トップ > 特集・連載 > 教育 > 記事一覧 > 記事

ここから本文

教育

「安くて安心」「成長の場」 人気再び、東京の学生「県人寮」

写真

 首都圏の大学に進学する地方出身者向けの「県人寮」が注目を集めている。少し前の「古くて汚い」「プライバシーがない」といったマイナスイメージは今や昔、「安くて安心」「人としての成長の場」と高評価。少子化時代を迎え、中部九県の県人寮にも変化が表れ始めている。

 東京都文京区の住宅街にある静岡県学生会館「富士寮」。同県出身の男子学生四十五人が暮らす。一人一部屋(約六畳)を使えるが、エアコンはない。風呂、トイレは共同だ。建物は築六十一年と都内の県人寮でも最古級。だが入寮試験では定員の三〜五倍が集まる。

 「三年前、寮のホームページをスマートフォンで対応するまで、ほぼ一倍でした」と山田耕司寮長(60)。アクセス数は、年間約二万件に上る。少子化や地元志向で東京での学生集めに苦労する県人寮もある中、高校生を意識したPRで成功しているようだ。

 寮は安い生活費が魅力の一つ。都内での一人暮らしは家賃だけで月十万円近くかかるが、ここでは朝夕二食付きでも月六万円。親しい友人もできる。芝浦工業大大学院修士一年の内田記央(のりお)さん(22)は「新入生は五月病になる暇もなく、寮の中で新生活の不安や疑問を解消できる。隣が誰か分からないアパートでは味わえない濃密な時間を過ごせる」と話した。

 県人寮は、道府県の育英会などの公益財団法人が運営する。江戸時代の旧藩校や明治時代の篤志家の寄付などを基にできた寮もある。一九五五年ごろ、文部科学省の指導で「一道府県一寮」を目標に整備された。

 その寮が転機を迎えている。老朽化や自治体の厳しい財政運営で廃寮が相次いでいる。北海道から沖縄まで、全国四十一の運営団体でつくる全国学生寮協議会では、この十年間で長野、福島、千葉県などの八寮が廃寮になった。

 このような危機を土地活用で切り抜けるケースが出ている。石川、富山両県の出身者が住む石川富山明倫学館(文京区)を運営する財団法人は二〇一五年、最寄りの石川県学生寮を吸収合併し、県側が所有する土地を丸ごと売却して、明倫学館の寮を建て替えた。

 富山県高岡市民向けの「高岡市学生寮」は都内の小金井市の男子寮を中野区の女子寮と統合。男子寮の敷地の七割を売却し、残る土地で一八年四月に男女共用で開寮する予定だ。

 新たに女子学生を受け入れた寮もある。男子専用の愛知学生会館(文京区)と道を挟んで向かい合う三河郷友会学生会館(同)は一四年、OBからの寄付金を積み立てて女子寮を新設。共同キッチンでお菓子などを作るという上智大四年の尾崎恵美奈さん(22)は「県人寮はふるさとの連帯感があって家族のような居心地の良さがある。後輩たちは妹のようです」と話す。

 男女共用寮の岐阜県学生会館(八王子市)は今春、男子三十八人に対し、女子が四十三人と初めて逆転現象が起きた。学生からは「男女の共同生活で人間の幅が広がる」との声が聞かれる。

◆地元を知る新たな機会に

 静岡県学生会館「富士寮」に住み都内の大学に通う増田佳晃さん(22)=浜松市出身=は、県人寮に住んで初めてふるさとの大切さに気付いたという。「地元の大学で学ぶことも大事だが、東京に来たら客観的に静岡を見られるようになった。全国の違うふるさとを持つ友人たちに会えたのも大きい」

 政府は六月、東京への一極集中を和らげるため東京二十三区の大学定員を抑え、若者が集まらないようにする方針を示した。

 これに対し「一度、ふるさとを出て東京で暮らすことも大事だ」と語るのが岐阜県学生会館に住む上智大四年の河村優佳さん(21)=岐阜市出身=だ。

 空き時間などに博物館巡りに没頭し、「本物が一番そろっている街だ」と学びの機会の多さを実感している。「いろいろなものを見るなら若いうちがいい。それを自分の言葉で表現できるようになれば、言葉に重みのある大人になれるはず」。将来は地元にUターンして、教員になるつもりだという。

 (美細津仁志)

 

この記事を印刷する

新聞購読のご案内

PR情報

地域のニュース
愛知
岐阜
三重
静岡
長野
福井
滋賀
石川
富山

Search | 検索