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クルマ革命

<第6部>素材の戦国時代 もっと軽く、もっと強く

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 車づくりの歴史は、より軽く、より丈夫な素材を求める道のり。エアコンやカーナビ、エアバッグ、自動運転装置…。時代の変化で新しい装備が加わるたびに車体は重くなり、燃費向上には不断の軽量化が必要だからだ。どの素材が時代の主役を担うのか。さまざまな素材メーカーが競争の火花を散らしている。

高機能樹脂などを使った旭化成のコンセプト車「AKXY(アクシー)」=名古屋市港区のポートメッセなごやで

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◆燃費向上へ新素材台頭

 軽さと強度で注目される植物由来のセルロースナノファイバー(CNF)。同じ繊維素材の先輩として、車体への採用が先駆けて進むのが、鉄の四分の一の軽さなのに強さは十倍ある炭素繊維と、樹脂(プラスチック)を混ぜて作る炭素繊維強化プラスチック(CFRP)だ。腐食やさびに強い特徴もある。

 トヨタ自動車の燃料電池車(FCV)「ミライ」の高圧水素タンクに採用されるなど、高価格の車を中心に浸透しつつある。当然、鉄より高価だが、炭素繊維の売上高で世界首位を走る東レの石野裕喜夫自動車材料戦略推進室長(61)は「(コスト競争力に結び付く)技術を確立し、より多くの車に使用を広げたい」と攻めの姿勢だ。

 帝人は六月、名古屋市で開かれた自動車技術の展示会で、高機能樹脂「ポリカーボネート」製の前方窓を初公開した。ガラスより三割以上軽く、頑丈なため窓枠が要らない。電気自動車(EV)ベンチャー、GLM(京都市)が今秋売り出す新車に採用した。価格はガラスの一・五〜二倍だが、帝人の担当者は「『窓はガラス』という固定観念を打ち破る」と自信をのぞかせる。

 旭化成は高機能樹脂など独自の素材を使ったコンセプト車を出展。宇高道尊(うだかみちたか)オートモーティブ事業推進室長(47)は「二〇二五年には自動車関連事業の売上高を三倍の三千億円に引き上げる」とアピールした。

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 鉄を別の素材に替えて軽量化する動きは自動車部品の業界にも広がる。豊田鉄工(愛知県豊田市)は一九年度、樹脂製の骨格部品を製品化する。ガラス繊維などを補強材に使い、小型車への採用を目指す。宝田和彦社長(65)は「材料と加工・接合技術の開発を同時に進める」と話している。

 有力な新素材が次々と登場する中、鉄鋼業界では金属の使用量の低下に危機感もある。展示会で、鉄より五割以上軽く、強度を高めたアルミ合金の骨格部材をPRした神戸製鋼所アルミ・銅事業部門の杉本明男技術担当次長(56)は「生産性とコストの面から、アルミや鉄は今でも使用が多い。主役の座は譲らない」と真っ向勝負の構えだ。

◆大型化など車体重く 鉄の比率減少へ

 時代とともに自動車の車体は大きくなり、新たな装備も追加されて重くなってきた。日本自動車工業会によると、一九七三年と二〇〇一年の乗用車の平均重量を比べると一・六倍にもなる。このため、少しでも軽くしようと、重い鉄が使われる比率は減ってきた。

 一九六〇年代から二〇一〇年代にかけて、鉄の代わりにアルミなどの軽い金属や、樹脂の比率が増えている。さらに今後、EVの普及や自動運転技術の進歩で重い蓄電池や新たな機器を搭載する車が増えるほか、環境配慮の燃費規制も厳しくなるため、軽量化は重要なテーマになる。

 ますます強まる新素材の存在感。トヨタ自動車のある幹部は「車の材料は十年前と比べても大きく変わった。国内外の自動車メーカーは必ずどこかの化学会社と共同で開発しているはず」と話している。

カラフルな樹脂製のスポークが空気の代わりをするブリヂストンの「エアフリーコンセプト」=東京都小平市の同社技術センターで

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◆樹脂製タイヤで空気不要

 新たな動きは、タイヤにもある。樹脂製のスポークが空気の代わりをするのは、世界最大手のブリヂストン(東京)が開発した「エアフリーコンセプト」。自動車向けは試験段階だが、自転車用は二〇一九年の発売を目指す。

 一三年秋発表の自動車用の試作品は計百二十本のスポークが荷重を支え、衝撃を吸収する。パンクの心配がなく、空気圧も気にしなくていい。

 再資源化が難しいゴムとは異なり、樹脂はリサイクルが容易だ。

 実用化に向け、信頼性や耐久性をテスト中。発売のめどは立っていないが、無人で走る自動運転車のパンクは避けたいし、ガソリンスタンドに行かない電気自動車のタイヤは点検不要の方がいい。

 「未来のタイヤはこれしかない」と信じる開発担当の阿部明彦さん(51)。空気入りタイヤが約百三十年前に英国で実用化されたことを踏まえ「それ以来の変革を起こしたい」と意気込む。

 東京都小平市にある同社の研究開発拠点で、エアフリーコンセプトを装着した自転車に乗ってみた。

 普通のタイヤより多少乗り心地が硬めの印象だが、知らずに乗れば気付かない程度。パンクがなく、空気を入れる手間も省けるメリットは大きく、飛び付く消費者は多いのではないかと感じた。

 ※エアフリーコンセプトを装着した自転車の走行を動画で見ることができます

https://www.youtube.com/watch?v=hjss3jbndO4

異なる素材を接合するベルホフの特殊なリベット(白線で囲まれた突起物)=ポートメッセなごやで

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◆「くっつける」技注目 特殊リベット、レーザー溶着

 「強烈にクローズアップされている」(愛知県の自動車部品メーカー幹部)のが「くっつける」技術。鉄同士なら溶接で済むが、アルミやCFRPといった異なる素材をつなぐには新たな手段が必要だからだ。

 独企業のベルホフは、特殊な管状のリベット(びょう)で鉄とアルミをつなぐ技術に定評がある。高級車のベンツなどに採用されている。神戸製鋼所(神戸市)も、特殊なリベットによる鉄とアルミの接合技術を持つ。

 自動車向け生産設備の広島(名古屋市)は、樹脂同士を溶かして付けるレーザー溶着装置を手掛ける。ビス留めと比べたコスト削減効果が一部品当たり五円と大きく、注目されている。二〇一六年の売り上げは前年より三〜四割も増えた。

 接着剤も有力だ。専門家によると、独BMWのEV「i3」は、アルミ製の車台とCFRPの外装を強力な接着剤で接合している。温度変化による膨張率の差で接着剤が割れないよう、軟らかくて分厚い接着剤を用いているという。

◆製造コストが課題 鉄と桁違いの高さ

 自動車産業からの受注を目指すため、共通する課題は鉄よりはるかに高い製造コストの低減。CFRPやCNFなどを扱う各社はしのぎを削っている。

 一キロ数十円の鉄に対し、樹脂と混ぜる前の炭素繊維の主流は二千〜三千円。同様の補強材、ガラス繊維の十倍だ。さまざまな企業や大学がコストに直結する成形時間の短縮やリサイクル技術の開発に取り組む。

 プラグインハイブリッド車「プリウスPHV」の後部ドアの骨格にCFRPが採用された三菱ケミカルホールディングスの担当者は「ねじ止めや塗装の工程を省ける製品もあるため、素材が高くても全体でコスト低減が提案できる」と話す。

 まだ生産量の少ないCNFは、さらに高額だ。製紙業界で最も先行する日本製紙の場合、一キロ一万円程度。河崎雅行CNF研究所長(56)は「安く作るには製造工程の簡素化と効率化が必要」と話し、静岡県の実証設備で繊維をほぐす処理と樹脂との混合を同時に進める工程を試していく。

 経済産業省は、量産が進めば二〇二〇年に千円、三〇年には五百円以下に下がると試算している。

影山裕史教授

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◆多様な素材を「適材適所」で

 車体に使われる素材の多様化は今後、どう進むのか。トヨタ自動車の技術者として、レクサスの高級スポーツカー「LFA」にCFRPを導入した経験を持つ金沢工業大大学院の影山裕史教授(63)に聞いた。

 −素材の変化の特徴は。

 鉄が減り、軽い材料が増えた。以前、CFRPはスポーツカー向けが主だったが、EVなど環境対応車や量産車にも使われ始めている。産学官の連携で成形技術を向上させる動きもある。500台を限定販売したLFAは骨格部分の大部分と外板の半分に採用した。この結果約200キロの軽量化に成功したが、コストはかさんだ。

 −そのコストが、新素材の普及を左右しそうだ。

 炭素繊維は原料である石油の価格変動に影響される上、高温で長時間焼き固める工程が必要なため値が張る。将来、植物由来のCNFの方が安くなる可能性が十分にある。

 −特性が異なる素材を併用する「マルチマテリアル」を、どう評価するか。

 これまで車体には金属や樹脂、ガラスが単独で使われてきたが、技術的には出尽くした。鉄は高張力鋼板(ハイテン)を超えるレベルが難しく、樹脂もすでに多種多彩。これらを複合化して新たな機能を創り出す時代になってきた。外装はCFRP、車台はアルミなどと「適材適所」で使い分けるべきだ。

     ◇

 文・福田要、宮本隆彦、相馬敬、岸本拓也 デザイン・伊藤潤 紙面構成・岩下理花 動画・有川正俊、槙島優

 

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