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高校生・大学生

夢の「クモ糸繊維」実現 石油由来に代わる新素材に

 ポリエステルやナイロンといった石油由来の繊維に代わる新しい素材が注目を集めている。クモの糸を人工合成してつくる、その名も「QMONOS(クモノス)」だ。高校生スタッフは、世界で初めて量産化に成功したベンチャー企業「スパイバー」の菅原潤一さん(32)を取材した。クモの糸がもたらす未来とは−。

 愛知県岡崎市の分子科学研究所が開く講演会に登壇するため、同市を訪れた菅原さん。高校生スタッフに「世界の人口が増える中、このまま石油製品を使い続けていたら危ないと思いませんか?」と問い掛けた。

クモ糸タンパク質の新素材を開発したスパイバーの菅原潤一さん(右)に取材する高校生スタッフたち=愛知県岡崎市の分子科学研究所で

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 人類は今、地球温暖化や資源の枯渇といった問題に直面している。「クモ糸のタンパク質を使い、石油に頼らない持続可能な社会を実現しようというのが僕たちの挑戦です」と語った。

 誰もが引っ掛かった経験があるだろうクモの糸。切れやすく頼りないイメージがあるが、強くて伸びるという相反する性質を兼ね備えた「夢の繊維」という。

 衝撃を吸収する力に優れている。「クモが直径一センチの太さの糸で巣を張った場合、計算上は、時速三百キロメートルのジェット機をキャッチできる」と菅原さん。一九九〇年代には米航空宇宙局(NASA)なども研究を進めていた。

 実用化を阻んでいたのが生産コストだ。菅原さんによると、世界で一番使われている石油由来のポリエステルは一キログラム当たり百〜二百円、蚕が作り出す絹は一万〜二万円かかる。普及には、少なくとも一キロ一万円の壁を破らなければならない。

 大学生時代、この難題に研究室の先輩(現社長の関山和秀さん)と挑んだ菅原さん。クモは肉食で共食いし、蚕のように飼うことが難しい。そこで選んだのが「糸をクモではなく微生物に作ってもらう」方法だ。

 そもそも、クモ糸は主にフィブロインというタンパク質でできている。クモから、このタンパク質を作る遺伝子(設計図)を取り出し、微生物に組み込んで培養することで「ヨーグルトを作るのと同じように量産できる」と考えたのだ。

 とはいえ微生物にとって“異物”のタンパク質は作りづらく、初めて採れた糸はたった二センチ。効率よく生産しようと取り組んだのが「遺伝子のデザイン」。つまり微生物好みのタンパク質に設計図を書き換える。

 タンパク質は二十種類のアミノ酸が鎖のように連なってできていて、どの種類のアミノ酸を、どの順番でつなぐかで性質が変わる。

 ブロックを一つ一つ組み合わせるような地道な研究を始めて約四年、ようやく量産に適した配列を突きとめ「一万円の壁を突破する可能性がみえた」という。

 取り出した粉末状のタンパク質を、いったん溶かしてから糸に加工する技術も確立。「衣類だけでなく、自動車の部品や医療の分野などにも応用したい」と語った。

 高校時代はサッカー部で「生物が苦手だった」と菅原さん。大学入学後の授業で「二十一世紀はバイオの時代」と聞き、クモ糸の研究にのめり込んだという。

 起業して三年間は無給でアルバイト生活。成果が出なくて投資を断られ、倒産寸前だったこともある。それでもあきらめなかったのは「人類が直面する問題の解決に貢献したいという思いがあったから」と話す。

 スタッフに「どんなことでもいい、情熱を傾けられる何かを見つけて」と菅原さん。見せてくれた「QMONOS」は、キラキラと輝いているように見えた。

◆スタッフの感想

 板垣 杏奈(高2・名古屋市天白区) 実際にクモ糸の人工繊維を触らせてもらうと、柔らかくてシルクのような触り心地だった。ここに来るまで相当な苦労があったそうだ。今後さまざまな製品に取り入れられ、実用化されるのが楽しみだ。

 黒田 桃花(高1・同市千種区) 菅原さんが放った「与えられた境遇を120パーセント生かす」という言葉が心に響いた。私にも夢がある。クモの糸のように頑丈で粘り強い心を持って階段を一段一段上がり、その先にある景色を見てみたいと思う。

 酒井 風(ふう)(高1・同市昭和区) 取材は驚きの連続だった。NASAにもできなかったような挑戦でも、熱意があれば世界は少しずつ変えられる。人間が知恵を出し合って考え続ければ、できないことはないのかもしれないと思った。

 千田真望天(まのあ)(高1・岐阜県各務原市) クモ糸という地球に優しい素材を自動車部品などに使おうというアイデアを聞き、画期的だと思った。難しい研究が身近なものに感じてきた。理系ではないが、今回の取材で科学にも興味がわいた。

 <菅原潤一(すがはら・じゅんいち)> 1984年4月、東京都生まれ。慶応大環境情報学部に在学中の2007年、山形県鶴岡市にベンチャー企業「スパイバー株式会社」を設立。取締役兼執行役。尊敬する歴史上の人物は「それまでの常識を覆した」という理由で、チャールズ・ダーウィンとガリレオ・ガリレイ。

 

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