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部活動死の悲劇防いで 日体大、遺族が講師の研修会開催

亡くなった山田恭平さんの幼いときの写真を示しながら講演する母の優美子さん=東京都世田谷区の日本体育大世田谷キャンパスで

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 体育の教員を多く輩出する日本体育大(東京都世田谷区)で、学校の部活動に絡んで子どもを亡くした遺族らを講師に招いた学生向けの研修会が、初めて開かれた。中部地方を含む全国各地で起きた部活動死の悲劇に学び、安全への意識を高めようという機運が、ようやく出てきた。

 「体罰を受けなくても、それを見るだけでも耐えられない子がいることを常に思っていてください」。息子の山田恭平さん=当時(16)=を二〇一一年六月に亡くした愛知県刈谷市の山田優美子さん(47)は、昨年十二月に日体大で開かれた研修会で、学生らに呼び掛けた。

 恭平さんは当時、高校二年生で野球部に所属。優美子さんは一年生の冬に異変を感じ始めていた。顧問の教諭が部員に暴力を振るうのを見ているのがつらいとこぼすようになった。翌年四月、監督に退部を申し出ても「逃げているだけだ」と認めてもらえず、部活を休むように。死亡する二日前に、顧問から呼び出しを受け、翌日には学校も休んだ。そして、自殺。遺書はなかったが、顧問による部員への体罰を見聞きしたことなどで、うつ病が進行し、自殺につながったとする報告書を県の第三者調査委員会はまとめた。

 研修会で、山田さんは「他の部員の保護者が『体罰や理不尽なことに耐えて子どもは強くなる』『みんな殴られても耐えている。恭平君の心の問題』と、体罰を容認する発言をするのがショックだった」と話した。その上で、体罰に頼らず部活動の指導をしてほしいと訴えた。

 全国柔道事故被害者の会代表の村川弘美さん(49)も登壇した。村川さんの息子康嗣さん=当時(12)=は〇九年、滋賀県愛荘町の秦荘(はたしょう)中学校の部活動中に、急性硬膜下血腫となり死亡した。康嗣さんは、体が弱かったが、体力を付けたいと柔道部に入部。体力に合わせた別メニューをする約束だったのに、練習を始めて約一カ月の受け身も取れない段階で、試合形式の練習をさせられた。上級生に繰り返し投げられた後、顧問にも投げられ意識を失った。

 「救急隊が到着したとき、既に瞳孔が開いていた」「『頭蓋骨を外したら血がシャワーのように噴き出た』と医者から聞かされた」。村川さんは当時の状況を生々しく学生たちに伝えた。「自分は大丈夫だったから、自分が受けてきたような指導をすれば問題ない」という意識で指導をすると、生徒によっては取り返しのつかない結果が生じると説き、「命を預かる覚悟を」「安全確保ができないなら入部を断る勇気も持ってほしい」と訴えた。

 二教室に分かれて約三百八十人が聴講。日体大体育学部健康学科三年で、保健体育の教員志望の堀尾享平さんは「悲しみというより、怒りが込み上げた。教員に生徒の命を預かる感覚が足りなかったのでは。指導も問題だが、間違った指導をだめだと言えない同調圧力を変えないといけないと感じた」と受講後、話した。自身が過去の部活動で受けたつらい経験が重なり、涙を流す女子学生もいた。

◆「根本に体罰の文化」

南部さおり准教授

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 <研修会を企画した日体大の南部さおり准教授(スポーツ危機管理学)の話> 死亡者が出るなど重大な事故を起こした部活動の指導者から決まって聞くのが「大学では(事故防止対策を)学んでこなかった」という言葉。学んでいないわけはないが、心に響いていない。それなら、学生のうちに、被害に遭った人の家族の話を聞いてもらい、スポーツに潜む危険性を分かってもらおうと考えた。身体能力の高い体育大の学生には、身体能力の低い子への配慮を忘れてほしくないという思いも込めた。

 部活動中の事故に十年前から関わっている。この間、部活動の指導の安全を高める提言はさまざまされているが、重大事故は続いている。これは、部活動の根本に体罰の文化があるからだ。「自分も体罰を受けてきたから、そうやって指導していい」と思う指導者は多い。虐待の連鎖と同じ。試合に負けたときの罰で、グラウンドを何十周も走らせることは体罰だが、そう捉えない甘い認識もある。

 さらに部活動は閉じた世界。外の人に訴えたら、ひどい報復を受けるかもしれないので、生徒は怖くて声を上げられない。それが顧問に「正しい指導」をしていると勘違いさせてしまう。そういう状況をつくり出さないよう、体育大として被害者の声を聞く初めての研修会を開いた。他の大学にも広がってほしい。

 (佐橋大)

 

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