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クルマ革命

<第8部>次世代エコカーの挑戦 CO2排出ゼロの夢と壁

 地球温暖化を防ぐ次世代のエコカーは、走行中に二酸化炭素(CO2)を出さない電気自動車(EV)と、燃料電池車(FCV)が主流となる。EVは製造が容易なのが強みだが、電池の性能や電力供給に不安を抱える。FCVは水を電気分解した水素で動き、化石燃料に頼らない「水素社会」への導き手として重要だが、普及に必要な肝心の水素ステーションの整備が進まない。いずれの車も越えなければならない壁がある。

◆FCV 水素として電気大量貯蔵 インフラ整備はEV先行

FCVの普及に欠かせない水素ステーション=名古屋市熱田区で

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 浜風を受け止めたプロペラが「ブォーン」と重低音を響かせ、ゆっくり回る。七月中旬、横浜港にある風力発電所を利用して始まった水素製造の実証実験。トヨタ自動車や東芝、神奈川県などが協力して進める。

 風力で生み出した電気で水素を作り、それを運んで水素が燃料となる燃料電池フォークリフトを動かす。再生可能エネルギーから一貫して取り組むことでCO2の発生をどれだけ減らせるかを調べるのが目的だ。

 自動車業界では、走行時に排ガスを一切出さない「ゼロエミッション車」が理想のエコカーとされている。選ばれるのは電気だけを使うEVか、水素を活用した電動のFCVか−。

 上の表の通り、もし化石燃料を使う火力発電に頼らず、風力や太陽光など再生可能エネルギーから生まれた電力を使えば、EVのCO2排出は、ほぼゼロ。FCVも、再生エネ由来の電気で水を分解してできる水素で走らせれば、大幅にCO2を減らせる。「完全なゼロ」でないのは関連設備の運用や運搬に伴うCO2排出を厳密にみているためだ。

 大量の電気をため込むのは技術的に難しいが、水素は圧縮しタンクの中で大量に長期間保管できるため、その点は使い勝手が良いとの見方がある。FCV用の燃料だけでなく、使いたい時に電気に変え、EVなどの乗り物や家庭用の電力としても使える。これがトヨタが描く、二酸化炭素排出量の少ない暮らしを実現する「水素社会」だ。

 トヨタで新規事業分野を担当する友山茂樹専務役員(59)は「産業車両や家庭での水素利用を増やしてインフラを整えたい」と意気込む。

 しかし、水素社会の「入り口」となるFCVの普及に欠かせない水素ステーションの数は全国で二十五都道府県の九十一カ所(八月末)にとどまる。

 一カ所の建設費に四億円弱、年間の運営費に四千五百万円程度かかり、採算を維持するには、九百台分の固定客が要るとの試算がある。ところが肝心のFCVは現在、国などの補助金を受けても購入費は五百万円に上り、高価。国内全体でも二千台余しか普及していない。

 一方、EV用の充電設備は国内に二万八千基あり、日常的な走行のためのインフラ整備は先行する。ただ、EVが積むバッテリーは価格と航続距離、耐久性の面でまだまだ課題が多い。普及に向けて、それぞれ大きな課題を抱えている。

◆EV 電気劣化が課題/交換システムも

充電ステーションからフル充電の電池を取り出し、スクーターに詰め込む利用者=台北市で(岸本拓也撮影、一部画像処理)

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 EVの課題の一つが、電池の耐久性。携帯電話やノートパソコンと同様にEV用の電池も充放電を繰り返すたびに劣化し、フル充電しても使える電力量が徐々に少なくなってゆく。

 ユーザーの不安は、EVの中古車価格に反映されている。日産自動車の初代リーフ(二〇一一年式)の場合、市場価格では走行距離約三万キロの中古車が約五十万円。同条件のトヨタ自動車プリウスは百万円超と開きは大きい。

 製品の進化で劣化も以前ほどは進まなくなってきたが、日産は新型リーフに「購入から八年または十六万キロ」以内で一定以上の劣化が起きたら、無償で電池交換するサービスを打ち出した。

 保証期間が過ぎた電池を有償で交換する体制も整えている。同社の星野朝子専務執行役員(57)は「性能の良い電池の開発でEVの中古車市場をしっかりつくっていきたい」と話す。

◇台湾 充電時間は不要

 劣化や充電時間の心配をなくそうと、街角で電動スクーターにフル充電した電池を月当たり定額で貸し出すユニークな取り組みを始めたのが、台湾のベンチャー企業「GOGORO(ゴゴロ)」だ。

 使い方は簡単。複数の電池が置かれた電池ステーションで、スクーターから取り出した電池を空きスペースに差し込むと、充電済み電池のロックが外れる。あとは取り出し、スクーターに差し込むだけ。電池の重さは一つ八キロ。二つ積み、合計で約百キロ走行できる。

 ステーションは台湾で約四百四十カ所あり、台北市ではすでにガソリンスタンドより多い。スクーターは約三万台が販売された。台北市内のゴゴロ販売店の担当者は「地球の未来のため、電池の不安のない電動車の良さを伝えたい」と胸を張る。日本でも、沖縄・石垣島で実証実験を始める。

 車でも、米EVベンチャーのテスラが主力セダン「モデルS」に電池入れ替えシステムを米国で導入している。

◆早稲田大 大聖泰弘名誉教授に聞く「EV普及には時間必要」 

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 CO2を減らすのに有効な車は何か。自動車工学が専門で環境技術に詳しい早稲田大の大聖(だいしょう)泰弘名誉教授(70)=写真=に聞いた。

 −EVシフトをどう見る。

 「CO2を減らす車の電動化は必須だ。HVなどの電動車が主流になっていく。EVも増えてほしいが、十年単位の時間がかかる。エンジンの役割も低燃費化を進めながら当面は残る」

 −EV普及の壁は。

 「まず電池のコスト。エンジンの原価は十万円程度だが、EV用電池は(新型リーフと同等の)四十キロワット時の性能で六十万〜八十万円といわれる。差額を国の補助金で埋めている状況だ」

 −充電時間も課題だ。

 「急速充電でも数十分かかる。時間短縮のため出力を上げれば、多くの電力が要る。例えば一度に二万台のEVを急速充電しようとすると、原発一基分の電力が瞬間的に必要だ。充電時間を分散できればいいが、まだ全体を管理する仕組みがない」

 −発電時のCO2の問題もある。

 「再生可能エネルギーでEV用電力をまかなうのが理想だが、現実は化石燃料を燃やす火力発電に頼っている。国全体で低炭素の電源を増やす努力が必要だ」

 −FCVはどうか。

 「利便性や航続距離はエンジン車に近いが、普及の壁はEV以上に高い。車は耐久消費財の中で最も高価で、買い替えサイクルが長い。EVもFCVも、劇的なブームはすぐには起きない。メーカーは開発状況や利用者のニーズの変化を見据えて対応するべきだ」

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 文・福田要、宮本隆彦、岸本拓也、鈴木龍司 デザイン・伊藤潤 紙面構成・岩下理花

 

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