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高校・生物を「脱」暗記科目に 教科書の重要用語を削減、学術会議提言

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 学ぶべき重要用語が多すぎて、高校の生物が「暗記科目」になっている−。そんな危機感から、科学者の代表でつくる国の特別機関「日本学術会議」が9月、教科書に載っている2000以上の用語を約4分の1の512まで減らすべきだとする提言を初めて発表した。研究者や教員を訪ね、用語が多い背景や「脱・暗記」の工夫など生物を巡る現状を探った。

 高校生が選択で学ぶ「生物」。来年度から使われる最新版の教科書をめくると太字ゴシックで強調された重要用語が見える。用語は各教科書会社が選んでおり、例えば「刺激の受容と反応」の単元では自律神経系や神経回路など、ある教科書は一ページに十一語が並ぶ。

 なぜこれほど重要用語が多いのか。二〇〇九年の「学習指導要領解説理科編」の作成協力者で、首都大学東京の松浦克美教授(生物学)は「生命科学などの急速な発展を受け、指導要領が大きく改定されて学習内容が増えた」と説明する。

 「○○は扱わない」など「はどめ規定」も指導要領から消え、「新しい内容をどこまで詳しく書くかが教科書会社の裁量になったのも大きい」。一三年度に使われ始めた生物の教科書を調べると、以前の「生物2」より平均百二十ページ増。松浦教授は「合わせて用語も多くなり、読んでもどれが重要かが分かりにくい問題がある」と話す。

 受験科目の選択でも敬遠されがちだ。本年度のセンター試験で生物を受けたのは約七万四千人と物理や化学の半数以下。「一部の進路指導の先生は記憶力が問われる生物より点数が取れる物理や化学を勧める」(松浦教授)、「農学部で品種改良をやりたい生徒が物理を選ぶこともある」(愛知県の五十代教員)という。

 学術会議が用語の多さが学習上の障害になっているとして絞り込みの検討を始めたのは今春。松浦教授ら生物の専門家五人が教科書の調査やインターネット検索数などを参考に、学習すべき主な概念とのつながりの程度別に「最重要語」二百五十四、「重要語」二百五十八を選んだ=表。

 DNAや絶滅など、なじみ深い用語が残る一方、病名は細胞分裂を学べるがんなど必要最小限に。人名は一切除いた。用語検討小委員会の委員長を務める東京大の中野明彦教授(細胞生物学)は会見で「生物は暗記でなく、考えて学ぶ意欲をかき立てられる学問と伝えたい」と狙いを語った。

 学術会議は、来春の学習指導要領改定や新しい教科書への反映を求めている。松浦教授は「指導要領の柱となる主体的な学びに多すぎる用語は邪魔になる。大学入試改革も進む中、生徒が探究心を持って思考する力などを付ける方向に進めば」と注視する。

◆議論や実験、授業で重視

ウマの前脚の骨格標本を生徒に見せる中村羊大教諭(左)。この後、生徒がウマの進化について議論した=愛知県豊田西高で

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 重要用語が増える中、教員も「単なる暗記」にならないよう工夫を凝らす。

 愛知県豊田西高の中村羊大教諭(44)は生徒同士の議論の時間を大切にしている。十一月初旬の授業では三年生十一人が三、四人に分かれて、模式図から新生代にウマがどう進化したかを考察。ウマの前脚の骨格標本も参考にした。

 もちろん、中村教諭が教科書や図説の該当部分をまとめたプリントを用いて重要用語も押さえる。「記述問題で解答を書くために用語は必要。ただ、単なる暗記にならないように考えを深める議論や実物を触る機会、実験なども設けて両立させている」。授業冒頭には学習に関連する記事なども紹介しており、三年の加藤達也さんは「覚えることは多いけれど、身の回りのことにつなげて教えてくれるので楽しい」と好評だ。

 ほかにも愛知県の教員(33)は「定期テストなどでは思考力を問う問題を出している」。三重県の五十代教員は「暗記の負担が大きくて生徒が考える力を高める時間が少ない」と課題を挙げつつ、「授業ではまず仕組みを説明し、覚えやすくしている」と工夫する。

 (世古紘子)

 

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