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クルマ革命

<第7部>産業分野で進む自動運転 人手不足の救世主か

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 ドライバーがいらない自動運転は、省力化や効率化に直結する。このため、個人のマイカーよりもバスやトラックなど産業分野で導入が先行しそうだ。少子高齢化で生産年齢人口(15〜64歳)が減っていく日本が社会の利便性や経済の活力を維持するための切り札としても期待される。一方で、社会に新技術の自動運転を調和させることができるかどうかが課題となる。

◆増える通販、物流業界が熱視線 待ち合わせ型宅配/トラック隊列走行

 自動運転技術の活用は、通販の利用拡大による配送の増加に伴い、深刻なドライバー不足に陥っている物流業界で期待が大きい。

 スマートフォンで好きな時間に呼び出した無人の車と都合の良い場所で落ち合い、荷物を受け取る−。宅配大手のヤマト運輸とIT大手のディー・エヌ・エー(DeNA)が描く、近未来の宅配便の姿だ。

 宅配業界では、アマゾンなどネット通販の小口配送が急増。二割に上る再配達率がドライバーの労働環境を悪化させ、サービス時間の短縮や値上げなどの動きが相次ぐ。こうした現状を踏まえ、両社が目指すのが“待ち合わせ型”の「ロボネコヤマト」だ。

 会員登録した利用客には荷物が届くことが、あらかじめメールやLINE(ライン)で通知される。客はスマートフォンを操作し、道路マップで受け取りたい路上の地点を指定。希望時間を十分単位で入力すると、車が来る。車の後部はコインロッカーのような構造で、客が自ら暗証番号を入力し荷物を取り出す。

 四月から、神奈川県藤沢市の一部地域で実証実験が始まった。現在はドライバーが運転し、受取時の課題などを検証している。

 「自動運転が普及するまで手をこまねいているわけにはいかない」。ヤマト運輸情報ネットワーク戦略課の畠山和生課長は「完全無人化には長い時間がかかるが、その時に向け、サービスの設計を進めていく」と説明する。実際、有人のままでも再配達の減少などの効果が見込める。

 ただ、宅配のルートは入り組んだ住宅街も多く、自動化へのハードルは高い。より早く実用化しそうなのが、高速道路でのトラックの「隊列走行」だ。

「ロボネコヤマト」の仕組みを動画で見ることができます

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 人が運転する先頭のトラックに無線で通信する無人の車両が一定の車間距離を保ちながら自動で追随する。貨物列車のイメージに近い。隊列の間に別の車が割り込めないよう車間を詰めて走るため、空気抵抗が減り、二台目以降の燃料消費が少なくなるメリットもある。

 一方で全長十二メートルのトレーラーが三台連なると、四十メートル近い車列となり、一般のドライバーが追い抜く際に緊張を強いられる可能性もある。高速道路は隊列走行で運び、一般道では切り離すため、インターチェンジ周辺に隊列の編成と解除をするスペースが必要になる。

 政府は二〇一八年一月以降、新東名高速道路で有人での実証実験に着手し、一九年一月には無人化の技術を試す。二二年度の実用化を目指している。

 国内物流の輸送量の九割をトラックが占め、現在は八十万人前後の運転手で支えているが、二〇年度には十万人が不足するとの試算がある。ヤマトグループ総合研究所・荒木勉専務理事は「隊列走行は技術的にそれほどハードルが高くない。長距離運転の減少など相当な負担の解消につながる」とみている。

◆ドライバー高齢化 路線バス維持困難

 政府が自動運転の実証実験に力を入れているバス業界は、路線の廃止が相次ぐ中、ドライバーの高齢化も加速し“待ったなし”の状況に陥っている。

 厚生労働省の調査によると、営業バスの男性運転手の平均年齢は二〇一六年が五十歳で、全業種の平均を七歳上回った。十年前の〇六年と比べて四歳ほど上昇し、六人に一人が六十歳以上となっている。

 背景には、人手不足で長時間労働や休暇の減少を余儀なくされ、若手が集まりにくくなっている悪循環がある。赤字路線を抱える事業者を中心に賃金を抑え、非正規社員を増やす傾向があり、国土交通省の調査では一年以内の離職率は約三割に上っている。

 近年は海外からの観光客が増え、貸し切りバスの需要が高まっている。その一方で、路線バスは一年間に千キロ以上の区間が廃止に追い込まれており、マイカーに乗れなくなった高齢者たちの移動手段の確保が難しくなっている。

◆農・鉱業 一足先に実用化 省力化や安全向上に期待

有人のトラクター(後方)からの指示をもとに無人で運転する自動運転トラクター=茨城県桜川市で

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 農業や鉱業の現場では、自動運転機能を生かした取り組みが既に始まっている。高齢化や担い手不足で減少が続く農家の省力化や、危険を伴う鉱山開発の安全性向上に期待がかかる。

 農機大手クボタは六月、自動運転できる「ロボットトラクター」の試験販売を始めた。まず運行ルートを決めるため、人がトラクターに乗って、耕したい農地の外周をぐるっと走る。その枠内を、衛星利用測位システム(GPS)を活用して、無人トラクターが自動走行して農地を耕してくれる仕組みだ。二〇一八年に市販する。現在は近くで人が監視しながら、発進と停止はリモコンで操作する必要があるが、将来は完全な自動運転化を目指している。

 ヤンマーや井関農機も一八年にロボットトラクターを売り出す計画。各社は、田植え機や稲刈り機も自動化を進める考えだ。

 鉱山開発の現場でも、建設機械大手コマツの無人ダンプトラックが活躍している。GPSや無線、障害物検知センサーなどを搭載したダンプを中央管制室で一括管理。走行ルートを無線で配信し、二十四時間稼働で自動走行している。現在、チリやオーストラリアなど資源国で約百台の無人ダンプトラックが稼働中だ。

 「クルマ革命」第1部「自動運転の衝撃」と第2部「シェア社会が来る」、第3部「EV時代が来たら…」、第4部「コネクテッド」、第5部「変わる販売」、第6部「素材の戦国時代」はインターネットの中日ウェブと中日プラスでもご覧になれます。

◆出前ロボも実験中

カメラで周囲を見ながらゆっくり走るキャリロデリバリー=東京都千代田区で

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 玄関先まで、無人で品物を送り届けるサービスの研究開発も進んでいる。ロボット開発ベンチャーのZMP(東京)は、走る宅配ボックスのようなロボット「キャリロデリバリー」の実証実験を八月から始めた。

 宅配すし「銀のさら」を運営するライドオン・エクスプレス(東京)との共同事業。ロボットはレーザーセンサーとカメラで周囲三六〇度を確認しながら最大時速六キロで自動走行。重さ百キロまで運搬可能で、注文者が携帯電話をかざすとボックスのふたが開く。

 歩道での走行を想定しているが、自動走行を想定した法制度がなく、現在は技術的な検証を重ねている段階。近く私有地での走行実験に取り組む。早期の実用化に向け、政府に法整備を働き掛ける。

◆活用した社会どう描く 日本総研シニアマネジャー・井上岳一さんに聞く

井上岳一さん

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 自動運転は人手不足の解消にどんな役割を果たすのか。次世代交通の分野に詳しい日本総合研究所のシニアマネジャー井上岳一(たけかず)さん(48)に聞いた。

 −期待される分野は。

 一番は路線バスだ。地方のバス会社は深刻な人手不足で既存の路線の維持すらままならない上、九割の事業者が赤字。補助金で何とかしのいでいる。人手不足を解消し、経費の六、七割を占める人件費の削減につながる自動運転に対する期待は大きい。

 −課題は何か。

 国内自動車メーカーは乗用車の自動化の開発に注力し、マイカー社会を前提に自動化を進める考えだ。バスの自動化を目指しているのは国内ではIT系の企業で、バスメーカーの動きは遅い。シンガポールは公共交通の使い勝手を良くし、マイカーに頼らない社会をつくるため、政府主導で自動運転に取り組んでいる。日本は自動運転でどのような社会をつくろうとしているかが見えない。

 −物流業界は。

 人手不足に悩むのは物流業界も一緒。トラック運転手は深夜の長距離走行などきつい仕事で、自動化への期待は大きい。隊列走行だけでなく、貨物列車の拡充、バスや電車を活用した貨客の混載、ドローンなど多様な組み合わせが必要だ。

 −他の分野はどうか。

 道を行き交う人や車の存在を考えなくていい農業は早期の普及が期待できる。農業は機械化が進んでいるが、今の田植え機を効率的に使うには複数の人が必要。田植え機を自動化できれば一人でも作業できる。

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文・福田要、宮本隆彦、鈴木龍司、岸本拓也 デザイン・伊藤潤 紙面構成・岩下理花 動画・槙島優

 

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