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クルマ革命

<第5部>「マイカー」どこへゆく

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 都市部や若者の間で進む車離れ。自動運転や車を共用するシェアリングといった新しい技術、サービスの普及は、私たちと車の関係をどう変え、自動車販売の現場はどのように対応しようとしているのか。「移動のコストが下がることで車の魅力が見直される可能性もある」。そう指摘する有識者もいる。

◆顧客との関係模索 IoTで接客迅速/ネット販売

インターネット上でカスタマイズして注文できるテスラの店舗=名古屋市千種区で

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 「いらっしゃいませ、○○さま。本日は定期点検のご予約ですね」

 五月下旬に新装開店した名古屋市名東区の名古屋トヨペット名東店。客は店に入るやいなや、名前を呼ばれて迎えられた。

 店外のカメラが訪れた顧客の車両ナンバーを読み取り、名前や予約の用件が、受付担当者の腕に着けた腕時計型の情報端末に通知される。このため迅速な接客ができる。

 店内では、手元のタブレット型端末に顧客の車を整備する様子が映像で映し出され、待ち時間も確認できる。あらゆるモノがインターネットにつながる「IoT」を活用した最新の次世代店舗だ。

 国内の自動車需要が減少する中、販売店は顧客サービスの充実を収益につなげようと工夫を重ねてきた。

 自動車販売協会連合会の調査によると、販売店の収益はバブル期の一九九二年は、六割近くが新車販売だったが、二〇〇〇年代には五割を切った。代わりに以前は35%ほどだった点検や部品交換といった顧客サービスの割合が増え近年は約40%になっている。

 名古屋トヨペットの小栗一朗社長は「自動車メーカーは海外に成長を求めたが、販売店は根付いた地域で生きるしかない。顧客とのつながりを深く掘り下げてビジネスを維持する」と話す。

 若年層の開拓に向けて、トヨタ自動車は一七年度中に、スポーツモデルを専門に取り扱う新たな販売網「GRガレージ」を展開する。店の造りなど一定の基準を満たした既存の販売店を認定し、車ファンづくりにつなげる考えだ。

 メーカー直販で顧客との新たな関係を築いているのは、電気自動車(EV)メーカー米テスラだ。六月に名古屋市内に国内六つ目の直営店を構えた。実車も飾られるが、あくまで「ショールーム」の位置付け。注文はすべてネットで完結できる。値引きは一切ない。

 今年一月に二台目となるテスラ車を購入したIT企業社長の安川洋さん(50)は「メーカーが顧客と直接につながり、悪いところやクレームがメーカーに伝わる。だから改善も早い」と評価する。メーカーと顧客のダイレクトな関係に新しさを感じている。

 ネット販売では、コスモエネルギーホールディングスも昨冬からヤフーと共同で新車販売を開始。ガソリン割引や、給油所でのメンテサービスを組み合わせて、新たな販売ルートの開拓を目指している。

◆IoT(アイオーティー)=英語のInternet of Thingsの略で「モノのインターネット」と訳される。ネットを介した情報交換で機能を高めることができる。

◆「使い分け」未来の鍵に 共用と所有に二極化?

 自動運転や車を共用するシェアリングが普及する未来の社会では、私たちの車との付き合い方が大きく変わる。所有して乗るだけではなく、状況に応じてさまざまなサービスを使い分けることになりそうだ。

 スマートフォンで呼び、自由に乗り捨てられる自動運転の無人タクシーが、利便性と経済性で台頭する。それは孫悟空の「きんと雲」のように必要な時だけ姿を現す。タクシー運賃の七割以上を占める人件費が要らないため、現状より格段に安くなるのは確実。購入費に加え、駐車費や車検などの維持費でお金がかかるマイカーの所有をやめる人が出てくるだろう。

 量産車が主流の無人タクシーと差別化を図るのが、用途や人数に応じて好きな車を借りることができるカーシェアリングだ。自動化でカーシェア事業所まで出向いて借りたり、返却したりする手間がなくなる。

 現在のような、メーカーが生産する車種の中から選んで購入する「一方通行の買い方」も変化しそう。「交通事故ゼロ」を究極の目標に掲げる自動運転社会では、車はぶつからないことが大前提。新たな安全基準が検討され、デザインや素材の幅が格段に広がるかもしれない。販売店などに設置された3Dプリンターで外装や内装を意のままにデザインし、オンリーワンの車を手に入れることができる日も夢ではない。

 一方、自動運転が本格的に普及すると、自ら運転すること自体に新たな価値が生まれる可能性がある。こだわりのオーナーは超高級車やスポーツ車を愛車として保有する。レコードやフィルムカメラと同じように、ガソリンのエンジン車などを大事に使うことがステータスになる時代が来るかもしれない。

◆移動サービスに重点 デロイトトーマツ・シニアマネジャー 井出潔さんに聞く

井出潔さん

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 クルマに押し寄せる変化は、自動車販売の現場をどのように変えるのか。販売事情に詳しい調査会社デロイトトーマツコンサルティングのシニアマネジャー井出潔さん(38)に聞いた。

 −何が起きるのか。

 自動ブレーキなど安全装置の普及で事故が減り、修理が減る。シェアリングの拡大で個人所有が減ることでカー用品の需要も下がり、車検整備を含む車のアフターサービス市場は現状の八・五兆円規模から五兆〜六兆円規模にまで縮小すると試算している。

 −販売店はどうなる。

 販売台数や保有台数が下がるので、新車販売とアフターサービスという従来の二本柱だけでは販売店経営は苦しくなる。シェアリングなど移動に関するサービスを扱うことに新たな利益の柱を見いだしていく可能性がある。自動運転になれば借りた車は自動で自宅などに来るので、客はカーシェア事業所に行く必要がない。ただ自動車メーカーとしては他社との差別化が必要なので、販売店の代わりに、商品の魅力を伝えるショールームをショッピングモールなど人が集まる場所に設けるようになるだろう。

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 −シェアリングが進めば移動のコストが下がる。

 電動化で環境に負荷を与えるマイナス面が改善される上、コストも下がり、いろいろな車に気軽に乗れるようになる。今よりもっと車を楽しめる世界になるのではないか。コストが下がることで自動車の魅力が見直され、新たな需要が生まれる可能性もある。

◆普及率「低」 都市部での車離れ顕著

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 自動車検査登録情報協会(東京)によると、2016年3月末の1世帯当たりの乗用車(軽自動車を含む)の普及率は、1.064台。06年に過去最高の1.112台を記録してから微減が続く。中でも東京や大阪は低い普及率に輪をかけて減り幅が大きく、特に都市部で進む車離れをうかがわせる。

 06年と16年を比べた際の増減を都道府県ごとにみると、全国平均が0.048ポイントの減少なのに対し、三大都市圏の減少幅は大きいところで2倍程度もある。

 首都圏では、普及率が全国最下位の東京での0.081ポイント減をはじめ、神奈川、埼玉、千葉は0.069〜0.088ポイント減った。東京に次いで普及率が低い大阪は0.073ポイント減で、京都は0.084ポイント減。車を持たない世帯が多い大都市部でさらに車の所有が減っている。

 愛知と岐阜の減少も0.091ポイント、0.098ポイントと大きかったが、16年の普及率はそれぞれ1.288台、1.596台と全国平均より高い値を示す。

 一方、東北、四国、九州など公共交通機関の利便性が低い地方では普及率が上昇しており、車に対するニーズが根強い。

 普及率トップは福井の1.749台で、02年から15年連続で1位になっている。

 

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