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高校生・大学生

<スタッフが聞く> 山田泰広・京都大教授

山田泰広さん

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 京都大の山中伸弥教授がヒトの人工多能性幹細胞(iPS細胞)を作ることに成功して間もなく十年。いったん成長した体の細胞の“運命”を巻き戻し、さまざまな細胞に変えるiPS細胞を作る技術は、再生治療や薬の開発だけでなく、がん研究にも活用が広がっている。高校生スタッフが研究の最前線を訪ねた。

 訪ねたのは、京都大iPS細胞研究所(CiRA)の山田泰広教授(45)=岐阜市出身=の研究室。部屋を仕切る壁がなく、広いフロアにいくつもの研究室が共存する「オープンラボ」スタイル。白衣姿の研究員が行き交い、キョロキョロと辺りを見回すスタッフに、「他の研究者と気軽に情報交換や議論できることがメリット」と笑顔で話した。

 ここで山田教授は「iPS細胞を作る技術を使い、がん細胞の“運命”を変えたい」と研究する。「SFのような話かも」と前置きし、こう解説してくれた。

 ヒトの体は数十兆個の細胞でできている。元をたどればたった一個の細胞(受精卵)だが、分裂を繰り返して心臓や血液、骨といった体の細胞が作られる。いったん分化した細胞が自然に元の姿に戻ったり、別の細胞に変わったりすることはない。

 この「ルール」を覆したのが、山中教授が開発したiPS細胞を作る技術だ。皮膚などの細胞に特定の遺伝子を組み込むと、受精卵のような状態に戻り、さまざまな細胞に変化する「iPS細胞」ができる。つまりiPS細胞を作る技術によって、細胞の「時計の針」を巻き戻せるというのだ。

 いったん成長した細胞がiPS細胞になると、「DNAの使い方」がリセットされるという。一体、どういうことだろう?

 細胞の核にはDNAがあり、アデニンなど四種類の塩基(A、C、G、T)が暗号のように並んでいる。この情報を基に細胞に必要なタンパク質が作られ、私たちの体が形づくられる。

 不思議なのが「どの細胞も、同じDNAを持っている」ということだ。情報が同じなら、同じ細胞ばかりができてもおかしくない。でも実際には、見た目も働きも全く異なる二百種類以上の細胞が作られている。

 山田教授は「DNAの使い方が異なるため」と説明する。例えば、DNAが全身の作り方を記した設計図だとすると、脳の神経を作る場合は、設計図の中の神経に関する情報を使い、足の筋肉の情報は使わない。

 どの部分を使うか使わないかを決めているのが、設計図に付いた“目印”だ。さまざまな種類の細胞は、この「DNAの使い方」をコントロールする仕組みによって作られているという。

 がんは、これまでDNAに傷が付くことで発症すると考えられていた。しかし最近の研究では、DNAは正常なのに“目印”が不必要な場所にあったり、あるべき場所になかったりして「DNAの使い方」に異常が生じ、がんが引き起こされる場合もあることが明らかになってきた。

 こうした異常を、iPS細胞を作る技術でリセットすることで「がんの性質を完全に失わせることができるのではないか」と山田教授。「一種類でも多くのがんのメカニズムを解き明かし、新しい治療法の開発につなげたい」と語った。

 高校時代、建築家になろうと考えていた山田教授。病気で入院したことがきっかけで医学部に進路を変えた。大学生のときに、ノーベル賞を受賞した利根川進博士の研究に関する本に刺激されて研究者の道へ。「研究は失敗の連続だが、だからこそ一つ成功したときの喜びが大きく、楽しい」

 スタッフたちに「何事も好奇心を持って取り組むことが重要。『やらなきゃ』ではなく『やりたいからやる』と思えるものを見つけて」とエールをくれた。

 やまだ・やすひろ 1997年、岐阜大医学部卒。マサチューセッツ工科大ホワイトヘッド研究所研究員、岐阜大准教授などを経て、2010年から現職。専門は腫瘍病理学。研究者になったのは、大学時代に読んだ本「精神と物質〜分子生物学はどこまで生命の謎を解けるか」がきっかけ。

◆スタッフ感想

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 大津桃花(高2・愛知県稲沢市) 見学させてもらったオープンラボに驚いた。苦労が多い研究の中でも、仲間と助け合える環境が整っていれば、新しいアイデアが浮かんだりひらめいたりする。研究にはチームワークも大切なんだと感じた。

 竹村有紗(高2・名古屋市名東区) 山田教授は高校時代に建築から医学部に進路変更した。進路選択を迫られている今の自分に置き換えると、勇気のいる決断だ。でも一歩踏み出せば、人生を懸けて没頭できるものに出合えるかもしれない。

 堀田万理恵(高2・同市昭和区) 大切にしていることを尋ねると、山田教授は「世界初の研究をすること、好奇心を持つこと、そして楽しむこと」と語った。想像もつかないような苦労があるかもしれない。でも私も研究者になりたいと思った。

 村田結子(高1・愛知県春日井市) 研究者といえば気難しいイメージがあったが、山田教授に会ってガラッと変わった。研究は失敗の連続だそうだが、研究の話をするときはキラキラとしていて、全身で「楽しい」と言っているように見えた。

 

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