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クルマ革命

軽量化、植物繊維に熱視線

新素材のセルロースナノファイバー。ゼリーのような物体が車体の未来にかかわる=東京都千代田区の日本製紙本社で

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 ITをはじめとした技術の発展で激変する自動車産業と社会を描く企画「クルマ革命」。第六部は、車体の素材が急速に多様化している現状と背景を探る

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 ゼリーのようにプリプリとした、透明な物体。紙の原料と同じ木や竹などの植物繊維をナノ(十億分の一)メートルレベルにほぐした「セルロースナノファイバー(CNF)」だ。食品や化粧品に粘りを出す添加剤などに使われているこの新素材が今、自動車産業から熱い視線を集めている。

 固めると、鉄と比べて五分の一の軽さなのに、微細な繊維同士が結び合うことで強度は五倍にもなる。植物が原料だからリサイクルもしやすい。金属に代わる強くて軽い素材としては炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の活用が産業界で先行するが、日本は国土の七割を森林が占める。原料の資源が豊富な点がCNFの最大の強みだ。

 「未来の車は紙の原料で造られるかもしれない」。電子媒体の普及や人口減少で「紙離れ」に悩む製紙業界は、産学官の共同開発で天然繊維の潜在力を引き出すことに成功した夢の素材に期待を膨らませ、開発と量産に力を注ぐ。

 静岡県富士市。日本製紙は十二日、自社工場内に建設した「CNF強化樹脂」の実証生産設備を報道関係者に初公開した。

 樹脂に混ぜ、軽くて頑丈にする。CNFは量産前の昨年度、一キロ当たり一万円と高価だったが、巨額の受注が期待できる自動車部品への採用を目指し、品質と製造コストの両立を探る。副社長の山崎和文(62)は「自動車業界の厳しい要求に対応できればさまざまな道が開ける」と意気込む。

 他の製紙会社も技術開発を競っている。プラスチック製造のテー・シー・富山(富山県立山町)が六月に名古屋市で開かれた自動車技術の展示会で公開した、CNFを樹脂に均一に混ぜる技術も注目を集めた。開発を支援する経済産業省は二〇三〇年に自動車向けのCNF市場が年間五百億〜二千五百億円規模に成長すると予測している。

 鉄の塊というイメージが強い車だが、素材産業の技術革新の恩恵で、車の材料は時代とともに多様化。世界で年間約九千万台が生産される車の巨大市場を狙う受注競争は激しさを増す。背景には、一層の車体軽量化が必要になる自動車業界の切実な事情がある。

 普及が見込まれる電気自動車(EV)が積む蓄電池は重く、自動運転のためのさまざまな装備も車体の重量を増す。さらに二酸化炭素(CO2)の排出抑制に向けた世界的な燃費規制に対応するためにも、車体を軽くして走行距離を伸ばすことが求められている。

 自動車各社は薄くて強度を高めた高張力鋼板(ハイテン)や、強度と耐熱性を持たせた高機能樹脂の導入も進める。「マルチマテリアル」。特性が違う素材の併用で軽量化を目指す手法は主流になりつつある。

 中でも積極的なのが、厳しい環境規制に直面する独BMWなどの欧州勢だ。有力部品メーカーの幹部は「ここ数年で一気に流れが変わった。どの素材が本命か分からないので、全方位で構える」と危機感が強い。トヨタ幹部は表情を引き締める。「新素材が軽量化に直結する。研究を進めなければ競争に負けてしまう」 (敬称略)

 

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