トップ > 特集・連載 > クルマ革命 > 記事一覧 > 記事

ここから本文

クルマ革命

<第3部>EV時代が来たら…揺らぐ製造ピラミッド

 電気自動車(EV)が新たな潮流になりつつある世界の自動車産業。ガソリンエンジン車の製造を前提にしてきた伝統的なモノづくりは経験したことのない大波に直面し、新たにベンチャー企業や電機メーカーも参入してきた。業界の地殻変動が予想される中、生き残りを目指す部品メーカーの間では「脱自動車」の動きも始まっている。

◆部品激減 中小は転機に苦悩

ディーゼルエンジンの燃料フィルターに使われる部品。この会社は売り上げの7割をエンジン車の部品に頼る=愛知県内の自動車部品メーカーで

写真

 年間出荷額の20%が消える−。ガソリンエンジン車がモーターで動くEVに変わると、部品が大幅に減り、メーカーの売り上げダウンは避けられない。日本自動車部品工業会がまとめた二〇一五年度の出荷データを「残る部品」と「なくなる部品」に分けると、自動車産業を支えてきた中小の関連メーカーに厳しい「EVの時代」が見えてくる。

 愛知県内のある企業。経営者の男性(65)は主要製品を載せた自社のパンフレットを開き、つぶやいた。「これも、これも、みんな使えなくなる」

 燃料配管の継ぎ手や燃料タンクのキャップなどを手掛け、従業員は百五十人。昨年の業績はトヨタ自動車の生産好調を受け、リーマン・ショック前を超える過去最高に。

 しかし、今ある製品の大半はEVには不要。もし全ての新車がEVになったら、売り上げの七割は吹っ飛ぶ。大市場の中国でEV重視の流れが強まっていることが気がかりだ。

 コストと品質の改善に汗を流す毎日。「大きな変化は分かるが、目の前の仕事をこなすのに精いっぱい」。男性は複雑な表情を浮かべた。エンジン関連部品に依存した経営を転換する糸口を見いだせないでいる。

 こうした悩みは、多くの部品メーカーに共通する。愛知県豊田市が昨年七月、市内の中小千社を対象にした調査では、回答企業の三分の一が「主要な自社製品が次世代自動車に採用される可能性はない」と答えた。新事業に取り組む必要性を感じつつも対策を取れていない企業は二割に上る。

 「ハイブリッド車(HV)を含め、ガソリンエンジンがすぐに全部なくなるわけではないし…」。別の中堅部品メーカー幹部は歯切れが悪い。

 熱湯の中に入れられたカエルは驚いて逃げるが、水をじわじわ加熱されると逃げる機会を失う。自動車関連企業などでつくる協同組合豊田市鉄工会の近藤邦彦事務局長(72)は警鐘を鳴らす。「危機は近づいているのに実感を持つ企業が少ないのが怖い。『ゆでガエル』になってしまうかもしれない」

◆EV普及で主役は… 電機企業が台頭

 EVは、エネルギーをためた蓄電池からエンジンに代わるモーターに電気を流し、車軸を動かす仕組み。変速機はなく、アクセルペダルに連動した制御装置で流れる電気の量を変え、速度を調節する。EVが普及すると、自動車の基幹部品が様変わりし、その主役に異業種の電機関連企業が躍り出ることになる。

 国内ではモーターで、日本電産(京都市)や安川電機(北九州市)、日立製作所などが主要プレーヤーになりそう。エネルギーをためる蓄電池はパナソニックや、NECと日産自動車の合弁会社オートモーティブエナジーサプライ(神奈川県座間市)、GSユアサ(京都市)などが注目される。

 パナソニックは一月、EVベンチャーの米テスラと共同で、米ネバダ州にリチウムイオン電池工場「ギガファクトリー」を稼働。テスラは二〇一八年にもEVの生産体制を年五十万台に引き上げる計画だ。

 韓国勢もLG化学が一七年にポーランド、サムスンSDIは一八年にハンガリーで工場を建設。欧州メーカーからの電池の受注を目指す。

 自動車業界に電機業界が大きく割り込んでくる構図だが、エンジン車で伸びてきた既存の部品メーカーにチャンスがないわけではない。例えばエンジンの冷却と同様に、EVでも蓄電池や制御装置の冷却は必要。愛知県の部品メーカー幹部は「ある程度はEVへの対応も可能だ」と話す。

◆ゴム→介護用マット/セラミック→人工骨 技術力で新分野

 EV市場の拡大をにらみ、自動車部品メーカーの間では、得意な技術力を生かし全く新しい分野を開拓する動きも出てきた。

 車の振動を吸収する防振ゴムや自動車用ホースを手掛ける住友理工(名古屋市)の西村義明会長(69)は「二〇五〇年ごろ、車からエンジンがなくなる可能性がある。そうなると、特にホースへの影響が大きい」と語る。同社は経営の多角化を急いでいる。

 その一つが今年三月に発表した、床ずれを防ぐ介護用マットレス。独自開発のゴムでできたセンサーが内蔵され、圧力が強い部分を検知。寝ている人の体格や姿勢に合わせ、ゴムの下にある空気袋が自動的に膨張、収縮し、体にかかる圧力をうまく分散する。

 エンジンに欠かせない点火プラグの世界シェアが四割を占める日本特殊陶業(同)も、医療・健康事業を強化する。「長い目で見てEVはエンジン車の脅威になり得る」。広報担当者は危機感を隠さない。

 同社はセラミック技術を生かし、一九九〇年代に医療用の人工骨を製品化している。今月、国立研究開発法人・産業技術総合研究所との連携研究拠点を名古屋市内に開設。セラミック以外の素材の活用も視野に、創薬や健康評価といった市場への参入を模索している。

 今後、EVそのものに照準を定める動きが出てくる可能性もある。中小企業の生き残り策として、業界内では「EVの航続距離を伸ばす鍵は軽量化。エンジン分野などで蓄積した軽くする技術があれば、大手と組むことができるかもしれない」との声が聞かれる。

◆量産化、欧米や日産先行

 EVの量産に向け、先行するのは日産自動車や欧米の自動車メーカーだ。

 日産は2010年12月、量産EV「リーフ」を販売し、世界で約25万台が売れた。カルロス・ゴーン会長は今年1月、「近い将来、自動運転技術を搭載した新型リーフを発売する」と明言。EVへの投資を拡大する構えを見せた。

 自動車の販売台数トップの独フォルクスワーゲン(VW)は昨年6月に発表した経営戦略で25年までに30車種以上のEVを発売すると表明。EVの年間販売台数を最大300万台に増やし、販売全体に占める比率を現在の1%から25%程度に高める。独ダイムラーも昨年10月、1回の充電で500キロ以上走行できる能力を発揮する電池の生産工場を着工した。

 テスラは、高級EVを中心に年間約8万台を販売。年内にも、価格をこれまでの半額以下の3万5000ドル(385万円)に抑えた「モデル3」の発売を目指す。

◆クルマの街が生き残り模索 豊田市、若手向けミライ塾

手作りした装置のデータを測定するものづくりミライ塾の塾生たち=愛知県豊田市で

写真

 会社名の異なる作業着を着た若者たちが、手作りの装置の前でデータ測定を繰り返していた。毎週水曜日の夜、愛知県豊田市で開かれている「ものづくりミライ塾」。自動車産業の枠を超えて製造業にイノベーション(革新)を起こせる人材を生み出そうと、豊田市などが2015年9月にスタートさせた。

 塾生は市内の中小自動車部品メーカーの若手40人。3グループに分かれて家庭用燃料電池に燃料を供給するための「水素発生装置」などに取り組み、2年かけて製品化を目指す。

 一日の仕事を終えた後とあって体は楽ではないが、メッキ加工会社の河越智仁さん(29)は「新しいものを創り出す仕事は経験がなく面白い」。講師を務めるアイシン精機出身の中川徹太郎さん(66)は「ここでモノづくりの喜びを味わい、会社に戻って今とはまったく別の新しい商品を生み出してほしい」と期待する。

 取り組みの背景にあるのは、自動車に偏った地域経済への危機感だ。トヨタ自動車や三菱自動車が立地する愛知県は14年の製造品出荷額の半分が自動車。県内総生産も自動車産業が20%近くを占める。豊田市は特に依存度が高い。リーマン・ショックでトヨタが赤字転落した時は直後の09年度の法人市民税は前年のおよそ30分の1に激減。市の当初予算は3分の2の規模になった。

 米国でも「ビッグスリー」と呼ばれた自動車大手3社を抱えたミシガン州デトロイトは20世紀半ばまで繁栄を極めたが、日本車の台頭などで3社が弱体化すると高失業率や治安悪化が慢性化。税収も悪化し、13年に財政破綻した。

 自動運転技術の進歩や電動化で「100年に一度」と言われる自動車産業の構造変化が予想される。ミライ塾を推進する豊田市ものづくり産業振興課の古巣道明課長は「今の部品を淡々と造っているだけでは乗り切れない」と断言している。

写真
写真

◇文・福田要、宮本隆彦、相馬敬、岸本拓也 デザイン・伊藤潤 紙面構成・岩下理花

 

この記事を印刷する

新聞購読のご案内

PR情報

Search | 検索