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クルマ革命

<第1部>自動運転の衝撃(3) AI技術者奪い合い

開放感のあるオフィスで気さくに語り合うAIの開発者たち=東京都渋谷区で

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 渋谷の街を見下ろす二十八階のオフィスに、ギターやドラム、卓球台が並ぶ。仕事の合間に弦をはじくジーパン姿の技術者たち。壁のホワイトボードは書き殴ったような数式で埋まる。「デンソーアイティーラボラトリ」。トヨタ自動車系の自動車部品メーカー、デンソー(愛知県刈谷市)の研究子会社だ。

 開放的なオフィスで働く社員は二十四人。自動運転に必要な人工知能(AI)の開発などに携わる。「技術者同士のオープンな対話が刺激になり、アイデアが出る」とラボの社長、平林裕司(62)。自由で快適な職場の提供は、技術革新に加え、熾烈(しれつ)さを増す人材獲得に欠かせない「武器」の一つだ。

 ラボが開設された二〇〇〇年当時、渋谷は米シリコンバレーになぞらえ、ビター(渋い)とバレー(谷)を組み合わせ「ビットバレー」の異名を取った。その後も「ライン」「DeNA」が本社を置き、モノがインターネットにつながる時代を迎えて渋谷=ITのイメージはますます定着。平林は「昔も今も、刈谷では無理なんです」と言い切る。

 ラボの社員も国の研究所やIT企業、家電メーカーからの転職組が大半だ。中でも自動運転に欠かせないAI技術者は、国内で専門教育を行う大学が少なく、「箱根の山を越えない」と言われるほど、人材が限られている。就職業界の関係者によると、転職の可能性がある国内のAI技術者は年間百人ほど。その即戦力に幅広い業種の採用担当者が群がる。

 自動車メーカーが「AI開発の全てを一社で手掛けるのは負担が大きい」(トヨタ幹部)ため、デンソーのような大手部品メーカーもスカウト合戦に加わる。「募集は、ありとあらゆる方法でやっている」と平林。広告やメールを使った直接勧誘は無論、ヘッドハンティングの専門業者も活用する。

 「人材の奪い合いは、日本だけではない。戦争に近い」。世界最大の自動車部品メーカー、独ボッシュの日本法人で自動運転開発を率いる専務執行役員のルッツ・ヒレボルド(50)も苦労を打ち明ける。海外では、すでにプロスポーツ選手並みの数千万円の報酬を保証するメールが飛び交っているという。

 ラボで「言葉」をテーマにAI開発を進める内海慶(35)は「研究の自由度が高かったから」と、四年前にヤフーから転職した。自動車業界に携わろうという意識はなかった。だが、最近は、自動運転に任せて運転者が寝ないよう促したり、言葉で車を操作したりする技術が「十年先には必要になる」と、クルマづくりの近未来を見据える。

 日本の自動車産業には戦争直後、製造が禁止された航空機産業から優秀な人材が集まり、異業種の力によって車の性能が飛躍的に高まった。クルマづくりが劇変する今、世界規模の人材獲得競争に勝ち抜き、再び技術革新を起こすことができるか。(敬称略)

 

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