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教育

地方私大に公立化進む 閉鎖や撤退免れ

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 入学者が定員を下回る定員割れにあえぐ地方の私立大が、公立大に衣替えする動きが広がっている。その受け皿は、県や市などの地方自治体だ。少子化で生き残りをかけた大学間競争が熾烈(しれつ)さを極める中、私立大を「救済」する価値はどこにあるのか。自治体と大学が二人三脚で思い描く地域の未来とは。

 「公立化はゴールでもなければ、延命策でもない。地域貢献を掲げる大学の通過点にすぎない」。一日、公立大として再出発した長野大(長野県上田市)の開学式で、母袋創一市長は関係者にこう述べた。

 上田市と合併した旧塩田町が敷地や資金を提供して一九六六年にできた長野大(当時は本州大)。公立化への議論は、運営母体の「学校法人長野学園」が二〇一四年、市に要望して始まった。

 定員割れが一三年度まで八年間続いた。一一年度には定員三百人に対し入学者は二百四十二人と約八割。市の検討会では将来的な財政支出を不安視する声も出た。だが、最後は「大学が残れば市の発展につながる」と意見が一致。大学側の経営努力もあり事態は好転し、公立化への期待感もあって今春の志願倍率は一気に十倍に跳ね上がった。

 地方の私立大が公立化して人気が高まり、追随する動きが盛んだ。公立化は総務省と文部科学省が認可すればできる。〇九年の高知工科大(高知県香美市)に始まり、静岡文化芸術大(浜松市)や名桜大(沖縄県名護市)など、八大学が公立大に転換。自治体は公立大学法人をつくり、堅実な運営に取り組んでいる。

2018年4月に「公立諏訪東京理科大」として出発する=長野県茅野市で

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 自治体にも公立化を受け入れる理由がある。自治体はこれらの大学の開設時に、土地や建物を負担し、学校法人に経費の一部を補助する「公私協力型」か、土地や建物のすべてを負担する「公設民営型」で関わっている。大学が閉鎖や撤退するとなれば、過去の巨額の投資が無駄になるため「残したい」のが本音だ。さらに地方では国公立大は一大ブランド。進学のため県外へ出る若者を地元に引き留めて、地域を活性化したい思いがある。

 公立化に伴う入学料や授業料などの学生納付金の値下げもメリットの一つ。公立大は運営自治体などを介し、教育内容に応じて国の地方交付税交付金が付く。私大時代の私学助成金より手厚く、自治体の負担もない。長野大では、私大のころに比べて一億円の増収となる算段だ。これを学生に還元し、一人あたり年間の授業料を二十五万円値下げする。税金が新たな公立大ブランドを下支えしている。

 一八年春には、長野県諏訪地域の六市町村でつくる事務組合が受け皿となり、諏訪東京理科大(茅野市)が公立化する。工業地帯の県中南部で唯一の四年制工学系大学という強みがあるが、〇六年度から定員割れ(定員三百人)が続き、累積赤字は十六億円に上った。公立化で学生納付金を一人当たり年間約六十万円引き下げ、「国立大並み(約五十三万円)」(同大)で学生を迎える。

 家庭の経済的な事情で退学する学生は、一年で十人ほどいる。河村洋学長(74)は「一番つらいのは、退学届に学長印を押す時」。学費が下がれば、家計の苦しい学生に学びの機会を提供できる。「地元の産業界の将来を支える人材を安定して育てるには、公立化が一番良い選択だ」

 地域の知の拠点として国の地方創生を担う公立大。統合を繰り返しながら、その数は国立大をしのぐ八十九となった。片や私立大は人口減少社会を迎え、全国約六百あるうち約四割が定員割れを起こし、地方で小規模なほどその傾向が強い。

 「公立化で、地域も大学も学生もみんなが喜べるようにしたい」と茅野市の担当職員。公立大の存在意義と真価が問われる。

◆受験、全国から

昨年公立化し、志願者が急増した福知山公立大=京都府福知山市で

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 地方の私立大は公立化することで、全国から学生を集めやすくなっている。二〇一六年四月に公立化した「北近畿唯一」の四年制という福知山公立大(京都府福知山市)は、一昨年まで一学年の定員五十人のうち、地元を中心に三十人ほどしか埋まらなかった。

 ところが一六年度入試は同じ定員に対し、全国から千六百六十九人が応募。志願倍率は三十三倍に上った。今春は定員を百二十人に増やし、七・七倍と好調だった。公立化が追い風になり、受験生の目に留まりやすくなったとみられる。

 今年の入学者百四十六人のうち、京都府北部の出身者は福知山を含めわずか七人だった。都道府県別では愛知、兵庫がともに十四人で最多。東海北陸地方の出身者が五十人以上に上り、一大勢力になっている。

 井口和起学長(77)は「人口八万人のまちに全国から学生が集まるようになったのは公立化の一つの成果。次は地元の高校生の選択肢になりうるような大学にしていきたい」と話している。

 (美細津仁志)

 

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