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クルマ革命

車を売らない販売店

ミスコンテストが開かれた「クリップ広島」=広島市中区で

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 ITの発展で激変する自動車産業と社会を描く企画「クルマ革命」。第五部は、乗り方と買い方が変わるマイカーの未来を探る。

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 「ここで車は売りません」。カーディーラーでありながら、そう宣言する店舗が広島市の郊外にある。

 「『どんな車を…』なんて声掛けはやりません。パンフレットも隠しています」。話すのは、広島トヨペットが昨年十月から運営する「クリップ広島」の責任者江野脇誠一(42)。インテリアのように飾る最新モデルの車は売り物ではない。

 記者が訪れた五月末の週末は演奏会やミスコンテストが開かれ、旅など七百冊の本を自由に読める喫茶スペースで女性グループがくつろいでいた。目指すのは肩の力を抜いて集える空間。

 「営業トークの販売店と違い、気兼ねなく来られる」。イベントや絵本を目当てに六歳の長女を連れて月二、三回、訪れている会社員の槙奥尚央(まきおくなおひさ)(44)=同市=は「結果的に、関心のなかったトヨタ車を見る機会にもなっている」と話す。

 二十年近く営業マンをしてきた江野脇は、新車を買うこと自体を楽しみながらディーラーを回る家族が減り、ネットで決めた車の契約のためだけに来店する客が増えたと感じる。品定めに訪れるのは六十歳前後の客ばかり。「これまでのやり方では新たな顧客と接点をつくれない」。車を売らないのは、離れてしまった客との距離を縮める苦肉の策だ。

 戦後、経済の右肩上がりは終身雇用と年功序列の賃金体系を実現し、販売店は大衆車から高級車への乗り換えを勧めた。

 「いつかはクラウン」−。一九八〇年代のコマーシャルが象徴するように、マイカーはステータスシンボルだった。国内の乗用車の新車販売はピークの九〇年に五百万台の大台を記録した。

 だが、最近は二割減の四百万台前後で頭打ちの状態にある。「一人一台」は、車よりスマートフォン。家計の通信費が膨らみ、車の購入に手が回らない人もいる。日本自動車工業会の調査では、車を持つ人の9%が高齢や維持費の負担を理由に「保有をやめる予定」と回答している。

 車の価値が揺らぐ中、「ガリバー」などのブランドで中古車を取引するIDOM(東京)は昨年八月、関東を中心に「ノレル」という新事業を始めた。服を選ぶように、三カ月ごとに好きな車に乗ることができる。

 「いろいろなモノが自由になる世の中で、車だけが五年、十年も乗り換えできない」。事業責任者の許(きょ)直人(38)はこの不便さが、車離れの一因とみる。「ワインは飲み比べて初めて良さが分かる。車も同じ」

 顧客は二百五十台ほどの在庫から気に入った車をネットで注文する。料金は車種に応じて月額三万九千八百〜七万九千八百円(保険料込み、税別)。車検代はかからず、ベンツやBMWなどの高級車も選べる。

 許が見据えるのは自動運転時代の業界の姿。車を共有するカーシェアが広まり、使いたいときだけ無人のタクシーを呼ぶ…。「車そのものを売るより、移動のサービスに目を向けないと、生き残れない」

 (敬称略)

◆「クリップ広島」の店内を動画で見ることができます

https://www.youtube.com/watch?v=tZqSqpCs5Cw

 

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