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<今、考える道徳>(上) 児童揺さぶる問い掛け

児童たちが考えた解決策を板書し、どうしたらいいか考える道徳の授業=愛知県清須市の清洲小で(一部画像処理)

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 小、中学校の「道徳の時間」が来年度以降、順次、「特別の教科」に格上げされる。道徳を重視する現政権の意向も働いた教科化だが、文部科学省は、これを機に「考え、議論する道徳」に転換するという。どう変わるのか。現場の動きから三回に分けて探る。

 「手をけがしてまで作ってくれたのに、本当に飾らなくていいの?」。五月中旬、愛知県清須市の清洲小学校六年の道徳の授業。担任の新井真菜美教諭が、児童らに考えを揺さぶるような問い掛けをした。

 この日の題材は「困ったプレゼント」。念願のかわいいケーキ屋を開いた主人公コジマ君に、親友のスズキ君から「店に飾って」と手作りの品が贈られた。その品は、店の雰囲気にまったく合わない大きな天狗(てんぐ)のお面。コジマ君は、友達の気持ちをくんで飾るか、店の雰囲気を守るため、飾らないかで悩む内容だ。

 「あなたがコジマ君だったらどうする?」と新井教諭が尋ねた。児童たちは「飾る」「飾らない」「それ以外」を選び、理由を述べた。「飾らないとスズキ君に悪い」「別の所に飾る」「雰囲気は壊したくないけど、スズキ君の気持ちも大事にしたい」。答えは、さまざま。揺さぶりの問いで迷いも生じた児童たちに、新井教諭は「コジマ君の思いも、スズキ君の思いも、どちらの思いも大切にする方法を考えてみて」と呼び掛けた。

 「店の雰囲気を大事にしたいから、他の場所に飾っていいか聞く」「友達同士でも相手の気持ちを聞くことが大切」といった意見が出た。意見は黒板に書き出した。「自分の気持ちも相手の気持ちも大切」「友達同士でもコミュニケーションが大切」という考えを、クラスで共有した。

 これは文科省の提唱する「考え、議論する道徳」の代表的な指導法「問題解決的な学習」の一例だ。清洲小の授業は、校内の教員が見学する研究授業として行われた。

 一方、従来の道徳の時間に多く行われてきたのは、善い行いをした人の話を読み、共感し、「道徳的価値観」への理解を深めるという「読み物道徳」。価値観を押しつけられるように感じたり、当たり前のことを言わされることで子どもたちから「つまらない」と思われたりするなど、課題が指摘されてきた。

 中央教育審議会道徳専門部会の委員も務めた柳沼良太・岐阜大大学院教育学研究科准教授は「善い行いをする主人公の心情を理解すれば、善い行いをするだろうというのが従来の道徳教育。ただ、それだけでは、将来の予測が困難なこれからの時代に対応しきれない。物の見方も一面的になりがち」と指摘する。そこで、文科省が、道徳の教科化に伴い打ち出してきたのが「考え、議論する道徳」への転換だ。

 何が問題か、自分ならどうするかを子どもたち一人一人が考える。意見を出し合うことで、多様な考えに気付き、考えを深めていく。その中で「公正」「誠実」といった価値が、なぜ必要か理解を深める。「よりよく生きるための判断力などを養う」(柳沼准教授)という。

 読み物を中心にした授業でも、単に主人公の心情を読み取るだけでなく、「自分ならどう行動するか」まで思いを至らせる。

 ただ、教員が価値観を押しつけず、子どもが考え、議論する授業をするのは容易でない。次回十一日は、現場の工夫の様子を伝える。

◆「教科化で現場の裁量狭まる」

 道徳教育の根本的な問題点を指摘する声もある。「子どもが身に付けるべき道徳の基準を文部科学省が画一的に決めていることが問題」と東京学芸大教育実践研究支援センターの大森直樹准教授。教科化により、教育内容と子どもの実態との乖離(かいり)がより進むのではないかと懸念する。

 教科化に対応して学習指導要領は、小学校の道徳で扱う項目として「正直、誠実」「親切、思いやり」「規則の尊重」「自然愛護」といった22項目(小学1、2年は19項目、3、4年は20項目)を定める=表。現学習指導要領に引き続き、親から虐待された子はつらく感じる「家族愛、家庭生活の充実」や、国に都合のいい価値観を押しつけるとの懸念がある「伝統と文化の尊重、国や郷土を愛する態度」も含まれる。

 大森准教授は「養う道徳性が決まっていて、それを授業で扱わなければならず、子どもたちの実態と離れ道徳教育が形骸化している。教科化によって、現場の裁量がより狭まる」と懸念する。

 (佐橋大)

 

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