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高校生・大学生

<自殺防止 大学の対策>(下) メール活用、面談と両輪に

学生相談室に来る学生が抱える悩みの一例(イメージ)

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 大学生を含めた若者九人が犠牲になった神奈川県座間市の事件は、インターネット上に「SOS」があふれている事実もあぶり出した。若者の主なコミュニケーション手段がネットに移る中、対面による面談が主だった大学の学生相談も対策に乗り出した。

 今年四月、静岡大・浜松キャンパス(浜松市中区)。新入生向けの学生相談室のガイダンス冒頭、会場に少女のキャラクターが映し出され、人工音声が流れた。

 「カウンセリング申し込み用の電話番号と、アドレスを登録してください。相談の練習として、大学生活で心配なこと、不安なことを書いて送ってください」

 おもむろにスマートフォンを取り出す学生たち。「メールは楽だし、誰にも見られないのがいい」と一年生の前田明人さん(20)ら。カウンセラーの太田裕一・保健センター准教授(52)は「八割以上がメールを送ってくれる」と話す。

 同キャンパスには約四千人の学生がいて下宿生も多い。相談室には学業や人間関係につまずき、引きこもった学生を親や教員が連れてくることもあったが、相談数は少なかった。

 「相談の敷居を下げたい」と、太田さんは二〇〇九年からメール相談を始めた。瞬時に反応が返る「即レス」に慣れた学生に対応するため、常にスマホでメールを確認し、できるだけ早く返信する。

 相談数は以前の約四倍になり、さばききれないほどだ。「生きていていいのだろうか」「自分からは死ねないから事故に遭えたらいい」と、SOSが学生から届く。「死にたい」と訴えるメールが来て、周囲と連携を取り有効に対応できたこともある。「相談室に来られなくてもメールで助けてと伝えられる人はいる」

「学生相談室の敷居を下げたい」とメール相談を受け付ける太田准教授=浜松市中区の静岡大で(一部画像処理)

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 一方、京都大(京都市左京区)は、九月から、オンライン相談で実績のある業者に学生相談の外部委託を始めた。全国初の試み。

 引きこもっている学生や相談室の開室時間に来られない学生も、メールやビデオ通話を利用し相談できる。夜間も土日も可能だ。すでに約三十件の利用があり「意義があった」と杉原保史・学生総合支援センター長(56)。

 ネットは学生がアクセスしやすい半面、課題もある。若者の自殺問題に詳しい佐藤純・茨城県立医療大教授(教育心理学)は「スタッフにはメール特有の相談技術が求められ、予想以上に時間もかかる。すぐ対応してもらえなかったと不満が生じる可能性もある」。

 窪田由紀・名古屋大教授(臨床コミュニティー心理学)は「ネットでの相談は顔が見えない分、危険な人につながる可能性もある。そのことを伝える教育も大事」と指摘する。

 大学側も、ネットを活用しつつ、本来の対面の相談も重要と考える。「リスクが高い人ほど教員や家族と連携する必要があり、メールでやりとりしながら面談につなげる機会を待つ」と静岡大の太田さん。京大も、「基本は学内の専任の相談員が対応すべきで、あくまで(ネットは)補完的な利用」と杉原さん。だが、実際はカウンセラーの数は足りず、相談の予約がすぐに取れない大学もある。

 ネット上の自殺防止活動に詳しく、学生相談の現場も知る末木新(はじめ)・和光大准教授(臨床心理学)は「スマホ一つでSOSを出せるのがネットの良さだが、自殺リスクの高い人の気持ちに共感し、受け入れて相談に乗るのは余力がないと難しい。学生相談やボランティアに任せるだけでなく、ネット上の相談窓口を公的につくるなど、国民全体で根本的な自殺防止策について考える時期にきているのではないか」と語った。

 (芦原千晶)

 

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