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クルマ革命

<第1部>自動運転の衝撃(5) 技術先行 追う社会

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 山あいの国道。緩やかなカーブに合わせ、ハンドルがひとりでに回る。速度は制限の五十キロより少し遅い。その慎重な「運転」は、まるで堅実な初心者だ。

 自動運転の開発を後押しする愛知県が主導する形で昨年十二月に豊田市の山間部で行われた実証実験。名古屋大の研究チームがトヨタ自動車の「プリウス」に人工知能(AI)を搭載した車の走りを地元住民が体験した。

 「お年寄りの送迎に使えれば、介護の人手不足に役立ちそう」。介護施設職員の太西敦子(54)はそう期待しつつ「カーブでは真ん中に寄り過ぎて少し怖かった」と漏らした。

住民が自動運転車を体験した実証実験=愛知県豊田市で

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 期待と不安が入り交じる心境は、県内四カ所の実験で試乗した県民百二十人へのアンケートからもうかがえる。八割程度の人が高齢者の移動や事故減少に役立つと感じつつ、同時に故障などを不安視した。

 公道を使った同様の実験は、石川県の珠洲市や輪島市、神奈川県藤沢市など全国で相次ぐ。国際的な開発競争で後れを取るまいと、国が道交法の規制を外す特区制度を設けるなどして推進の旗を振るためだ。

 しかし開発側には慎重姿勢も垣間見える。愛知県の実験車は自動で右左折できるが、安全性や確実性を優先し、今回は実演はしなかった。「もし事故が起きたら開発が止まってしまう。段階を踏んで慎重に進めている」と県の担当者は言う。自動車大手幹部も「自動運転は今はもてはやされているが、大きな事故が起きれば手のひらを返して『自動運転は危険だ』と批判されるだろう」と警戒する。

 自動運転車は故障していなくても間違いなく事故を起こすだろう、とのショッキングな予測がある。

 ロボットを東大に合格させるプロジェクトで知られる国立情報学研究所の教授、新井紀子(54)は「AIは未知のものを正しく判断するのが苦手」と指摘する。

 AIは大量のデータを読み込み統計的に人間や車、自転車などを認識するが、データがない物をどう判断するかは「やってみないと分からない」。例えば未知の新素材を使った物体と子どもが同時に道路に飛び出してきた時、物体をよけて子どもをひいてしまうことが起こり得る。「人間の感覚では絶対納得できない事故が間違いなく起きてしまう。その責任を誰が負うのか。大きな社会的課題」と新井は言う。

 日産自動車が二〇二〇年に市街地での実用化を目指すなど自動運転の開発競争は急ピッチ。だが、それを受け入れる法律や社会制度はまだ整っていない。

 東京海上日動火災保険は四月から自動運転のシステム誤作動で起きた事故の被害を補償する保険を提供するが、AIシステムが全てを制御するレベル4以上の自動運転は対象外。事故責任に絡む当事者が車メーカー、ソフト制作会社、自動走行のデータ通信会社、道路の管理者、車の所有者など多岐にわたり「法的責任のあり方が未整理」なためだ。

 一月にスイス東部ダボスで開かれた世界経済フォーラム(WEF)年次総会(ダボス会議)。日産の社長兼最高経営責任者(CEO)カルロス・ゴーン(62)の発言は、自動運転の時代を迎えようとするわれわれに問いを突き付ける。

 「技術は急速に進歩しており障害にはならない。最大の課題は社会の受け入れ態勢が整うかどうかだ」(敬称略)=第1部終わり。第2部は三月下旬に予定しています。(名古屋経済部・宮本隆彦、岸本拓也、石井宏樹、ニューヨーク支局・東條仁史が担当しました)

 

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