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教育

<先生! 教育の場をたずねて> 高知県いの町・吾北小 安藤玲子教諭(60)

学級通信「花さき山」の題字を書く児童(左)を見守る安藤玲子教諭。題字は当番制。この日の帰りの会で、安藤教諭は「『山』が上手やね」と褒めた=高知県いの町吾北小で

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 教員という仕事の魅力は何だろう。長時間勤務が問題となり、子どもたちの学力向上も求められる今、各地でそれぞれの教育に励む先生の姿を通して思いを巡らせたい。初回は、子どもたちと40年近く日記で交流する安藤玲子教諭(60)を、高知県の小学校に訪ねた。

 高知県いの町吾北(ごほく)小学校は高知市から電車とバスを乗り継いで一時間半弱、県中央の山間部にある。取材した昨年十二月中旬、校庭に霜が降り、プールには氷がはっていた。

 四校が統合し、七年前にできた。山間の集落から五十七人がバスで通う。安藤教諭が受け持つ一年生は男女五人ずつの計十人だ。

 「『花さき山』を配ります」。安藤教諭が帰りの会で、手書きの学級通信を渡し始めると声が上がった。「今日は誰が当たってるかな」「あ、春仁(はると)君と心緒里(みおり)ちゃんや」「ええなあ」。載っているのは安藤教諭が毎日二編ずつ選ぶ、児童の日記だ。

 受け取った子からおしゃべりをやめ、目で文章を追う。時々、ふふっと笑いも混じる。全員に行き渡ると、安藤教諭がゆっくりと朗読を始めた。

◆好きなことを好きなだけ

帰りの会で配られた学級通信「花さき山」を読む子どもたち。誰の日記が載っているか、ワクワクドキドキの瞬間だ=高知県いの町吾北小で

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 十二月十四日木よう日

 おふろあらい

 きのう、おふろあらいをしました。わたしは、おふろの中と、いすと、かべをあらいました。あらえてよかったけど、しんどかったです。おかあさんがどれだけがんばっているかがわかりました。おふろそうじは、たのしかったです。またやりたいです。でも、つかれて、たくさんねたいです。

 「疲れるくらい、力いっぱい洗ったんだねえ」。安藤教諭が久保心緒里さんの日記の感想を話すと、子どもたちも次々と手を挙げて好きなところを伝えた。「お風呂洗いは誰も書いたことがないからすごい」「自分が思ったことも書いてていいな」。ロボットの夢を見た三浦春仁君の日記も読み合い、最後に安藤教諭と一斉じゃんけんをすると、ランドセルを背負って、はじけるように教室を出て行った。

 一年生は五人ずつ、漢字学習と交互に日記を書く。日にちと題を付ける以外に決まりはない。好きなことを好きなだけ書く。特別な行事にこだわらず、上手に書くことも求めない。「日記は作品ではないき。書くことで自分や生活を見つめ直す、立ち止まる時間。自然とこぼれ出たものでいい」

 算数で褒めてもらったこと、お母さんがサラダを作ってくれたこと、芋虫を見たこと…。二〜十ページにわたり、心に残ったことが勉強したばかりの平仮名を中心に鉛筆で記される。

 安藤教諭は小中学校で出会った先生に憧れ二十歳で教職に就いた。高知は日常に根差した作文を広めた教育者小砂丘(ささおか)忠義(一八九七〜一九三七年)の生誕地。先輩教員の多くが日記指導に取り組み、初任校から自然と日記を始めた。四十人学級や特別支援学級も含め山間部の小学校を中心に四十年近く子どもたちの日記を見てきた。

 続いた理由は「読むたびに発見があるから」。先生は多忙だ。休み時間も宿題の確認などに追われ、子どもとゆっくり話す時間は少ない。日記は一人一人を理解する助けになった。

 家で毎朝五時半から日記に目を通す。文字の乱れや大きさも大事だ。「そこから思いが伝わる。その子と話しているような気持ちになります」。家や学校で頑張っている姿や心の中の不安、家族や友達への気持ち。知らなかったことが見えてくる。

◆学級通信で互いを知る

子どもたちの日記。安藤教諭が良いと思ったところに○や◎を赤ペンで書き入れ、感想も必ず添える=高知県いの町吾北小で

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 友達や保護者にも知ってほしいと、日記を載せた学級通信を始めたのは三十代になるころ。「せぼね」「びっくりめ」など題を替え、もうすぐ七千枚に届く。帰りの会で読み合い、友達の良さを見つける。保護者も「気持ちの書き方が上手になったね」と返信をくれる。「いろんな目で認めてもらうのがいいんです。一人一人を大切に思う気持ちが広がります」

 翌日、安藤教諭から返ってきた日記を見せてもらった。「くわしくすもうのことをおしえてくれてありがとう」「しんだだんごむしはかわいそうだったね」。赤ペンで○や◎が付けられ、寄り添うような返事が書かれていた。

 「日記はどう?」と尋ねると、多くの一年生が「好き」「楽しい」と答えた。岡林夏凜(かりん)さんは「友達に感想を言ってもらうのがうれしい。先生もいっぱいほめてくれるし」とヒソヒソ声で教えてくれた。書いたら伝わり、返ってくる−。そんな経験の積み重ねが、安心感や信頼感を育んでいるように思えた。

 「書くことは、生きること」。地元紙の記事で読み気になっていた安藤教諭の言葉の意味を問うと、「息をするように、普通に書けるようにということ」という。

 「今の子って狭い世界で生きているんです。新聞を読まず、自分にとって面白い情報だけ集めている。強い力に引っ張られれば、本当に自分が行きたい道じゃない方へ行ってしまうこともありうる」

 見たこと、感じたことを言葉に置き換えることで、世の中を見つめ、自分の立ち位置をはっきりさせられる。一年生の日記は四冊目に入った。初めての出来事や気持ちに出合い、これからも自分と向き合っていく。

 (世古紘子)

◆教師とは… 子どもに必要なことを一緒にやる

 子どもに合わせて、何が必要かを考えて一緒にやっていくのが教師かなと思います。日記も自分がやりたいからではなく、子どもたちにとって何が必要かと考えた結果です。

 長い人生のうちの1年に関わらせてもらえるのは幸せです。私が生きていく上で大事と考えるのは、自分で物事を見極めて判断し、考えを持てて、自分を大事って思える力です。そういう力は人間として絶対持ってほしいき、関われた1年でそれを付けていくようにしています。いろんな子どもの姿、変化に出合えるのが楽しいですね。

 <あんどう・れいこ> 1957年、高知県吾北村(現いの町)生まれ。四国女子短期大児童教育科卒業後、教員となり、同県本川村(同)寺川小学校に着任。以降、山間部を中心に7小学校で勤務する。

 新卒採用時から作文教育に力を入れ、本川村長沢小学校で1年を担任した2002年度に学級通信「びっくりめ」を出し、日本作文の会主催の第52回全日本「文・詩集」表彰新人賞を受賞。16年度は、県内の優れた作文教育の実践者に贈られる「小砂丘賞」の個人賞を受けた。県作文の会事務局長を経て、現会長。

 

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