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クルマ革命

<第4部>つながる先は…

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 これからの車は「走る」「曲がる」「止まる」に加え、「つながる」(コネクテッド)機能が欠かせない。全てのモノがインターネットにつながる「IoT」は、車をより便利にし、新しいサービスを創り出す一方、これまで独立した産業構造の中で繁栄を謳歌(おうか)してきた自動車産業がIT企業に攻め込まれ、そのビジネス戦略にのみ込まれてしまう可能性もある。サイバー攻撃への備えも重要な課題だ。

◆運転のビッグデータ活用 危険道路を改良/保険料割引

ビッグデータを基に事故の危険性が高い地点を調べた愛知県などの調査=愛知県岡崎市で

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 愛知県岡崎市内。片側三車線の県道に脇道が交わる、ありふれた丁字路に潜む事故の危険を、ビッグデータがあぶり出した。

 交差点の手前に停止線があるのに減速せず、急ブレーキでアンチロック・ブレーキ・システム(ABS)を作動させる車が多いことが衛星利用測位システム(GPS)と連動したトヨタ自動車の走行データから分かった。事故一歩手前の「ヒヤリハット事例」だ。

 愛知県はインターネットにつながる車から集めたこうしたデータを活用し、二〇一六年度にはABSの作動が多い七地点を割り出し、その原因を探った。

 その一つ、岡崎市の丁字路は脇道から見て右方向の見通しが悪く、左から来る自転車や歩行者への注意がおろそかになっていた。危険を減らすため、停止線やカーブミラーの位置を調節する対策を一七年度中に実施する。=(1)

 ビッグデータを使った大事故の予防。「対策が必要な地点を絞り込めるから、お金と時間を大幅に節約できる」。データを分析した担当者は利点を説く。

 トヨタは、通信装置を載せた車を〇五年以降、レクサス車などで標準化。一五年秋には交差点に設けた通信機を使って運転者に対向車や歩行者を知らせる交通支援システムを世界で初めて導入した。

 今年二月発売の二代目プリウスPHVは、車両不具合や点検の必要性を自動検出し、ネットで販売店に知らせる機能があり、顧客への点検の呼び掛けに役立てる。=(2)

 二〇年には国内で販売する全トヨタ車に通信装置を載せる計画だ。

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 保険業界でも運転データで保険料を決める「テレマティクス保険」が広がる。=(3)

 三井住友海上火災保険(東京)は法人を対象に保険料割引を始めた。契約先の営業車に機器を取り付け、運転者のスマートフォンと連動して「急加速や急発進」「ふらつき」など危険な運転を確認。安全運転だと保険料が最大6%割り引かれる。「一人一人の運転も分析でき、安全意識が高まったと聞く」と担当者。七割の企業で導入前より事故が減ったという。

 つながる機能は、ライドシェア(相乗り)や外部から最新情報を取り入れる自動運転車に欠かせない。業界の予測によると、現在は三割にとどまるつながる車の比率は二五年には五割を上回り、三五年には九割を超える。“車の情報化”は自動車産業と社会のあり方を大きく変えそうだ。

◆広がるサービス

 (4)スマホと車載の情報機器が連動。インターネットの検索履歴などから持ち主の好みや関心を把握し、外出の際にお薦めのドライブコースを提案する。カーナビ画面に、立ち寄り先の詳しい観光情報や、ルート沿いのレストランの広告が表示されることもあり得る。

 (5)日本中を走る車のワイパーの作動状況を集めれば、全国の降雨の様子を把握でき、リアルタイムの気象情報の提供に役立つ。ワイパーの速度でおおまかな雨の強さも分かる。電動化が進んで屋根に太陽電池を積む車が増えれば、晴れや曇りも分かるようになりそうだ。

 (6)独自動車大手ダイムラーは、ネットにつながる機能を活用しエリア内ならば自由に乗り捨てできるカーシェアサービスを提供する。ライドシェアは、スマホに内蔵された衛星利用測位システム(GPS)の位置情報でドライバーと利用者を結び付ける仕組みだ。

 (数字は上記イラストの番号)

◆プラットフォーム サービスを提供できる基盤

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 「プラットフォーム」は多くの顧客に多彩な製品やサービスを提供する基盤。顧客を囲い込むビジネス戦略として近年重視される。

 プラットフォームの運営者は、顧客と商品・サービスを提供する企業を結び付ける。顧客情報や販売動向のデータも握れる。

 ネット通販「楽天市場」や、米アップルの音楽サービス「アイチューンズ」が代表例だ。

 つながる車では、米アマゾン・コムやグーグルが生活全体に及ぶ基盤づくりを目指す一方、自動車メーカーも独自の基盤を求め、主導権を争っている。

◆価値の転換で車メーカー危機 関西学院大院・玉田俊平太教授に聞く

関西学院大大学院の玉田俊平太教授=兵庫県尼崎市で

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 自動車のインターネットへの接続や、自動運転技術は既存産業そのものをひっくり返す可能性がある。イノベーション理論に詳しい関西学院大大学院の玉田俊平太教授(50)に聞いた。

 −なぜそうなるのか。

 「イノベーションには『持続的イノベーション』と、新しい顧客に新しい価値観が提供される『破壊的イノベーション』がある。後者は、最初はおもちゃのような性能で既存ユーザーは見向きもしないため、既存産業にはうまみが少ないが、それに価値を感じる顧客を捉えて徐々に性能が向上し、気付くと既存ユーザーも乗り換える。こうなると新規参入者が常に勝利する」

 −具体的には。

 「カメラがフィルムからデジタルに替わった時、最初は画像も粗く、ばかにされていた。だが、安さと便利さで市場を席巻し、米コダックは破綻した。スマートフォンも出始めは、機能が少なかったが、アンドロイドやアップルがプラットフォームをつくると、便利なアプリが増え、NECやノキアなど携帯電話メーカーは敗れ去った」

 −自動車産業でもそういうことが起きるか。

 「車本来の目的は移動手段。自動運転やライドシェアが安くて便利と分かれば、ユーザーは一気に移る可能性がある。交通システムとつながれば、自動運転社会は早く来る。車メーカーは『走りの楽しさ』に価値を置くが、過去に『フィルムの方が味がある』と言っていたのと同じで危うい」

 −既存の自動車産業が生き残るには。

 「唯一の解決策は、社内に独立権限を持った別の組織を設けること。ソニーがゲーム機に進出した時、別会社にしたように。生き残る会社は、業態変化をいとわず、新しい事業を展開していったところだけだ」

 <たまだ・しゅんぺいた> 1966年、東京生まれ。東京大農学部を卒業後、旧通商産業省に入省。ハーバード大大学院で、破壊的イノベーション理論を学ぶ。経済産業研究所などを経て、2010年から現職。

◆情報どう守る 新たな課題

 「つながる車」の普及に伴い、サイバー攻撃にさらされるリスクも高まる。ほとんどの自動車には、小型コンピューターが搭載され、アクセルやブレーキを電子制御する。これがネット経由で遠隔操作される可能性があるからだ。

 米国では二〇一五年、フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)製の車が遠隔操作できる欠陥が発覚。具体的には低速運転時にハンドルが少し動かせる程度だったが、百四十万台がリコール(無料の回収・修理)された。

 生命の危険に直結する制御装置の守りは堅いが、デロイトトーマツリスクサービスの高橋宏之氏(41)は「車の可能性とともに、サイバー攻撃の可能性も広がる」と警告する。

 ウイルスをパソコンなどに感染させ、復旧のために金銭を要求する「ランサム(身代金)ウエア」と呼ばれるサイバー攻撃が、車に広がる可能性もある。IoTの世界では、誰が、いつ、どこへ移動し、何をしたかまでデータ化される。個人情報の防御も課題だ。

 日本自動車工業会は一月に作業部会を立ち上げ、情報共有を始めた。ただ、優先順位は車体の安全性より低くなりがち。高橋氏は「セキュリティーが優れた車の減税など、国や業界を挙げて重要性を社会に知ってもらう取り組みが必要だ」と指摘する。

 (文・福田要、宮本隆彦、岸本拓也 デザイン・伊藤潤 紙面構成・岩下理花)

 <ビッグデータ> インターネットや企業の情報システムに生成、蓄積される膨大な電子データ。人力では収集や分析ができないほど大量だが、技術の発達で活用できるようになった。

 <IoT(アイオーティー)> 英語のInternet of Thingsの略で「モノのインターネット」と訳す。あらゆるものが情報交換の対象となり、産業の効率を高めたり、生活を便利にしたりすると期待されている。

 

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