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教育

死に追い詰めない指導とは 識者らに聞く

 福井県池田町で中学2年の男子生徒=当時(14)=が自殺した問題で、町教育委員会の調査委員会は、教師による厳しい叱責(しっせき)が自殺の原因と指摘した。教師は生徒をどう指導すればいいのか。「『指導死』親の会」共同代表の大貫隆志さん(60)と、岐阜県内の小中学校の校長を歴任し、日本ピア・サポート学会副会長を務める岐阜大特任教授の山田日吉さん(64)に聞いた。

◆大貫さん「子どもの言い分聞いて」

大貫隆志さん

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 指導死とは、教員の指導で子どもが自殺へと追い込まれることです。教育評論家武田さち子さんの調べでは、未遂も含むと平成に入って七十件起きています。殴る蹴るの印象が強いが、実際には指一本触れていない事例が87%を占めている。

 福井は典型的な指導死の事例と言えます。担任と副担任が度を越した叱責を長期間繰り返し、指導のまずさがある。医療に例えれば必要以上に強い薬を大量に投与してしまった。管理職と担任らが情報交換できておらず風通しも悪かったと思います。見えやすい形で起きているのに周りもフォローできていなかった。

 指導死が絶えないのは、指導で子どもが自殺するというリアリティーを教育現場が持っていないからでしょう。不要な圧力がマイナスに働く可能性を自覚し、子どもの言い分を聞くことが大切です。薬に例えれば症状を緩和するためにはどんな薬で、どのタイミングで、どの量がいいのか。子どもは一人一人特性が違うから当然カスタマイズされた指導が求められます。

 死に至らしめる指導を避けるには徹底したモニタリングも必要です。指導が狙い通りの効果を発揮しているか、丁寧に注意深く子どもをみて確認してほしい。教職課程では指導の具体的な方法を学ばず経験則に頼りがちで、怖いことです。

 フォローアップも重要です。「きついことを言ったけど、おまえならできると思ったんだ」とか話をすればいいのに駄目押しをする場合もある。生徒のために強い指導が必要だと思い込んじゃうんですね。厳しい指導って生徒を追い詰めず、優しく、平たい言葉を使ってでもできるはずです。

 (聞き手・世古紘子)

 <おおぬき・たかし> 2000年、当時中学2年の次男を「指導死」で亡くした。08年に遺族らと親の会を設立。編著に『指導死』(高文研)がある。

◆山田さん「奥底推し量る力高めよ」

山田日吉さん

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 本来、指導とは、子どもが人生をその子自身で切りひらく力をつけてやること。生徒自身に考えさせることです。例えば、宿題の提出など、できなかったことがあれば、どうしたらできるようになるか一緒に考える。課題は子ども以外にあることもある。宿題が多すぎるのであれば調整する。

 福井の件では、できない理由を「言い訳だ」として聞かなかったり、大声で叱責したりしたとされる。これは指導ではない。負の感情をぶつけているだけ。人間関係を切ってしまうことで、子どもは精神的にダメージを受ける。もちろん、いじめや暴力行為などを一喝してやめさせることも緊急時には必要だ。

 子どもの思いを聴き取り、どんな子なのか、言っていることの奥底を推し量る力が、教育では大事。ただ、最近、教師のそうした力がなえていると思う。教師というより社会全体で落ちている。昔は、多くのきょうだい、多世代の農業社会、放課後の子ども同士の遊びの中で自然と身についたが、最近は、そうではない。社会全体が効率重視で、聴き取る余裕がなくなっている面もある。特に教師は、余裕がなくなっている。

 聴き取る力の低下を埋める教育が求められる。子どもたちに、人と関わる力を付ける教育を進める必要がある。人の話を聴き取る力や、言いたいことを伝える力。教師にも、コミュニケーション力を高め、指導法を学ぶ研修が不可欠だ。子どもの持つ課題に対する知識と対応するスキルを身に付ける研修も十分ではない。研修や教育が可能になるよう、教員数を増やすこともセットで進めるべきだと思う。

 (聞き手・佐橋大)

 <やまだ・ひよし> 岐阜ピア・サポート研究会を主宰し、学校で子どもたちが人との関わり方を体験的に学ぶ活動「ピア・サポート」を支える人材を育成している。 

 

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