員会に求め、東京都足立区では中学校の性教育を都議が教員名まで挙げて議会で批判。現場の萎縮が懸念される。教育は「不当な支配に服することなく(中略)行われるべきもの」と定めた教育基本法を、清泉女学院大人間学部の松原信継教授(教育法)と一緒に考えた。

 「『不当な支配』を禁じる教育基本法は、戦前に官僚らの力で教育がゆがめられ、戦争を招いたことを反省して一九四七年に作られました」と松原教授は説明する。

 草案で、「不当な支配」は「不当な政治的または官僚的支配」と書かれていた。法成立時の国会の委員会では、辻田力・文部事務官(当時)が「従来官僚とか一部の政党とか、その他不当な外部的な干渉と申しますか、容喙(ようかい)=口出しをすること=と申しますかによって教育の内容が随分ゆがめられたことのあることは、申し上げるまでもない」と答弁している。国や政治家による不当な介入を退けることが法の一つの要だったと分かる。

 ただ、何が「不当な支配」に当たるかは、法令で決められておらず、判例から判断するよりほかにない。

 七六年の旭川学力テスト最高裁判決は一つの判断基準になっている。北海道旭川市の市立中学校で文部省(当時)の全国中学校一斉学力テストの阻止に及んだとして教師らが公務執行妨害罪などに問われた裁判。国の教育権が争点となり、判決は、教育は「党派的な利害で支配されるべきではない」と確認。「政治的影響が深く入り込む危険がある」ときに「教育内容に対する国家的介入はできるだけ抑制的であることが要請される」とした。

 政治家の介入については東京地裁の二〇〇九年の判断がある。〇三年、都立七生養護学校(当時)で性教育の授業を視察した都議三人から批判を受け精神的苦痛を受けたなどとして、元教師らが損害賠償を請求。判決は都議らの介入を不当な支配に当たるとして違法性を認め、高裁、最高裁も支持した。

 「保護者が教師と一緒に作り上げた性教育を、政治家が圧力をかけ、中止させたことが問題」と松原教授。「議員には地域の声を届ける役割があるが、教育活動は代議制のルートでなく、社会に直接、責任を持って行うのが原則。政治的な主張に基づいて個別の教育内容に介入することは、国家的介入と同様に抑制的であるべきだ」とする。

 教育基本法は、第一次安倍政権下の〇六年に初めて改正。不当な支配を禁止する条文に、教育は「法律の定めるところ」により行われるという文言が加わった。政権の影響や、法に基づく通知・通達、施行規則など国の介入が強まる懸念が指摘されている。

 松原教授は「法律の運用が不当な支配とならないよう求める旭川の最高裁判決は判例として有効です。法を通じた党派的な介入も不当な支配に当たるというのが、教育法学者の間では一般的な考えです」と話す。

◆「介入」最近の事例

東京都議による性教育への介入問題を考えた集会=東京都千代田区の全国教育文化会館で

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 北海道ニセコ町の町立ニセコ高校では、昨年十月に開かれたエネルギー問題の講演会で、経済産業省北海道経産局が講師の大学助教に原子力発電に関する説明の変更を事前に求めていた。同局は、講演資料にあった東京電力福島第一原発事故の写真などを使わないよう求めたが、助教は「教育への介入という観点から容認し難い」と応じなかった。

 今年三月には東京都足立区の中学校で三年生に行われた性教育の授業を、古賀俊昭都議(自民)が問題視。中学卒業後に人工妊娠中絶の件数が急増する実態を踏まえ、「産み育てられる状況になるまで性交を避けるのがベスト」とし、避妊方法などを伝えた内容を「不適切」と批判し、校名や校長名、教員名まで都議会で挙げた。古賀都議は二〇〇三年に都立七生養護学校(当時)での性教育に関する裁判で訴えられた一人。

 教職員や学者でつくる「“人間と性”教育研究協議会」(東京)の代表幹事で立教大の浅井春夫名誉教授は「自分で性行動を選び取るには、発達段階に応じた知識が必要。それを学ぶ当然の機会を奪っている。学習権の侵害だ」と指摘。「学校や教師の管理につながる圧力が、安倍政権になって強まっている」とする。

 (佐橋大、福沢英里)

 

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