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クルマ革命

<第2部>シェア社会が来る 所有から共用へ

 「所有」から「共用」への移行が世界的な潮流になりつつある車社会。その影響は自動車産業にとどまらず、都市部の渋滞や過疎地の交通インフラを改善し、ライフスタイルや街の形を変える可能性を秘める。自家用車を活用した有償のライドシェア(相乗り)を禁止している日本でも、新たなルールづくりを求める意見が出始めた。

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 ライドシェアを急速に広げたのは、スマートフォンの存在だ。インターネットで無数の人々の需要と供給を瞬時に結び付け、衛星利用測位システム(GPS)の位置情報も簡単に入手できる。つまり、「共用する相手」を格段に見つけやすくなったわけだ。

 早稲田大の根来(ねごろ)龍之教授(64)は「運転者も乗客もスマホにアプリを入れるだけでライドシェアが利用できる。だから、事業者は設備投資が安くて済む」と普及の理由を解説する。

 こうした共用サービスは民泊や駐車場、洋服の貸し借りにも広がり、「シェアリングエコノミー」と呼ばれる。さまざまなモノの有効活用が新たなビジネスチャンスを生み、結果として「効率化」をキーワードにした社会の変化が進む。

 効率化によって激変しそうなのが自動車業界だ。米系コンサルティング会社デロイトトーマツコンサルティングによると、カーシェアやライドシェアが本格的に普及した場合、日米欧や中国などの主要市場で自動車の保有台数が最大53%減少するという。

 日常の足として使われる大衆車の販売は激減、体力のないメーカーは淘汰(とうた)されそうだ。さらに、自動車の移動コストは二〜三割下がると予想され、タクシーや鉄道の経営への影響も避けられない。一方で、日本の都市面積の15%を占める駐車場は余る可能性が高く、土地利用次第では、都市再生の糸口になるかもしれない。

 ライドシェアと同時に進化する自動運転技術。経営コンサルティング会社ローランド・ベルガーの貝瀬斉(ひとし)さん(41)は、この二つが融合する未来を描く。「移動中の車内が体を鍛えるジムになったり、過疎地で移動の足を確保したり。自動車メーカーは販売台数よりクルマの新たな付加価値、サービスを競う方向に転換していくのではないか」とみる。

◆割り勘、仲間づくりが魅力

ライドシェアサービス「のってこ」を利用し京都から東京を目指す人たち=愛知県刈谷市の刈谷ハイウェイオアシスで

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 自動車のライドシェアは、日本でも利用が始まっている。中でも人気なのが、長距離移動の相乗り仲間を探すインターネットサービス「notteco(のってこ)」だ。

 二月中旬、京都市伏見区の近鉄竹田駅前。三十〜七十代の男性三人が一台のミニバンに乗り込んだ。のってこを通じて知り合い、東京までの旅路を共にする。

 二〇〇七年にサービスを開始。ドライバーは相乗り相手をサイトで募り、利用したい人が申し込み、待ち合わせ場所や時間を決める。手数料はないが、会員登録と、運転免許証による本人確認が必要だ。

 ミニバンを運転するのは埼玉県内の会社員男性(57)。旅先の京都から自宅のある埼玉へ帰る際、同乗者を募った。対価をもらうと違法な「白タク」となるため、受け取るのは燃料費や高速代などを割り勘した実費のみ。この日は一人当たり三千六百円だった。

 男性は大阪に単身赴任していた一一年、帰省にのってこを使い始め、百回以上利用した。「交通費を安くできる点が良い。人との出会いも魅力」と語る。

 この日同乗した会社員の飯田祐亮(ゆうすけ)さん(31)も「実際に使ってみると便利だし、会話も楽しい」と話した。

 東京大の江間有沙特任講師(科学技術社会論)は「フランスでも同様のサービスが人気で、利便性プラスアルファの価値が受けている」と指摘する。

 のってこの会員数は約三万三千人、年間延べ四千〜五千人が利用する。男性が多く、女性にも安心して利用してもらう仕組みづくりを目指している。年内に会員五万人を目標とし、将来的には手数料をもらってビジネス化を図る。

◆高齢者の「足」に 三重で実証実験

「あいあい自動車」利用のお年寄りを送迎する安田さん(左)=三重県菰野町で

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 ライドシェアに熱い視線を注いでいるのは都市部より、交通手段の確保という切実な問題を抱える地方かもしれない。鉄道やバスなどに代わる移動手段として期待され、各地で試験運用が始まっている。

 三重県菰野町の健康施設の正面玄関に一台の車が滑り込んだ。「いつもありがとう。帰りも頼むね」。そんな言葉を残して施設の浴場へ向かった男性(88)を、運転席で見送る安田順子さん(68)は家族でもプロのドライバーでもない。町運営の高齢者向けの実証実験「あいあい自動車」に登録するボランティア運転手だ。

 町内の二地区で希望するお年寄りと運転手にタブレット端末を配布。お年寄りが端末で予約すると、その時間帯に動ける運転手に伝わる。利用者は十二人。料金は月千三百円のタブレット使用料と、十五分ごとの乗車料五百円と格安だ。

 安田さんを含め二十二人いる登録運転手が受け取る謝礼は十五分ごとに百七十五円とわずか。安田さんは「自分たちもいずれ車を運転できなくなる。その時、気軽に使える交通手段があったらいい」と活動に加わった理由を明かす。

 ただ、町の交通政策に助言する名古屋大環境学研究科の加藤博和准教授は「ボランティアの要素が強いため、利用者が遠慮して使いづらい面もある」と指摘。タクシーや町運行バスと組み合わせた交通体系を構想する。実証実験を導入した石原正敬町長(45)は「地域で最低限の移動手段を高齢者に確保するのは行政の役目。十年後に完成した形を出すための挑戦」と話す。

 同様の実証実験は、京都府京丹後市や北海道の中頓別町、天塩町でも実施されている。

◆白タク禁止の日本 安全確保に懸念の声

 日本では、自家用車を使った有償のライドシェアは「無許可タクシー(白タク)」として道路運送法違反となる。タクシー業界は、運行管理や保険加入が運転者任せのサービスに対し「安全面に多大な問題がある」と解禁に強く反対している。

 特に問題視しているのは、サービスの主体となるライドシェア企業が運転者と乗客の仲介をするだけで運行そのものに責任を負わない点。勤務時間の確認や乗車前の飲酒検査、車両点検などがおろそかになる可能性を指摘している。

 2020年の東京五輪に向け解禁を要望する声もあり、政府も内部で検討しているが、国土交通省は「安全確保や利用者保護の観点から問題」(石井啓一国交相)と解禁に消極的。ライドシェアの代表的企業である米ウーバー・テクノロジーズの日本での事業は現在、国内でハイヤー配車や過疎地での実証実験に限られている。

◆稼働率増へ新制度を ウーバージャパン・高橋正巳社長(35)

ウーバージャパン・高橋正巳社長

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 ウーバーは、需要と供給をリアルタイムで仲介する。自家用車は96%の時間は動いていないが、相乗りで使えば眠っていた資産の生産性が向上する。

 フランスの調査では、ライドシェアの運転手二万二千人の半数が以前は無職だったといい、職の創出にも貢献している。好きな時に好きなだけ乗車すればいいという柔軟性のある働き方が支持されている。

 海外のウーバーが普及した地域では、人の移動の情報が刻々と記録され蓄積されている。こうしたデータは、より効率的で安全な交通インフラの整備や都市計画に非常に役立つ。

 シェアリングエコノミーが日本の経済成長の原動力になるという認識はだいぶ浸透してきた。(ライドシェアが白タク扱いで違法となる)今の制度は、インターネットやスマホがなかった何十年も前に書かれたもの。技術の急速な進歩で生まれた新しい前提をベースにして新たなルールをつくる時期に来ているのではないか。(談)

◆自動車大手 普及備え

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 世界の自動車大手はライドシェアを手掛けるIT企業と手を結び、本格的な普及に備える。トヨタ自動車が昨年五月にウーバーと提携。ドイツ・フォルクスワーゲン(VW)はイスラエルの「ゲット」に約三百四十億円、米ゼネラル・モーターズ(GM)も米国の「リフト」に五百六十億円を出資し、協力関係を築いている。

 トヨタはウーバーが抱える多くの運転手に対し車両をリースするほか、ウーバーへのまとまった台数の法人販売などを検討している。これらは自動車の拡販に向けた短期的な利点だ。

 さらに自動運転普及をにらみ、研究での知見の共有も見据える。ウーバーの膨大な運行状況を含め、世界中で走るトヨタ車の数を増やすことで走行データを蓄積し、より安全な自動運転技術の確立を目指す狙いがある。

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 文・福田要、宮本隆彦、岸本拓也、石井宏樹、東條仁史 デザイン・伊藤潤 紙面構成・倉形友理、岩下理花

 

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