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滋賀・呼吸器事件 再審決定

西山美香受刑者の手紙(中)強要されたうそ 角雄記(大津支局)

両親にあてて「わけのわからなくなって」とパニックに陥った自白の場面を振り返る手紙(一部画像処理)

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 「呼吸器のチューブを外して殺した」(供述調書)

 殺人の手口になるこの供述を、当時二十四歳の看護助手(資格不要)だった西山美香受刑者(37)=殺人罪で和歌山刑務所に服役、再審請求中=は逮捕される前、取調室で自ら語りだした。強要も、脅しもなかった。裁判での否認を受け入れなかった理由を二〇〇五年十一月、一審大津地裁の判決はこう書く。

 「身柄拘束を受けない状態で/自ら殺人の事実を供述し/自白には極めて高い自発性を認めることができる」

 しかし、彼女はその後もずっと「殺ろしていません」(原文のまま)と刑務所から両親に書き続けている。なぜ「自白」したのか。

◆窮地の同僚かばう

 「(呼吸器の)アラームは鳴っていたとうそをついてしまい/つじつまがあわなくなって/(看護師の)○○さんにメールしたら『私はもうだれとも話が出来る状態ではない』と届いて○○さんを追いつめてしまったと思いもう私が殺ろしたことにしようと思った」(〇六年四月の両親への手紙)

 重要なのは、殺人という致命的な「うそ」の自白をする出発点は、人工呼吸器のアラームが「鳴っていた」と言ったうそだったことにある。その理由を、弁護士あての手紙で「なっていいひん(=いない)もん(を)なったとは言えんと抵抗してましたが/(A刑事が)机をバンとしたりイスをけるマネをしたり」と書き、大阪高裁にあてた再審の上申書では「(死亡した患者の)写真をならべて/机に顔を近づけるような形に頭を押し付けてきました。こわくてたまらなかった」と訴える。

 死亡の背景に、看護師が居眠りしてアラームを聞き逃した「過失」があったとみる警察は、死亡から一年たっても「鳴っていた」という証言が取れず、捜査が立ち往生。のどから手が出るほど欲しかった「鳴っていた」との供述を得たA刑事が一転して優しくなる場面を、彼女は同じ上申書にこう書く。

 「私は幼いころから兄が優秀で比べられ/他の人は兄と比べて私はだめ人間みたいに言ってきたのに、A刑事は、西山さんはむしろかしこい子だ、普通と同じでかわった子ではない/心を許していこうと思ったじんぶつでした」

 Aの好意を受け続けようとして一カ月近く「鳴った」と言い続けた彼女は、当夜の当直責任者の看護師に「聞き逃した」という追及が日ごと激しさを増していると知って責任を感じ、供述を撤回しようと「実は鳴っていません」と書いた手紙を携え、何度も警察署を訪ねている。

 「自白」の一週間前には午前二時十分という尋常ではない時間に手紙を届けた。だが、警察はがんとして「撤回」を受け入れず、「居眠り看護師による過失致死」事件に向かって突き進んだ。袋小路に陥った彼女は「鳴っていた」ことにして、同僚を救うしかなくなった。それが「自分のせいにする」ことだった。

 殺害の自白をする二日前に書いた自供書にはこうある。

 「やけくそで布団をかけたら、なんかジャバラ(呼吸器の管)がはずれたような気がした」

 自白した日の自供書ではこう変わる。

 「呼吸器のジャバラの部分をひっぱってはずしました」

 同じ〇四年七月二日、A刑事が書き上げた供述調書は最終的にこうなった。

 「呼吸器のチューブを外して殺した。私がやったことは人殺しです」

◆自滅して出た言葉

 これを判決は「極めて高い自発性がある」と決め付けるが、そうだろうか。「アラームが鳴った」という誤ったことを半ば暴力的に言わされ、強要され続けた「うそ」を前提にした自白は「自発性」を論じるに値するのか。夜も眠れないほど悩み、取調室で自滅していくように出た言葉を「自ら供述した」と額面通りには受け取れない。

 「アラームはなっていたと嘘(うそ)をついたらどんどんうそになってわけのわからなくなってしまいました」(〇五年八月の両親への手紙)

 自白する日の午前中、彼女は病院の精神科を訪れた。「不安神経症」と診断した医師との問診で、驚くべき言葉がカルテに残されている。

 「実はアラームが鳴っているのを聞いた。看護師さんが鳴っていないと言うのであわせていた」

 警察に強要され続けたうその呪縛から逃れられず、医師にさえ、うその供述をおうむ返しに言うことしかできなくなっていたのか。

 最後の言葉は「嘘を続けられなかった。自分は弱いのか?」。うそと本当が倒錯した問いをカルテの最後に見た専門家は言う。

 「うつ状態。いつ自暴自棄になってもおかしくない」

 自白の供述は、診察の数時間後だった。(次回は28日)

 

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